特殊砦でもふりたい 2
砦において、獣族はどちらの姿で過ごしていても絶対に咎められることはない。
ただ、建物自体は圧倒的多数の規格で造られているため、身体の大小が著明な種族は困ることが多々ある。
幸いアルトはディルが通れるところは同じようについていける大きさだ。
なので彼に続いて廊下を歩き、扉を抜けて食堂へと入った。
パンを焼く香ばしい香りや煮込み料理の匂いが濃くなり、食欲が増す。
アルトがディルに断って獣族向きに整えられた一角へと向かうと、ヒースが声を掛けてきた。
「珍しいな、どうしたよ」
『あ、おはようございます』
「おう。初めてだよな、それで来るの。何かあるのか?」
そう問われ、アルトは暫し固まった。
そして心から思う。
(――よ、よかった……)
何かと問われてすぐに浮かぶのは昨日の事だ。
狼姿でなければ、間違いなく真っ赤になって挙動不審になっていた。
『……えと、見張りに立つのに、せめて感覚が良い方がお役に立てるかなって……』
「ああ、病み上がりなんだから無理すんな」
アルトがつかえながらもそう言えば、彼は大した疑問もなく納得した。
耳を垂れさせる様子が、ヒースには申し訳なさそうに見えたのだ。
苦しい問答を終えたアルトは、気を取り直して食事へと意識を切り替える。
獣向きの料理は比較的薄味で、運びやすさと言う観点から一皿にいくつかの料理が盛りつけられている。
人の時と違って選択の幅は狭いが、何を食べても美味しいのでアルトは気にしない。
口が小さくて咀嚼を繰り返す人型とは対照的に、割と丸飲みな今の姿のお陰でアルトは早々に食事を終えた。
食器を返し、口の周りを舐めながらディルの元へと戻ると、当然ながら彼の皿にはまだ料理が残っていた。
『ディル様』
「ああ、もう終わったのか」
『はい』
頷いて静かに足元に伏せると、ディルがアルトに顔を上げるよう促す。
「汚れてるぞ。ほら、じっとしろ」
そう言ってディルは手巾でアルトの口許を遠慮なく拭った。
何だかんだあっても本質的な世話焼きの性格は変わらなくて、アルトはこそばゆさを感じてしまう。
『……えへへ、ありがとうございます』
嬉し気な声に、ディルはアルトの頭を撫でて返した。
「……そうやってるとディル様の飼い主感が半端ないな」
ディルの向かいにいたガルドが半分笑いながら感想を漏らす。
するとディルはそれに嫌そうな顔をしながら不本意だと呟いた。
アルトもそれには同意する。
『全くです。今僕の事を犬扱いしたでしょう』
「見た時の感動がぶち壊しになるような行動をするからだろ」
不平を訴えたアルトに、ガルドはあっさりと答えた。
狼姿のアルトは、黙って立っていれば近寄りがたい雰囲気を放つ。
汚れのない白銀の毛並みに、全てを見透かすような黄金の瞳。
何かの御使いかと錯覚しそうなそれが、口を開けば柔和な顔をしたアルトと全く同じなのだから、思わず気が抜けてしまうのだ。
だが自覚のない本人は、変更されない評価にむくれて見せた。
『むむ、そこまで言うなら狩りでもして狼らしく獰猛で格好いい所を見せてあげますよ』
「獰猛で格好いいって、お前な……」
どこか誤った組み合わせの言葉に突っ込みが入る。
だがアルトは狩りを思い描くことに集中し、聞いていなかった。
『単身なのが痛いですが、足には自信があります。なるべく大きなのを見つけて追って捕まえて、首を――』
仕留める所までを想定した時、不意にアルトの目がイスナを捉えた。
『――……この話は止めておきましょう』
「お前今割とひどいことを考えなかったか」
ガルドの問いに、アルトはそっと顔を逸らした。
砦の食事は、鶏肉が多い。
鳥類の獣族が存在しないからだが、その他の肉が使われないわけではない。
草食系の獣族でも人型を持つ上で食べられるとはいえ、それは被食者の血を持つものが聞くには悲しいお話だった。
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