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レラシオン~時の使者~  作者: 時々
勇者と魔王編
12/19

進化した魔物

お久しぶりです。データの復元が出来たのでぼちぼち投稿を再開します。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。

 デミットマターの突然変異。討伐ランク、測定不能。本来、魔物のランクはD~SS。それ以上は測定不能となっている。測定不能ランクの魔物は龍種など希少種が多いため一生のうちで一度見ることができるかどうかといったほど珍しい。強さはSSランクの魔物より強い個体が測定不能の基準であり、SSランクの魔物がギリギリ勝てないほどの魔物からSSランクの魔物が千体いても全くかなわないほどの魔物までいるため強さの基準は他のランクの魔物よりだいぶふり幅が大きい。


 僕たちの前にソレは現れた。本来の盗伐対象はデミットマター。黒い霧のようなものをまとっており、使い古された剣を腰から下げている騎士の成れの果てのような魔物だ。使い古されたといってもその剣は容易に折れはしない。剣にも黒い霧がまとわりついていて異様なほど固いのだ。全身も黒い鎧に覆われていて初見だとそれだけで気圧されるほどの威圧感を持っている。


 攻略法はまず支援魔法で機動力を奪う。そして前衛を務めるものが剣を受け、遠くからフレンドリーファイアに気を付けつつ攻撃魔法を打ち込む。これが一般に知られる攻略法。

 普通はAランク冒険者が5人くらいいれば大抵問題なく倒せる。


 デミットマターの突然変異種。魔物名はリジット。本来魔物の突然変異が起こる確率は限りなく0に近い。魔物は大気中の魔素が集結し意思を持った個体。自意識はないが基本的に負の感情で構成されているので破壊衝動に本能が引きずられるのだ。もちろん魔素の種類によって好戦的な魔物から無害な魔物までいろいろな個体がいるのだが。


 突然変異とは本来生まれるはずだった魔物を構成する魔素に異物が大量に含まれた時に起こる。つまりこの場合この森で本来漂っていた魔素を狂わすような出来事がなければリジットが生まれるのはあり得ない。しかもその身に宿っている力は測定不能までに至っている。そんな魔物が王都のこんな近くで生まれるとは尋常な事態ではないが、さっきから感知を最大にしても変わったことは確認できない。森の中の異変を確認できていない。おまけに測定ランク不能ともなれば一体だけでも甚大な被害が出るというのに、目立った被害はない。


 ノワールたちはすでに感じ取っていた。目の前に立つ2体のリジットに宿る経験の深さを。この森は広大だ。一番強いのはデミットマター。そして本来徘徊しているはずのデミットマターを今日は一度もみなかった。つまり2体のリジットたちは同族殺しを行い進化したのだろう。


 突然変異でなく成長。これなら納得がいく。長い時間をかけ進化した魔物。まるでヒトのように自力でその強さまで至った。このような魔物の存在はあまり知られていない。理性を持っているからむやみに襲って気もしない。姿を隠すのも上手い。これらも理性を持った魔物の目撃証拠が少ない理由の一つだ。


 全身を黒の鎧で覆っているのと灰色で覆っているリジットたち。剣はすでに抜き身。正眼に構えこちらの様子をうかがっている。


「みなさん! いきますわよ! まずは敵の足止めを!」


「おう。任せてもらおう。」


 先に動いたのはこちらの6人。常套手段である機動力を奪うつもりだろう。セルリアがトムに指示を出しトムは土属性の“アームシェル”を使う。リジットたちの周りが隆起しそのまま閉じ込めるように一気に狭まりドーム型に覆う。かなり魔力を込めたようだ。閉じ込めている間に他の者が体内で魔力を練り上げ、強力な魔法を詠唱するつもりだろう。リジットたちがアームシェルを破った瞬間に高威力の魔法で一気にトドメをさすつもりらしい。


 本来ならこれで終わりだろう。デミットマターは魔法耐性が高くない。拘束魔法を破り硬直した瞬間を狙えば倒し切れる。魔法の使い手が6代魔法家の次期当主たちなら相当威力の高い魔法も使えるのだろう。


 風が切れるような音がする。戦闘の様子を後方からじっと見ていたノワールがそっと体を横にずらす。ちょうど半身になるように左足を後ろに引いた。


 次の瞬間、鼻先をかすめる剣先。ズガンッッ!と大きな音を立てながら地面をえぐる巨大な剣。

振り向くとすでに剣を正眼に構え治している2体のリジットたち。どうやら拘束の魔法は避けたらしい。やがて黒いほうが話しかけてくる。


「ヤハリナ……。オマエガ、イチバン、ツヨイ」


 その言葉に少しの驚きをノワールは示す。


「驚いたな。会話もできるのか」


「オレタチハ、ツヨイモノト、タタカイタイ」


「ほう。ならあいつらにしてもらったらどうだ。6人とも最高峰のギルドのメンバーで有名だ。対して俺は有名でも何でもないただの冒険者」


 ノワールがセルリアたちを指さしながら言うが、リジットたちは見向きもしないでノワールの問いに答える。


「ザレゴトハ、ヨセ。サァ、タタカエ」


 どうやらただ純粋に力を追い求めた結果進化したという推論が正しかったようだ。強くなるわけだ。これだから理性を持つ魔物は怖い。本来魔物はヒトよりもスペックで優っているため、成長が早いのだ。


 ノワールは戦いが嫌いではない。だが復帰してからの相手がいきなりこんな大物とは腕がなるが。


「あなたたち! 状況が分かっているの!? 早くどきなさい!」


 肩透かしを食らったセルリアたちが慌てて戻ってくるが、もはや戦闘に頭を切り替えたノワールには無意味な声は届かなかった。


「アイ」


「りょーかいです! “黒刀顕現”」


 たった一言で意図を察したアイが自らを武器の姿に変える。もう一つの姿、黒刀“哀歌”。ノワールは手に収まる久しぶりの愛刀に高揚する。相手にとって不足などない。ぶらんと黒刀を握った右手を地面に垂らし、全身の力を抜く。


「そっちの灰色さんは、どうする?」


「モチロン、タタカウ。」


「ノア、ユヅキ、コハク。3人で相手しろ。負けるなよ」


 普段の温厚な口調とは裏腹に、彼の威圧的な命令が響く。しかしほかの3人はなれたかのように無手の構えをそれぞれがとる。


 ノワールは戦闘になると感情が荒くなる癖がある。口調も一人称が俺になり、命令口調になる。が、これはそれだけッ先頭に集中するぞという表れでもある。


「マスターがいる前で、無様は許されないなの」


「姉さんの言う通りです。マスターの命令は絶対。私体は弟子として敗北は許されません」


「にぃに。うれしそう。ぜったいかって、あとでいっぱい、ほめてもらう」


「ワタシノ、アイテハ、アナタタチ……。ノワールトカイウ、ショウネンヨリハ、ヨワソウダケド、ツヨイ」


ノアたちの高まる闘気に体の向きを変える灰色のリジット。


「イクゾ!」


黒色のリジットの声が合図となったように、異次元の戦闘が幕を上げる。



♦♦♦



 声と同時に姿が消える黒色のリジット。ノワールも呼応するように消えるような速さで突っ込む。このレベルになると距離という概念は存在しない。一瞬で両者の距離が互いにつぶされる中でノワールはリジットの剣の間合いギリギリのところで急制動をかける。目の前に振り下ろされる剣。鼻先に生じる剣風を感じながら剣が地面に飲み込まれる瞬間まで待つ。

 すさまじい勢いで地面に突き刺さる剣。瞬間、ノワールは振り下ろされた剣の腹を思い切りけりつける。剣を蹴られた反動で軽く体が流れたリジットにノワールは黒刀を水平に凪ぐ。

 リジットは水平に振るわれたノワールの黒刀を流された体を逆らわずに一回転させてそのまま剣を刀に合わせるように水平に振るった。


ギィィィィィン!


何かの冗談のように刀と剣が水平に重ねるようにぶつかり合う。


 力はリジットのほうが上のようで強引に後ろへ吹き飛ばされるノワール。空中で体をひねって地面に左足から着地。そしてつま先が地面についた瞬間に再び加速し一瞬でリジットの背後に移動。しかしその刀は空を切り、代わりに背後に感じる気配。振り向きもせず手首を返して刀を下から振り上げる。

 リジットは振り上げられた刀の間合いから逃れるために後ろに飛びずさり、間合い外から思い切り剣を横に振ってくる。

 ノワールの耳に届く何かが空気を切る音。この怖気を伴う気配、知っている。察したノワールは地面すれすれに体を倒す。


 数秒後、彼の後ろの木々が倒れる音が森に響く。リジットは今、斬撃を飛ばした。しかも受ければあっさり体が真っ二つになるほど威力が高い。


「イマノヲ、ショケンで、カワスノカ」


「俺も、修羅場はくぐってきているつもりだ」


「オマエハ、マダ、ホンキヲダシテナイ」


「お互い様だろ」


「ヨウスミハ、オワリダ!」


 瞬間、今まで以上に高まるリジットの闘気。周囲の空気が震えるのがわかる。


「明鏡止水」


 ノワールがつぶやくとリジットとは逆に周囲に漂っていたノワールの闘気が消える。刀の切っ先を地面すれすれにたらし、ゆっくりと左足を前に出し、半身の構えになる。


リジットは何かを感じとったかのように全身に黒い霧をまとい守りに入る。


ノワールが一歩踏み出す。水面に静かな水文が漂うかのように。


ザン!


「カハッ……」


黒い光が空気を裂く。

宙に舞う片腕。

 リジットは理解できなかった。ただ己の腕が切られたことが分かった。


「ナニガ、オキタ」


 リジットは、いつの間にか背後に立っているノワールの背中に問いかけた。

ただ、知りたかった。リジットは己が認識すらできなかった攻撃の正体を。


 もう長い間、満足できる相手がいなかった。それなのにたやすく腕が落とされた。


「重かっただろ? 今の一撃は」


いたずらが成功したかのような笑みで聞いてくるノワールに、リジットはただただこの出会いに感謝した。


「ミゴトダ。オマエニ、タノミガアル。サイゴニ、ゼンリョクヲ、ダシテホシイ。ワレモ、ツギノ、イチゲキ二、スベテヲカケル」


そう言って残った片腕に剣を持ちその剣に黒い霧がまとわりついていく。今までとは比較にならないほどの威力が剣一本に宿っていくのが分かる。


(強いね。マスター。それに戦っていて嫌な感じが全くしないよ)


 念話で話しかけてくるアイに内心でうなずくノワール。この戦いは楽しかった。たとえ相手が魔物であっても。宣言通りに次の一撃が最後になるだろう。


 礼儀には礼儀で返す。


 ノワールは周囲から一瞬で霊気を収束する。明鏡止水は空気の流れのままに歩法で相手をだまし絶対の一撃を不意打ちで叩き込む技。今度のは違う。真正面から相手を切る。


「オォォォォォォォォ!!」


 リジットが吠えながらありったけの力を込めて剣を振り下ろす。黒い衝撃波の塊がノワールに迫る。その威力は森を完全に消滅させることができそうなほどだ。


 が、ノワールは一切動揺することはない。技を出す前に心が乱れるのはよくない。動揺が刀筋まで影響を及ぼす。ただ自分の技だけ考えればいい。


「霊刀術“絶空”」


 刀の極地。解き放たれる霊力。黒い霧の塊とリジットの体に斜めに刻まれる一本の線。続いて納刀。刀と鞘が触れ合う澄んだ音が戦闘の終幕を告げる。


「オマエノ、カチダ」


 最後にそう言って消えていくリジットをノワールは静かに見つめていた。

後に残るは消えたリジットの場に残る大きな魔石。魔物は倒されると魔石を残す。純度と大きさは魔物の強さに比例するが、今回のは別格だった。まぁ、ランク測定不能の相手だから当たり前だが。


「お疲れさまです! マスター」


 元に戻ったアイにねぎらいの言葉をかけられながら、ノワールはまだ戦っているノアたちの様子を見るために少し離れてしまった元の場所まで戻るのだった。



読んでいただきありがとうございます

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