特殊砦でもふりたい 1
番外編です。
タイトルからしてふざけていますが、ラブコメのつもりです。
全5話で展開するバカップルの一日を見守ってやってもいい、という心優しき方は是非<(_ _*)>
『お早うございます』
「お……は、よう」
今までになかったアルトの朝の出迎えに、ディルの挨拶が一瞬止まった。
「……何でその姿なんだ」
『…………』
答えに詰まり、ふかふかの獣耳が忙しなく動く。
今のアルトは完全な狼姿になっていた。
理由はきちんと仕事をこなすため。
決してディルのせいではない。アルトが耐えられなかっただけなのだ。
***
昨晩、アルトは砦の隊員達に帰還を喜ばれつつ、久々にディルと夕食を摂った。
嬉しい気持ちを抱えながら宿舎へと戻り、お休みなさいと挨拶をして彼と別れようとした時だった。
ディルがアルトの手を引いた。
『さてアルト、そろそろ昼間の話を聞かせて貰おうか?』
『昼間? ……――!』
『距離を保てと忠告したが、自分から脱ぐとは思わなかったよ。もっとちゃんと、教えておくべきだったよな』
そう言って、彼は笑顔でアルトを部屋へと引き摺り込んだ。
にこやかではあるが、冷えた声。
それで状況と自己の判断について問い質され、アルトは苦し紛れについ、ささやかな意見を呈してしまった。
『でも、僕を見てもっていう感じですよね。ジーナさんみたいならいいでしょうけど、僕なんか大してみんなと変わらないですもん』
その瞬間、ディルの空気が変わった。
あ、と思った時には遅かった。
気づけばアルトはしっかりとした膝の上に乗っていて、彼の両腕が檻のように身体を閉じ込める。
見上げてみればディルはゆったりと微笑みつつも、燃えるような瞳でアルトを見返し――。
『そうか。なら、自分の見られ方が理解るようにしてやるよ』
そう、宣言した。
そしてそのまま彼は――アルトの頭を散々撫でた。
そう言うと今までと同じように聞こえるが、アルトにとっては全く違った。
抱き締めながら頭を撫で、髪を梳き、綺麗だと言いながら口付ける。
蚊の鳴くような声でもう無理ですと懇願し、漸く解放されたのだ。
その後自室に戻ったアルトが眠れたかと言うと……ディルのせいではないと言っておこう。
***
(いっそ、眠らせてもらえば良かったかな……)
全部するとアルトが眠るからと言い、ディルが触れたのは髪と――あとは口だけだ。
アルトにとってはそれだけでも心臓に悪すぎて、どうすれば眠れるのかは不明だが、万が一次があれば頼みたいところではある。
そんなこんなで、不眠のアルトは朝からぼんやりとしていた。
なのにディルのことを考えると顔が勝手に熱を持つ。
そしてそれを見られると思うと、また恥ずかしくて穴を掘りたくなる。
悩んだ結果、アルトは顔色が分からなくて思考が獣寄りになる姿を選んでしまった。
折角の黒い隊服が着られなくてとても残念ではあったが、仕事に支障を来すよりは余程いい。
俯いたままのアルトに、ディルは暫く沈黙を続けていたが、ややあってぽつりと呟く。
「……大体、理由は分かった」
そう言ってディルは顔を背け、行くぞとだけ告げて歩き出した。
アルトはほっとしてその後ろを追いかけ始める。
ディルが、彼女なりに隠そうとする姿が可愛くて仕方なくて――次はどう愛でようなどと考えているとは、露程にも思っていなかった。




