十三缶
「なななな何事だ!?」
明らかに頭を狙っていた。つまりヘッドショットである。
クルネが助けてくれなければ、俺は打ち抜かれていただろう。あっ、いや【絶対守護結界】があるから大丈夫か。
いや、それでも頭に矢が飛んでくるって考えただけでも怖いわ……!
クルネの回避を上げておいてよかったかもしれない……回避はどうやら反応速度を上げているようなのだ。
「……」
「ど、どうしたんだ? クルネ」
なにやら考え込んでいるようだが。まさか、矢を放った奴に心当たりでも?
「わ、私。矢を切り払うなんて初めてです……」
「お、おお、そうか。うん! それだけクルネはすごいってことだ!」
「えへへ」
あぁ、可愛い。このまま抱きしめて撫で回し。
「やっ!」
「ふお!?」
二射目!? というかまた頭を狙われてた気がするんだけど……。
「また防ぎましたか。さすがは狐人族ですね」
「……エルフ族」
なんと! 姿を現したのは金髪ロリエルフだった! 長い髪の毛は右側のサイドポニーとして束ねられ、眠そうに見えるほどのジト目。
緑を服は、ノースリーブ! そこから見えるロリ腋に人々は釘付けになるだろう。しかも、ぴょんぴょん動き回っても下着が見えないようにと半ズボンにしているところも非常に。
「ちょっ!? 待て待て! なぜ弓矢を構える!!」
「邪な気配を感じましたので」
まさかこのエスパーか!? 俺の心の声が聞こえている? いや、邪な気配を感じたと言っていた。エルフ特有の能力かなにかなのだろう。
これは下手に妄想はできないな……。
「あ、あのさ。俺達この先に行きたいんだ。通って、いいかな?」
「だめです」
「どうして?」
「この先にあるのはエルフの里。エルフ族以外が立ち入ることは禁じられています」
まさかエルフの里だったとは。
入りたい。入りたいけど……無理なんだろうなぁ。
「ど、どうしましょう? 明日斗様」
「うーん、許可とか下りたり、しないか?」
「無理です。里ができてから一度たりともエルフ以外の種族を入れたことはありませんので」
やはり無理か。せっかくクルネが見つけてくれたが、入れないなら仕方ない。他の場所を見つけるしかないな。
「わかったよ。じゃあ、せめてこの辺りにエルフの里以外の村とか町とかはないか? 俺達、この辺りの地形に詳しくなくて」
「……」
なかなか疑い深いようだな。
アニメやゲームだとエルフってよく他の種族とは関わらないことが多いからな。この世界のエルフもそんな感じなんだろうか。
「この森は【深緑の森】で有名な森です。一度入ってしまえば、正しいルートで進まないと高確率で迷う。一般常識のはずですが?」
「え? そんなやばいところだったのか?」
確かに、何日も移動しているのに同じ景色ばかりだと思っていたけど。
クルネは……。
「そ、そんな森があったの!?」
「はい。知らなかったんですか? ちゃんと森のいたるところ看板が立てかけられていたはずですが」
「ご、ごめんなさい……私が入ったのは夜で《ウルフェン》に追いかけられてから」
知らなかったそうだ。これはロリエルフさんに教えてもらうしかないようだな。
「この通り二人とも何も知らないんだ。あっ、自己紹介してなかったな。俺、明日斗って言うんだ」
「私はクルネ。よろしくね」
「……ココです」
「ココちゃんかぁ、可愛い名前だな」
「人間に褒められても嬉しくありません」
こ、これは手厳しいロリエルフだ。
「ココちゃん! 明日斗様は人間なんかじゃないよ! 神様だよ!!」
「あっ、ちょっとクルネ。それは」
俺、実際神様じゃないんだ。神様の加護を受けてる人間なだけでですね。突然のカミングアウトに、ココは明らかに疑いの目で俺のことを見詰める。
「あなたが神様? 何の冗談ですか」
「いや、だからそれは」
「明日斗様は、わたしが食べた事のない、飲んだ事のないものをいーっぱい! 出せるんだよ! それに、わたしにかかっていた呪いもあっという間に解いてくれたの!」
あぁ、クルネ。そうやって自慢してくれるのは、非常に嬉しいんだけど。説明する度にココの視線が鋭くなっていくのが怖い。
「確かにあなたからは人間とは思えない気配を感じます。しかし、どう見てもただの人間。神様とは思えません。クルネ。あなたは騙されているのでは?」
はい、すみません騙してます……。
「そんなことないよ! 明日斗様はすごい神様なんだよ!」
あくまで俺のことを神様だと信じるクルネに対し、ココは俺のことを出会った時以上に疑いの目で睨んでいる。
くっ! このままじゃ俺がやばい。こうなれば神様になりきってみせる!
「えっと、お近づきのしるしってことで、これどうだ?」
俺が取り出したのは果汁百パーセントの缶ジュース。
ちなみに味はりんごだ。
「なんですかこの鉄? の筒は」
やはり缶を見るのは始めてみたいだな。
「それはアルミ缶って言ってな、その中に食べ物を入れたり、飲み物を入れたりする筒なんだ」
「アルミ缶……聞いたことがないですね。……毒ではないみたいですね」
アルミ缶を開けずに、何か光の粒子を注ぎ込んだと思いきや、毒ではない断言する。探知系の魔法か何かだろうか?
「その中に入ってるのは、リーゴの果汁でできた飲み物だ。ほら、クルネにも」
「ありがとうございます! ほら、ココちゃん。こうやって」
もう慣れたものだ。開け方がわからないココにお手本として、開けてみせるクルネ。そして、そのまま一気に口の中へと流し込む。
「おいしい!」
「……すんすん。確かにリーゴの匂いがしますね」
クルネがやったように缶を開けて、匂いを嗅いだ。エルフっていうのは、よほど警戒心が高いみたいだな。クルネなんてちゃんと会話できるようになってからは、ほとんど疑いもせず始めてみるものを、口に運んでいたなぁ。
「んく」
色々と調べようやく口にするココ。すると、ほとんど無表情だった彼女の顔が驚き表情へと変わる。
「どうだ?」
「こんなにもおいしいリーゴは初めて口にしました。果汁を使ったと言いましたね? 製法はどのように?」
「それは、企業秘密だ」
ぶっちゃけ俺もわからないから答えられないんだけど。
「なるほど。確かに、悪い人ではないようですね」
「おっ、やっと信じてくれたか」
「ですが。あなたが邪な考えをしていたのは事実。完全には信用しません」
……ふっ、攻略難易度が高いロリっ子だ。だけど、ちょっとは信用してくれたみたいだからいいか。
「そういうわけですので。おいしい飲み物のお礼に、この森から脱出させてあげます」
「本当か!?」
「はい。実は、丁度私もこの森から出て行くところだったんです」
「どういうことだ?」
「所謂修行です。外の世界に出て、この身を鍛える。一人前の戦士になるために」
この世界は、戦闘民族多すぎないか? 異世界だから俺の常識が通じないのはわかってたけど。それでも、ロリっ子が一人で旅に出るなんて危ない。
非常に危ない。特にクルネのように、あまり疑うことを知らない子がな。ま、ココはかなり疑う深いようだから大丈夫なんだろうけど。それでも心配だ。
「狐人族と同じだね。エルフも、最近はそういうことをするようになったの?」
「まあ、そうですね。自分達の森でも十分修行はできますが。外の世界の強者達と戦うことでより一層強くなれる。何人かのエルフの戦士達の体験談です」
「なるほど。じゃあ、俺達を連れて行ってくれ」
「そのつもりです。ただ気をつけてください」
缶ジュースを口にした後、ココは注意を促す。
「最近、森の魔物達が活発化しているようです。なるべく安全なルートを移動しますが、もし魔物が襲ってきた時は」
「大丈夫だ!」
「うん! 私も大丈夫!」
「そうですか。では……行きましょう」
偶然の出会いで、俺達はようやくこの森から出られるようだ。
森の外はどうなってるんだろうな……。




