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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
叶えたい思い
81/93

73.名前を呼んで

 柔らかい唇が、睫毛に含まれた涙を拭う。


 遠退く熱に呆然として瞬けば、また新たな雫が反対の頬を伝った。

 ディルはそれが零れ落ちる前に口を寄せ、想いの欠片を掬い取る。


「……っ」


 漸く何が起きているのか分かり、アルトは思わずきゅっと目を閉じた。


 触れられた部分が正確にその感触を感じ取っていて、痺れにも似た感覚がじわりと沸く。



 こんな感覚は、知らない。

 クレストやライカにそうされたのとは、あまりにも違いすぎる。



 慣れない刺激に、アルトは知らないうちに息を詰め、掴んだ胸元を強く握り締めていた。


 その反応を見ながら、ディルはまだ涙を含む目尻に口付ける。


「ぅ……」


 立てられた甘い響きにアルトがぴくりと震えれば、腰に回った手に力が籠った。



 ――熱い。



 その身を捕らえる囲いの中で、感覚の全てが彼へ向く。

 思考は奪われ、ただディルのことを感じていた。 



 そうして溢れる雫が落ち着き始めた頃、不意に匂いが薄まって、彼が顔を離したのだと気がついた。

 与えられた(いとま)にそっと息を吐き出して、アルトはゆるりと目を開く。

 見上げた先には、もどかしそうな――堪え切れないような表情をしたディルがいた。



「――……いいか?」



 尋ねる言葉に思考が追い付かず、ただ縋るように見つめた。


 構うことはない。

 触れられて喜びこそすれ、嫌なことなど何もない。



 大人しく見返すだけのアルトに、目を眇めたディルが再び顔を寄せた。



 そっと、吐息が奪われる。



 優しい一瞬はまるで幻の様で、二度目は少し長くなる。

 苦しくなれば唇が離れ、一呼吸の間に再び口付けが落ちた。


 それは言葉よりもずっと深く、ディルの想いに触れられる。

 アルトも伝えきれなかった心を届けたくて、何とか応えようと試みた。


 その瞬間。


「! っ……」


 入り込んだ熱に驚いて跳ねた身体を、ディルがぐっと引き寄せた。


 腕に籠った力は強くて、でもアルトが潰れてしまうほどではない。

 経験したことのない触れ方も優しさを損なわなくて、また無性に泣きたくなった。



 走り続ける心臓と、上手に息が出来ないせいで呼吸が乱れる。

 もがくように、縮こまっていた手をディルに伸ばし、彼を掴んだ。



「――……アリア」



 不意に、彼が名を呼んだ。

 呼ばれるだけで、心が震えた。

 痛みを持ち怖くて押し込めてきた名が、彼の声で息をする。


「――っ、呼ん、で……」


 呼ばれたい。

 ディルになら、何度でも。


 求めるアルトに、ディルはちゃんと応えてくれる。


「アリア……」



 その特別な名を呼び、重ねたそれは渇きを潤すように深さを増した。


 心臓がうるさくて、耐えられない。

 苦しいのに、止めて欲しいと思えない。


 奪われている様な、与えられている様な感覚に、抗うことなく全てを委ねていた。


 ディルの熱がアルトを掻き乱し、感じたことのない感覚を引き出す。



(ディル、さま――……)



 その瞬間、アルトの膝がかくりと折れた。











それしかしてない……

こんな回を作っちゃってすみません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] きゃーーーーーー! キター(゜∀゜*)♡ やっと、やっとですよ、みなさまっ(*ノ▽ノ) いやんもう、大切なときの「アリア」呼び! アルトの本名、忘れてましたよ(え) しかもキスが優し…
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