表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
叶えたい思い
84/93

76.全ての理由

「……うそ……」

「気に入らなければ、なかったことにしてやるが」


 呆然としたような呟きに、ヴィランはにやりとしながらそんな提案を持ちかけた。

 と言っても会議で決まった事なので、本気の言葉ではない。

 だが、何でも真に受けるアルトにとっては冗談にはならなかった。


 はっと我に返った彼女は、すぐさまぶんぶんと首を振る。


「いえっ、いいえ!」


 慌ててそう否定しつつ、まるで取られまいとするように、手にしたものをぎゅっと抱き締めた。


 それは自分の願いと、向けられる信頼が形になったもの。

 その事を改めて実感し、アルトは自身の内に沸いた思いを、力一杯声にした。


「ありがとうございますっ、いっぱい、いっぱい頑張ります!」


 この先、辛くて悲しいことは恐らく何度も経験する。

 自らの無力さに泣き、得たものが重く感じることもあるだろう。


 だが、信じてくれた人と守りたいと願ったもののために、前を向いていたいとアルトは思う。

 たとえ座り込んだとしても、そのふたつが胸にあれば、きっとまた歩き出せるはずだ。


(それに――)


 すぐ傍を見上げれば、温かい手がアルトの頭に乗った。

 隣を望んでくれたかけがえのない存在が、アルトの心をより強くしてくれる。



 そんな二人の様子に上官二人は苦笑をし、とは言え、と切り出した。


「実は、着る機会をあまりあげられそうにないんです」


 困ったようなルイツの表情に、アルトはどうしたことかと瞬く。

 すると隣から、初めて街へ行ったときの事を覚えているか、との問いが降ってきた。


 勿論だ。

 忘れるはずがない。


 アルトが砦に来てまだ日も浅く、初めてのお休みで、初めての街だった。

 色々な出会いに心が動かされていた中で、最悪の出来事にも遭っている。



 苦い顔を見せるアルトに、ルイツが重々しく話を始めた。


「伝達で知っていると思いますが、同じように街で魔物が出るという、有り得ないことが何度か起きています。

 ジーナ達も中々尻尾が掴めずにいるようで、警備と魔物への対処、欲を言えば何かしらの手掛かりが掴めたらと考え、今回、この砦からも人を出すことになりました」


 その言葉に、アルトはこの先に告げられるであろう指示に察しがついた。


「まさか……」

「ええ。あなたに任せたいと、思っています」

「!」


 アルトは目を丸くした。

 嫌だからでない。

 この人手不足の時期に決定した重要な任務。それを任せてくれたことに驚いたのだ。


「その、僕なんかで……」

「どうせ動くなら、目立つ方が良かったんです。他にもいろいろと理由はありますが、苦情は共に向かうディルへどうぞ」


 そう言ってルイツが視線を流した先を、アルトも見上げる。

 全ての理由を押し付けられた彼はと言えば、アルトをただ真っ直ぐに見つめ返した。


 ディルがアルトを選んだこと。

 それは間違いなくこの事に影響しているのだ。


 だが、理由はきっとそれだけではない。

 そしてそこには、アルトにとって贅沢な答えが詰まっている気がした。


 だからアルトはルイツに視線を戻し、ふるふると首を振った。


「重要な任務を任せて下さって、ありがとうございます。僕がお役に立てるなら喜んでお受けします」


 しっかりと前を見据えて了承すれば、ルイツが笑みを浮かべて頷いた。


「ではまた調整していきましょう。予定では半月後から街に滞在して頂くつもりですから、そのつもりで」

「分かりました。――必ず、解決して見せますね」


 別れ際、宜しくと口にしたジーナ。今ならその理由が分かる。

 信じて託してくれた。そして、出来ると任せてくれた。

 それにきちんと報いたい。


 絶対にやり遂げようと心に誓っていると、ヴィランが同じだなと笑った。

 何が同じか分からずにアルトがはてと首を傾げると、ルイツが可笑しそうに口を開いた。


「ディルも全く同じことを。息が合うようで何よりです」

「う……」

「えっ、本当ですか!」


 恥ずかしそうに俯いたディルとは逆に、アルトは素直に喜びを表した。

 

 単に揃ったからというだけではない。

 ずっと思い描いていた、理想の形に一歩近づいた気がしたのだ。


「嬉しいです。この調子で、終わる頃には父様と母様みたいになれてたらいいなぁ。よろしくお願いしますね。ディル様」


 満面の笑みで見上げたアルトに対し、ディルは顔を覆ったまま、辛うじて頷いた。


 想う相手からの無自覚な攻め。

 それに防戦を敷くこの様子は、関係が変わっても変わらないらしい。

 今や彼は、いつ攻め返しても許される地位にいるはずなのだが……。


「へたれだな……」

「否定はしません」


 ヴィランの呟きにルイツが同意した。

 この調子では、先程の件で今晩二人が話し合おうとも、大したことは起こらないと確信できる。

 そもそも勢い余って出来るなら、彼が初めて想いを走らせた夜にすでにどうにかなってしまっているだろう。


 そんなディルの忍耐が、なくなりそうな事と言えば――。


 ルイツが考えを巡らせた時、扉を叩く音が部屋に響いた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ