二缶
「……どうしよう」
助けたいけど、俺は何も持っていない。
あるとすれば濡れた服とズボンだけ。
包帯もなければ、絆創膏もないし、消毒液もない。
「なにか、なにかないか……」
もしかしたら、ポケットの中に何かがあるかもしれないと探るが……やっぱりなかった。
ど、どうすれば……そもそも俺には医療の知識がないから、道具があってもどうにもならない!
「ど、どうすればいい……! お?」
必死に考えていると、目の前に何かが現れた。
まるでSF映画とかにありそうな薄いディスプレイ。そこにはなぜか缶保存庫と書かれており、色んな名前が表示されていた。
「な、なんだこれ……缶って……操作できる……」
ディスプレイに触れると下にスクロールできた。結構な量があり、名前の横にはプラスとマイナス、取り出すの表記もある。
つまり個数を選んで、取り出すことができるってことか? 試しに一番上にあった回復缶を一個選び取り出しボタンを押してみた。
すると、手元に銀色の缶が出現する。ラベルも貼られており【回復缶・小】と書かれている。どうやら缶ジュース、みたいだけど。
「いや! 考えてる暇はない! おい、飲めるか?」
慣れたように俺は缶ジュースの開けて、獣耳少女の口に運ぶ。
なんとか小さく開いていた口にジュースを流し込むことができた。少女の体は輝き、徐々に擦り傷などが消えていく。
(やっぱりこれは、傷を癒すことができる効果があるのか。まるでゲームみたいだな)
気絶をしているが、獣耳少女は自然とジュースを飲んでいく。
小と書かれていたが、体の傷はそれなりに回復できた。ただ目覚める気配がない。傷が癒えても、体力が回復したわけじゃないってことか。
「だったら、その間に色々と調べてみるか」
見つけた時よりは和らいだ表情になった獣耳少女を横に、俺は目の前に現れたディスプレイを操作する。
(缶保存庫か……回復缶に加えて【ステータス缶】? あれ? 【ステータス缶】って確か)
俺には、ステータス缶というものに見覚えがあった。それを確かめるため【ステータス缶・力】の説明文をタップする。
「……やっぱり。これって【ファンタジー・ファンタジー】の」
俺がこんな変な場所に来る前にやっていたゲーム【ファンタジー・ファンタジー】には契約獣というプレイヤーと一緒に戦う可愛らしくも心強いやつらがいる。
契約獣は、自分で育てることができ、スキルも自由に覚えさせられる。そして、その契約獣のステータスを上げるのが……【ステータス缶】だ。
体力、力、魔、防、魔防、速、技それぞれのステータスを上げられる。缶保存庫を見れば、見知ったものがあるが若干種類が違う。……でも、ゲームと同じならこれらを使えばステータスが上がる?
「ん? これって、ゲームにはなかった缶か? みかんにパイナップル、さばの味噌煮? まさか普通の食料系缶があるとはな」
缶保存庫は複数あり、その内のひとつ食料缶保存庫。
そこからみかんの缶詰を一個取り出す。
本来であれば、缶きりが必要なのだが、どうやらなくても開けられるようだ。プルタブを引っ張るやつだな、これ。
「おぉ、見事なまでに見知ったみかんの缶詰だな」
今はほとんど食べなくなってしまったが、大量の水の中に実が入っている。ひとつ摘み口の中に放り込んで齧ると甘すっぱい味が口の中に広がる。
しかもこの缶詰は、在庫数が書かれていない。つまり無限に出せるってことか……すごいな。
「ん……」
「お? 目が覚めたみたいだな」
色々と漁っていたところ、獣耳少女が目を覚ます。
ゆっくりと瞼を開き、まず周囲を見渡している。
そして、俺を視界に捉えると。
「ひっ!?」
ひどく怯えた様子で、身を丸める。
え? え? なんで?
「なあ」
「うぅ……!」
声をかけるも、身を丸めたままこっちを向いてくれない。そこで俺は気づいた。あっ、そういえばパンツ一丁のままだった、と。
なるほど、それで怯えていたのか……これは失態だった。
とりあえず、まだ乾ききっていないけど、服を着るしかないな。
「よしっと。な、なあ? もう服を着たからその……お話、とか」
しかし、獣耳少女はいまだ身を丸めたまま怯えている。
「どうしよう……」
俺は困り果てた。