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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
叶えたい思い
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71.願いを聞かせて

『――貴方は時々、物凄く馬鹿ですよね』


 ルイツの声が聞こえた時、アルトは思わずくすりと笑った。


 相変わらず、ディルは彼に遊ばれているらしい。

 きっと大事な弟分が可愛くてつい構ってしまうのだとアルトは思っている。


 すぐにディルの狼狽えたような声が聞こえ、ヴィランが揶揄いを含んだ声音で追い掛ける。


 状況的に二対一のようだ。

 だがそうでなくても、アルトはディルの味方である。

 何と言って援護しよう、などと考えていた時だった。



『――折角、アルト君の為に隊長を降りたのにね』



 その瞬間、時が止まった。



 放たれたたった一言が頭の中で繰り返される。


 だが意味は理解できなかった。


 足が後ろへ下がる。

 靴がこつりと音を立て、それに我に返ったアルトは弾かれたように駆け出した。


(……っ)


 会話が頭を巡る度、はっきりとしていく事実がアルトに重く伸し掛かる。


(……なんで……!)


 有り得ないと思う。

 認められるとは思わないし、取り返しのつかないことだから。


 でもどこかで有り得ると思ってしまうのは、彼がとても――とても甘いから。



 ディルには言葉に出来ない位、迷惑も心配も掛けてきた。


 遠ざける手を捕まえて、ずっと傍にいてくれた。


 分かってくれる。

 願いを叶えようとしてくれる。


 自身の思いや願いを押し込めて、大事にしようとしてくれる。



(どうして、そこまで……)


 してしまうんだろう。

 出来てしまうんだろう。


 分からないから、苦しかった。


 胸に沸く想いに囚われて、アルトが足を止めかけたその時。


「アルト!」


 いるはずのない声が、名を呼んだ。

 思わず振り向けば、必死な様子で駆けてくる黒い姿。


(――!? な、何でっ!?)


 いつから追われていたのか。

 近づく距離に焦ったアルトは、逃げる理由も分からないまま、咄嗟に目の前に見えた建物へと飛び込んだ。


 無意識に自分を守れる場所を求め、漸く辿り着いたそこは――。


(しまっ、た……!)


 鍵がかかっていた。


 不在の間ルイツが管理していてくれたのだと気づいた時には、足音が階段のすぐ下まで迫っていた。

 慌てて屋上へ続く扉を開き、傷が痛むのも構わずに自室の上へと飛び上がる。


(……し、んど……)


 乱れた呼吸を落ち着けて、荒れる心臓を宥めようと試みる。


 体力が落ちていることを実感していると、扉が開く音がアルトの耳に届いた。



「――元気になってくれて何よりだが……あんまり動くなって、言われてるだろ」



 何処へとなく呼び掛ける、ディルの声。


 まだ息も整わないうちに発せられた、その言葉と響きの優しさに、アルトは思わず蹲り、抱えた膝に顔を埋めた。


「降りて来い」

「……」


 彼の意識が自分のいる場へと向けられている。

 それが分かって、アルトは嫌だ、だめだと繰り返した。


 どちらも動くことなく、静まりかえる屋上。

 暫くして、何かを諦めたような溜息が落ちる。


「お前は……いつもそうだよな。素直かと思えば、そういうところは頑固で自分に厳しくて……」


 零す声と共に、ディルの靴音が大きく響く。



「――放ってなんて、置けないんだ」



 間近で聞こえた声にはっとした瞬間、温かさがアルトの身体を包みこんだ。

 遅れて彼の匂いが満ちていき、胸がぎゅっと締め付けられる。


「病み上がりなんだ。ほら、大人しくしろ」


 そう宥めつつ、ディルが身体を抱え上げようとする気配を感じ、アルトは力なく抵抗した。


 ささやかなそれに、彼はまた溜息をついて口を開く。


「さっきの副長のは違うぞ。本当は――」


(……っ、だめだ……!)


 先の見える切り出しに、アルトは身を包む腕を振りほどき、彼が言い切る前に吐き出した。



「もう、やめてください……っ」



 何を言ってもディルはアルトを甘やかす。


 どれ程困らされようと、最後には絶対に許してしまう。



 その度に胸に募る、この言い様のないもどかしさ。



 いつからか感じ始めたそれを抱え、アルトは自立を願った時とは違う気持ちで、彼の優しさを拒絶した。



「……いいんです。もうそんなにしなくても、僕は大丈夫なんです。だからこれ以上、甘やかそうとしないで下さい……」



 泣きそうだった。


 でも泣けばきっと言葉が続かなくなって、ディルがまた許してしまう。

 だからどれだけ拙くなっても、伝えないといけないのだ。


 それが、散々甘えてきたアルトの我儘でも――ディルにはもう、本当の思いを飲み込んで欲しくないから。


 アルトの願いではなく、自分の望みをちゃんと叶えて欲しいから。



 ぐっと奥歯を噛み締めて、顔を上げた。

 心を抑えて微笑めば、驚いたように目を丸くした彼が目に映る。

 その姿を見つめ、アルトはまた口を開いた。


「ディル様には……ディル様が本当に願うことを、言いたいことを言って欲しいんです。そしてどうか、もう僕の手を離して、望むものを掴んで下さい。

 ……貴方が穏やかでいられるなら、僕はそれだけで……きっと嬉しいと思うから」


 今抱く思いを、そう言葉に変えて息をつく。


 するとふと、ディルの表情が苦し気に歪んでいることに気がついた。

 それと同時に、有無を言わせぬ力がアルトの身体をさらう。



「――ならちゃんと、聞いてくれ」









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― 新着の感想 ―
[一言] ごめんなさい。 かなり復活してきたので、つい来てしまいました……! 最近更新が頻繁でウハウハです。毎日の癒しです。 ディル、良かったねぇ(;∀;) 誤解もあるようですが、そこを解くときに…
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