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三缶

「―――ほ、ほらー! 俺は変態じゃないぞー!」

「……」


 あれから色々と自分は危ない奴じゃないとアピールしているが、獣耳少女は全然反応を示してくれない。

 くっ! 最初の印象がやば過ぎたんだ……! さすがに目覚めたらパンツ一丁のめがね野郎が隣に居れば誰だって怯える……!

 どうする、どうすれば警戒心を解いてくれる。


 そんなことを必死に考えていると、獣耳少女のほうから可愛らしい音が鳴り響き。

 きゅーっと。

 おそらく彼女の腹の虫が鳴いているんだろうが、獣耳少女はそれでもこっちを見ようとはしない。しかしながら、腹の虫さんは鳴き止まない。

 なにか食わせろー! とでも言っているかのように何度か鳴く。


「……これ、食べるか?」


 俺は、食料缶保存庫からコーンビーフの缶詰を取り出し獣耳少女の横に置く。とりあえず、警戒されないように俺は彼女の視界に映らないようにしているが、ど、どうだろう?

 しばらく待っていると、コーンビーフのいい匂いが更に腹の虫を刺激し、激しく鳴る。

 獣耳少女は、ゆっくりと手を伸ばし。


(お?)


 引っ込めた。


(あちゃー……やっぱりそう簡単にはいかないか)


 なんだか警戒心の強い犬や猫に餌を与えている気分だ。

 やったことないけど。

 んー、このままじゃ彼女は空腹でまた倒れてしまう可能性がある。無理矢理にでも食べさせるか? いや、それだと可哀想だよな……。


「む?」


 どうしたものかと考えていたところ、また茂みが揺れる。また獣耳少女か? それだったら俺としては嬉しいけど……どうやら違うみたいだ。

 茂みの中から出てきたのは、四足歩行の獣。所謂、狼である。まさかリアルなほうが出てきてしまうとは……まさか、コーンビーフの匂いに導かれたか? くっ! なんてこった。そうなると俺が呼び寄せたようなものじゃないか。このままじゃ、獣耳少女が危ない。

 コーンビーフが狙いなんだろうけど、確実に近くに居る彼女も狙われるだろう。


「おい! 早く逃げろ! このままじゃ襲われるぞ!!」


 逃げるように叫ぶが、獣耳少女がその場から動こうとしない。いや、動けないのか? なんだかあの狼が出てきてから体の震えが激しくなっている。

 まさか、あの狼に襲われていたのか……! ちくしょう!


「こ、来ないで……!」


 怯えながらも、なんとか逃げようと動くがまだ完全に体が回復しきっていないのか。ろくに移動できていない。そんな彼女にお構いなしに近づいていく狼。

 こ、こうなったら!


「うおおお!!!」


 跳びかかる寸前俺は獣耳少女と狼の間に立ちふさがる。

 彼女の盾になるように背を向けて。

 そうするとどうなるか? 


「ぎゃああああ!?」


 当然俺が獣耳少女の代わりに噛まれます。思いっきり俺の右肩に齧りつき、おまけに爪でも攻撃してきやがった。

 これは確実に激痛と大量の血が……おや?


「あああああああ、れ? 痛くない」


 もはや谷から落ちる、滝から落ちるという死ぬ体験をして全然痛みがないことから予想していたが。

 俺、痛覚がなくなってる?

 しかし、完全に牙突き刺さってるよな? なんか自分が噛まれているのにマジマジで見れるってすごいことだと思うんだ。……なるほど、刺さっているように見えて刺さってないな。何か不思議な力で肌に刺さる前に防がれているようだ。


「うーん、なんだかあの光を浴びてから変なことばかり起こるなぁ」

「あ、あの」

「ん?」


 なにやら可愛らしい声が聞こえると思ったら、あの獣耳少女のものだった。怯えているが、どこか心配しているような目で俺を見ている。

 まあそのはずだよな。彼女は俺に怯えて、この狼にも怯えている。怖いものが目の前に二つ。それに加えて全力で噛まれているのにも関わらず平気な顔をしている。

 怯えていいのか、心配していいのかわからない状態なんだろう。


「あー、大丈夫大丈夫。なんだか知らないけど、俺平気みたいだから」

「で、でも」


 言葉で言っても無理があるか……というか、今更なんだかこの現象あれじゃないか? 

 うん、異世界転生。いや異世界転移か?

 もしかするとあの光は、俺を異世界へと導くための転移の光だったのかもしれない。ネット小説とかでよく読んでたからそれなりには知識はある。

 

(てことは、今の俺は異世界召喚特典として超人的な力が備わっている! そうだよ。この全然ダメージがこないのも俺のなにかしらの能力なんだ。そうと決まれば!)


 自分にはこの狼を一撃で倒せる力がある。そう信じきった俺は、普段なら怖くてできないことをやってみた。


「おら!!」


 狼を殴る。

 こんなこと現実じゃ絶対怖くてできない。殴る前に噛み付かれ、激痛のあまり泣いてしまいそうだ。だが! 今の俺は異世界に召喚されし選ばれた男! 

 殴り飛ばされた狼は俺の一撃で……ん?


「グルルルッ!」

「あれ? 倒せて、ない?」


 拳は全然痛くない。狼も完全に殴った。

 なのに、狼は全然ダメージを受けていないかのように立ち上がり俺のことを威嚇している。

 ど、どういうことだ?

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