片耳だけのピアス
完結詐欺を繰り返し、度々失礼いたします。
理想の字数に満たないものや書きなぐりを活動報告にあげる習性があるのですが、この度そのうちから二つ、こちらへと移させていただきました。
ありがたいご要望を下さった方々、本当に本当にありがとうございます<(_ _*)>
時系列として、このお話はアルトが熱を出した前後辺りになります。
「ディル様やるときはやるって言ってくださいね?」
そう言いながら、アルトは向きを変えて祈るように手を組んだ。
「お前自分で爪立てたり切ったりする癖に」
「場所が違いますもん、見えない所は怖いです」
「ならもう止めとくか。その方が俺も精神的に楽だ」
「ご、ごめんなさい」
心から言えば、アルトが申し訳なさそうに謝罪する。
そのしょんぼりとした様子に、ディルは本日何度目かの溜息をつき、再び彼女の意志を問うた。
「で、どうするんだ」
「頑張りますっ! お願いします!」
そう意気込んでぎゅっと目を閉じるアルトを見て、ディルは自らも覚悟を決めて彼女の耳に触れた。
――こんな事をすることになったのも、もとはと言えばディルのせいだった。
***
「そういえばお前、装身具はつけないよな」
ある日の昼食の席で、ディルはアルトにそう尋ねた。
理由は単純だ。
以前『日頃のお礼』を貰ったお返しに、ディルは彼女に何か――できれば身に着けるものを贈りたいと思っていた。
だが、アルトは全くといって良いほど身を飾らない。
恐らく持ってもいない。
単にそういった習慣がないのか、それとも他の理由があるのか。それを知っておかないと失敗すると思ったからだ。
色々と理由を思い浮かべていると、アルトが少し渋い顔をして口を開く。
「変化するときに面倒なんですよ。咄嗟に変わった時に壊しかねませんし、何より絞まると困ります」
だからつけようと思わなくてと続けたアルトに、ディルは成程と納得した。
至極尤もな理由だった。
しかしディルとしてはそれで諦めるのは少し惜しい。
アルトは色白で華奢なので、飾れば絶対に可愛くなる。
何かいい案はないかと頭を捻っていると、本人から意外な発言が飛び出す。
「でもそうだなぁ、母様はピアスをつけてました。それだと変わっても外れないからって」
「ああ、確かにな」
相槌を返しながら、変わらない彼女の様子にディルは少しほっとした。
最近、少しずつだがアルトは失くしたものの事を語れるようになってきていた。
ディルが大人しく耳を傾けれていれば、彼女は少し遠くに思いを馳せるような表情で話を続けていく。
「いつも父様と分けてつけて、羨ましかったなぁ。初めは痛いよって言われて、中々手が出せなかったんですけど……」
そこで言葉を切り、アルトは再びディルに視線を戻した。
「ディル様も開けてますよね。やっぱり痛かったですか?」
「いや俺はあまり……。個人差があるらしいな」
「そうですか……」
そう答えると、アルトはしばらく黙り込み、何かを考える様子を見せた。
――こういう時、ディルの勘は当たる。
勘というか、もはやアルトのことが分かるだけだが、この後言い出しかねないことに想像がついた。
「よし、僕も開けます」
やっぱり、と思った。
「開けるって言っても、やり方知らないだろ」
アルトが痛い思いをするのを見たくなかったディルは、やんわりと反対の意を返した。
そんな事になるくらいなら、ディルのちょっとした望みなど叶わなくていい。
だが、彼女はけろりとした顔をして言った。
「普通に、針を刺せばいいんじゃないんですか?」
その大胆な答えを聞き、ディルは思わず何処にでも落ちていそうな針で耳朶を刺すアルトを想像した。
それが容易に思い浮かぶところがまた恐ろしい。
ディルは頭痛を堪えるようにこめかみに手をやりつつ、諭すように言った。
「……突き詰めれば間違ってないが、使う針の太さとか、消毒とか考えてるか? 適当にやって上手くいくってわけじゃない。それに開けた後は暫く通しておかないといけないんだ。でもお前、何も持ってないだろ」
「えっ、そうなんですか? うーん……」
ディルの指摘のどれかに引っかかり、アルトは視線を落として逡巡し始めた。
どうかそのまま諦めてくれと思ったが――。
「そっか、リッツに借りればいいんだ」
アルトはそう、口にした。
年が近くて仲の良い、そう言った頼みごとがしやすい相手だろう。
だがそれをディルが黙って許せるはずがない。
何故想う相手の耳に別の男のピアスが嵌っているのを見なければならないのか。
「やめろ、俺のを貸す。ついでに手伝ってやるから」
アルトはやると言えばやる。
放っておいて問題が起きていないか心配するくらいなら、傍にいようと諦めた。
***
それから話は冒頭へと戻り、結局ディルがピアスを通してやった。
危なすぎるアルトの手つきを見ていられなかったのだ。
ディルが終わったぞと声を掛けると、アルトはぎゅっと閉じていた瞼を開き、自身の耳に手をやった。
そうしてそこにある存在を確認し、勢いよくディルを振り返った。
「すごい……! ほとんど痛くなかったですっ。ありがとうございます、ディル様!」
アルトの喜びに対し、ディルは一気に疲労した。
泣きそうな顔とか、痛みに耐えようとする仕草だとか。何より、自分の手でアルトに傷を入れるという行為が辛かった。
まだ片方だけではあったのだが、ディルの方が音を上げる。
「……反対側はまた後日にしてくれ」
「いえ、片方だけで良かったので、十分です」
そう言って微笑んだアルトは満足そうではあったが、どこか少し寂しげでもあった。
(……ああ、そうか)
『分けてつけて』いたとはつまり、そういうことなのだろう。
そして同時に、アルトが急にこんなことをしたがった理由も分かってしまった。
「……取りに行きたくなったら言ってくれ。その時は一緒に行く」
そう言ってディルが頭を撫でれば、アルトは泣きそうな顔で笑った。
お読みいただきありがとうございます。
良い子はそこら辺の針で開けたりしちゃだめです。




