四缶
(やべぇ! 超やべぇ……! 自分にも全然ダメージがなくて、相手にもダメージがない? なにそれ。慈愛の力とかが俺に宿ってるわけ? 自分も相手も傷つけませんよ! ってか!?)
俺は困惑していた。てっきり、自分に異世界特典として人間離れした力があると思っていたからだ。だって谷から落ちても、滝から落ちても、狼から噛み付かれても無傷なんだぜ?
しかも、なんだか無限に出てくる缶を持ってるし。
てっきりネット小説とかである自分がやっていたゲームに似た世界に来た! すごい力でハーレムを作るぜ! みたいな感じだと思ってたのに……。
「……ん?」
本当にどうしたものかと頭を悩ませていると、俺を威嚇していた狼が茂みの中へと姿を消していく。
な、なんだ? 撤退した? 俺の奇妙な力に怯えて逃げたのか?
……何はともあれ、助かったぁ。
「ふいー……」
なんだか緊張の糸が切れたかのように、俺はその場に座り込む。不思議な力でダメージがないってわかったとはいえ、怖いものは怖いんだよ……。
まあ、美少女を護るためだったから対抗できたけど。
「よっ。大丈夫だったか?」
正直俺が大丈夫じゃないんだけど、ここは男としてかっこつけてみる。冷や汗をかきながらも、余裕な感じに笑顔を獣耳少女へと向け話しかける。
「は、はい。私は……大丈夫、です」
「そっか」
最初よりは慣れてくれたのか。やっと会話ができた。
こうして見ると本当に可愛い子だな。
なんだか狐……みたいな耳と尻尾を生やしていて、ちんまりしてて、なんかこう……ぎゅっと抱きしめたくなるっていうか。
尻尾がどんな触り心地なのかも気になるところだ。犬の尻尾なら触ったことはあるけど、同じかそれ以上なのかな?
「お、お兄さんも大丈夫なんですか?」
心配そうに狼から噛まれた肩を見詰めて問いかけてくる。
「ああ、まあ。大丈夫だ。どうやら俺、不思議な力で護られてるみたいだから。それよりも、やっと会話ができたんだ。これでも食べながら自己紹介も兼ねて話し合いしようぜ」
と、俺は獣耳少女がなかなか手を出さなかったコーンビーフの缶を取り出す。それにしてもこれ便利だなぁ。スプーンとかフォーク。箸までも一緒に出てくるんだもんなぁ。
「……ありがとうございます」
「いやいや。あー、でもやっぱ待った。場所移動してからにしよう。またあの狼が来るかもしれないからな」
なるべく目立たないような場所が好ましい。
また襲ってきたらどうなるか俺にもわからない。全然ダメージはないにしろ、複数で襲ってきたら彼女にも襲い掛かる可能性がある。
「歩けるか?」
「は、はい。なんとか」
回復缶が効いているようだな。ちょっとまだふらついているけど、歩けるようだ。てか、この子裸足じゃないか。
この辺りはどうやら丸みが帯びた石の道みたいだから良いけど……って、よく考えたら俺も裸足か。まあ、なんとかなるよな。
「じゃあ行こう」
その後、狼が襲ってくる気配もなく俺達は小さな洞穴に辿り着く。
ここならば彼女を後ろ下がらせ、俺が前に出れば彼女のほうへと狼が行くことはできないだろう。
大分襲われた場所からも離れたし、そろそろだな。
「よし、食べて良いぞ」
「……」
やっぱり警戒してるか。まあそうだろうなぁ……ここが異世界だとして、どんな世界観なのかはわからないけど。缶詰とかあるのかな? 保存食はあるだろうけど、こうやって缶に詰めて保存するってやり方はファンタジー世界だとあんまりないだろうな。
「大丈夫だ。これは肉だ、肉」
「お肉? ……はむ」
スプーンでほんの少し削り小さくしたところで口にやっと運んだ。
「お、おいしいです!」
お? いい笑顔じゃん。そこからはよほどお腹が空いていたのか。一瞬にして一缶食べきってしまった。まだ足りないだろうと思った俺はもう一缶と缶ジュースを取り出す。
「これ、リーゴの実ですか?」
「リーゴ? あぁ、りんごのことか。そうそう。それはリーゴの実の果汁を使った飲み物だ。食べ物だけじゃ、喉に詰まって大変だからな」
どうやらこの世界ではりんごのことをリーゴの実というらしい。よく創作物で地球と同じような物が出てくる時があるが、大抵は同じ名前。
時々、ちょっともじったような名前があるが、この世界では後者のようだ。
「ふう……」
「お腹いっぱいか?」
「は、はい。でも、こんなに食べてしまって……」
お腹いっぱいになり、落ち着いたところで獣耳少女は空になった缶の数々を見詰める。彼女が食べた缶は全部で五缶。
コーンビーフの他にも魚や果物の缶も含まれており、その内缶ジュースが二缶。どれだけお腹が空いていたのか一目でわかる量だ。
「気にするなって。まだまだいっぱいあるから。じゃあ、落ち着いたところで自己紹介だ」
「は、はい! クルネ・エヴァーナと言います!」
「クルネか。いい名前だ。俺はかみさ」
「神!?」
「ふお!?」
苗字の途中で獣耳少女クルネが叫び出す。な、なんだなんだ? どうしたんだ突然。
「あ、あのあなたは。いえ、あなた様は神様なのですか!?」
「え? いや、だから俺はかみさ」
「わー! やっぱり!!」
「だからかみ」
「神様!!」
「……ああ! 俺は神さ!!」
「神様ー!!」
……可愛いって最強だよな。あんな純粋でキラキラした目で見られたら神様じゃないって言えないじゃないか。まあ、彼女からしたら今までの俺の行動が神様のように見えたんだろうなぁ。
狼に噛まれても無傷だし。
どこからともなくいっぱい缶を出すし。あぁでも、真実を知ったらどうなるんだ……! すっげぇ落ち込むんだろうなぁ……とはいえ、こんなにも信じきってる子に今更。
「俺、神様じゃないんだ。ただの引き籠りなんだよ」
なんて言っても神様ジョークですね! みたいな反応しそうなほど信じきった目をしてる。
すげぇ可愛いけど……こ、心が痛い。