特殊砦でもふりたい 4
その後何とか強敵と別れたものの、獣族としての違いとやらを見せつけられたディルは、少しばかり打撃を受けていた。
とは言え自分の迂闊な行動で起きた事態だ。
当然ながらアルトを責めるのも筋違いである。
二度と付け入る隙は与えまいと心に誓っていると、向かいから敬愛すべき上司が歩いてくるのが目に入った。
『あっ、ルイツ副長、お早うございます!』
「お早うございます、アルト君」
喜色を浮かべて駆け寄るアルトに、ルイツが微笑んで挨拶を返した。
そうして足元に纏わりつく彼女の頭を撫でつつ、彼はしみじみと零す。
「――小耳に挟んではいましたが、本当に本当とは」
『? 何がですか?』
首を傾げたアルトには答えず、ルイツは近づいてきたディルに目を向けて――。
「今後は目立たない所へつけては」
「……、――!?」
――とんでもない助言を投げてきた。
あまりの事に、はじめ何を言われたのか全く分からなかったくらいだ。
絶句したディルに、ルイツはおやと目を丸くする。
「違いましたか?」
「全っ然違いますっ!!」
ひどい誤解に、ディルは思わず声を上げた。
そんなことが出来ればどれ程いいか。
優しくすると約束したから、何があっても少しずつと決めている。
昨日は耐えに耐えて、髪を梳いて少し口付けただけだ。
だがそれにすら慣れない彼女が見せた表情に、焼き切れそうになるのを死ぬ気で我慢した。
そんな風にディルが自身を戒めているというのに、上司はすぐに要らないことを言ってくる。
勘弁してくれと溜息を吐いていると、金色の瞳がディルを見上げてきた。
『ディル様、何かしたんですか?』
きょとんとした様子で投げかけられた質問。
無知というのは時にとても酷いと思う。
ルイツが笑みを浮かべて見守る中で、ディルは己にとって悲しい事実を告げた。
「……何も」
『そうでしたか』
アルトは頷いた。
傍でルイツが震えている。
ディルは努めて冷静に、話題を変えた。
「――それで副長、今日アルトは何を」
「あぁ、そうでしたね。どうしましょうか」
声が笑っているのはさておいて、無計画という答えにディルは暫し沈黙した。
どうと言われても。
「……決めていなかったんですか?」
「いえ、隊服を着るのをとても楽しみにしているようでしたからね。私の補佐をしてもらう事しか考えていませんでした」
『ぅ、すみません……』
アルトは謝ったが、彼は今、割と非合理なことを言った。
ルイツは補佐などなくても仕事をこなせる。そしてアルトは書類が苦手だ。
それを踏まえて彼女を横に置く理由とは。
(…………まぁ、無理はしなくて済むよな……)
心情を察し、ディルは大人しく口を閉ざした。
ルイツはいつものようにアルトに微笑みかけている。
「謝ることはありませんよ。また今度、お願いします」
未だ完全復帰とはいかない程の怪我をして、目一杯心配をかけた妹のような存在。
それを少しばかり可愛がる機会くらい、許されてもいいのかもしれなかった。




