十缶
「よりにもよって、あいつか」
無事異世界生活二日目を迎えることができた今日この頃。
さっそく色々と確かめるため手ごろの敵をクルネと一緒に探していた。が、この辺りで一番弱いのはどうやら俺が始めて会った《ウルフェン》のようだった。
離れた場所から《ウルフェン》に意識を集中させ、ステータスを見ることに成功。
レベルはどうやら、俺とクルネよりも二つ上。
防御力はあまりないようで、攻撃と回避が高い。ただどちらもクルネが圧倒している。やはりクルネはレベル5にしてはステータスが高いようなのだ。
「……くそっ」
「どうしますか? 明日斗様」
ネット小説の主人公達ってどうしてあんなにも勇敢に戦えるのか。俺なんてすごいスキルがあるっていうのに、体が震えてやがる。
だけど、怖がっている場合じゃない。ここは俺が居た世界とは違う。ああいう人を襲うモンスターがうじゃうじゃいて、戦いだって当たり前にあるような世界なんだ。いつまでも怖がっていたら、生きていけない。
それに、クルネの前でかっこ悪い姿は見せなくない。
「作戦通りだ。俺が囮になるから、その隙にクルネがあいつを倒す」
ぶっちゃけ俺の攻撃力じゃ《ウルフェン》に決定的なダメージを与えることはできないだろう。だから、クルネにやってもらうしかない。
正直女の子に戦ってもらうなんて男としてかっこ悪いけど、これは仕方がないことなんだ。
それに俺は壁役だ。
ロリの壁となれるならば本望!
「は、はい!」
そろそろ戦いが始まる。俺は覚悟を決めたが、クルネのほうはまだ緊張しているようだ。それもそのはずか……今まで呪いのせいでまともに成長できなかったうえに、今戦うモンスターはクルネを襲ったモンスターだ。
呪いが解かれたとはいえ、まともに戦えるかどうか不安なんだろう。
「大丈夫だ」
「あ、明日斗様?」
「俺が絶対あいつからお前を護る。だから落ち着け。あまり力が入り過ぎるとまともに動けないぞ」
「……はい!」
よし、どうやら緊張が解けたようだな。
俺も、かっこいいところ見せないとな!
「おっしゃ!!」
クルネが《ウルフェン》の背後へと回り込んだところで、茂みから出て行く。すると、俺のスキルである【聖なる肉壁】が自動的に発動し《ウルフェン》が俺を捉える。
「グルルルッ!」
「よう! 狼! すまないが、俺の相手になってもらうぞ」
くいくいっと指でかかってこいとばかりに挑発する。
こんなことをしなくてもスキルのおかげで相手は俺をロックオンしているんだけどな。
「ガアッ!!」
さっそく俺を噛み砕こうと鋭利な牙をむき出しに跳びかかってくる。大丈夫だ。俺には、貧乳神の加護があるんだからな!
「しかし、ただ噛みつかれるのなんてごめんだ!」
もしかしたら、攻撃を与えないと経験値が入らずレベルが上がらないかもしれない。なので、一発ぐらいは入れさせてもらう。
「はあっ!」
「ガアッ!?」
真っ直ぐ右拳を突き出したことで《ウルフェン》は吹き飛ばされる。
が、すぐに空中で受身を取り、俺を再び睨みつけてくる。
やっぱりダメージなしかー。いや、ゲージで言う一ミリぐらいは入っているはず! まあ、本来の俺の役目は囮、壁役。
倒すのは……。
「ガアッ!!」
再び襲い掛かってくるのを見計らい、クルネが背後から音もなく飛び掛る。
「やあっ!!」
「ガッ!?」
見事に《ウルフェン》の体を切り裂いたが、完全に倒しきれていないようだ。それがわかっているクルネは、ナイフを再び力強く握り締め、間髪いれず二撃目を入れる。
「これで!!」
相手も反撃とばかりに鋭き爪で攻撃を仕掛けてくるが、今のクルネは本来の力を出せるようになっている。すっと素早く屈み、攻撃を回避しつつ真下から《ウルフェン》の体を切り裂いた。
「よし!!」
ゲームの敵のように光の粒子となって四散していく《ウルフェン》を見て俺は思わずガッツポーズを取る。というか、さっきのってクルネに攻撃したというよりも俺に向かっていたのか?
それだけ俺の壁役としての能力が高いってことか……さすが神様の加護だな。
「や、やりました!」
「ああ! よくやったぞ、クルネ!」
本当に嬉しそうに喜ぶクルネを見て、俺は頭を少し乱暴に撫でる。
「えへへへ」
嫌がることもなく、クルネは目を細めながらも尻尾を左右に振っていた。あぁ……可愛い。マジで可愛いわ。このままずっと撫で続けていたい。
しかし、そうも言ってられない。
俺は、運良くドロップした《ウルフェン》の牙を拾い上げる。
(クルネの言う通り素材が落ちたな。こういうところは、ゲームっぽい。しかし、さすがに金は落ちないか……)
ゲームだった場合、敵を倒すと素材と金が手に入る。
だが、その辺りは現実的なようで。
金は素材を売るか、クエストなどをクリアしたり、働いて手に入れるらしい。
「よし。それじゃ、この調子で進んでいこう。この辺りに、村とか町は」
「すみません……地理はそこまで詳しくないので……」
「あー、いいよいいよ! 気にするなって」
個人的には、最初からわかっているよりも、自分で探して見つけたほうが旅をしてるって感じがあっていいからな。ゲームだった場合はマップ機能もあったけど……やっぱないか。
まあ、気にしない気にしない! 進めば道は開かれる! ってな。




