プロローグ
「うわぁぁぁん…!お父さん…お母さん…どこに行っちゃったのぉ…?」
薄暗い森の中、私は一人泣きながら立ち尽くしていた。
両親と幼馴染との四人で来ていた楽しいピクニックのはずが、可愛らしい兎の後を追っていたらいつの間にか一人森の中へと迷い込んでいたらしい。
右も左も、見回す限り木が立っている風景しか見えず、帰り道もわからずに途方に暮れて、歩くのにも疲れてその場で立ち尽くして一人泣きじゃくっていたんだけれど。
ガサリッ!
と、背後から葉音がして、ビクッと体を震わせて振り返るとそこには一人の男の子が立っていた。
年の頃は、私と同じかそれより少し上か、少し下かは分からないけれど、そんなに変わらない年だと思う。
その男の子は涙目のまま驚いて固まる私に優しく話しかけてくれたんだ。
「どうして、こんなところで泣いてるの?」
「ふぇっ…ひっく…帰り道が…わからないのぉ…」
「それって、もしかして迷子ってこと?」
「うっ…ぐすっ…お家に帰りたいよぉ…!」
「あ、泣かないで。大丈夫、僕が出口まで一緒に連れて行ってあげるから」
「ぐすっ…本当に…?帰れる…?」
「うん。帰れるよ。僕この森には詳しいから出口もちゃんとわかっているから安心して」
そう言って、男の子は私に優しい笑顔を向けて、手を差し伸べてくれた。
その時に、この子は大丈夫だ、嘘はついてないって何故だか信用できたから、気が付いたら私は自然とその手を取っていた。
男の子は、出口まで向かう間ずっと私が不安にならないようにと色々な楽しい話をしてくれて安心させてくれたんだ。
そのおかげで、私は出口にたどり着くまでずっと泣くことはなくて薄暗かった森の道も明るく見えて笑顔でいられたんだ。
男の子も絶えず優しい笑顔を浮かべてくれて、出口までの道のりがずっと続けばいい、なんてそんなことまで考えてた。
そして、森の出口までやってきた私は、心配して迎えに来てくれていたお父さんと無事再会することが出来たんだけれど、お父さんに男の子の事を紹介しようとした時にはその男の子はもういなかったんだ。
それからも何度か、同じ場所にピクニックに行くことはあったけれど、男の子には合うことが出来なかった。
もしかしたら、もう二度と会うことが出来ないのかな、と思ったらとても寂しくて悲しくて。
その時はその感情の意味は解らなかったけれど、後から気が付いた。
短い時間だったけれど、私はその男の子の事が好きになっていたんだって。
彼が私の初恋の王子様だったんだって。
今はもう顔もはっきりと覚えていないけれど、それでも思い出だけは大事に私の心の中にしまってある。
きっと今は素敵な青年に育っているんだろうな。
いつか、会えるといいななんて淡い思いを抱きながら。