表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
離れた地で思うこと
76/93

68.帰還準備

「む、こんな感じかな。思ったより『普通』でよかった……」


 身に着けた衣服を見下ろし、アルトはそんな感想を抱いた。


 上はシャツと丈の長いベスト、そして下は長さの違うズボンを2枚重ねて身に着けるようになっていた。

 そのうち一つは小さい子供が着るもののように太腿までしかなく、ベストを着ると裾が僅かに見える程度しか出ない。一方で、長い方はきちんと足首まで覆ってはくれるのだが、驚くほど肌にぴったり沿う作りだった。


 あまり見ない組み合わせではあるが、着てみると意外とおかしくはない。また、一見少年のような格好だが、衣服が線の細さを強調して男と言うには難しい。

 そんな絶妙な組み合わせだった。


(……色んな意味で、凄いなぁ……)


 新しい発想と有無を言わせぬ力、そして他人アルトの体形を完全に把握しているところ。

 考えれば考えるほど出てくる凄さを実感しつつ、アルトは数日前の事を思い返した。




 アルトの治療経過は順調で、ちょうど10日目に傷を縫っていた糸を抜くことになった。

 その時、明日には砦に帰っていいと言われ、当然ながらアルトは大いに喜んだ。

 例の如く訪ねてくれたジーナに報告し、砦へと走り出す時を楽しみにしていると――。


『じゃ、帰る時に着てね。朝出来栄えを見に来るわ』


 そう言って、ジーナは有無を言わさずその服を押し付けていった。

 確かにアルトが着ていたのは病院の治療着ばかりで、服など持ってきていない。

 初日に身に着けていたという砦の術衣も、他の隊員のものと一緒に回収されている。


 とは言え、正直狼姿になってしまえば服などなくても何の問題もない。

 それに、良くなったら駆けて行きたいとずっと思っていた。

 多少痛かろうとも構わない。浮き立つ気持ちが抑えられなくて、もはや大人しくなどしていられないのだ。




 ――という、アルトの考えを見越しての事だろう。

 まだ本調子でない身体で変化して走り出さないよう、ジーナは衣服を与えるという形で先手を打ってきた。


 アルトが他人から受ける心遣いを無下にはしないと分かっていて、その感情と行動を制御した手腕は見事だと言わざるを得ない。


(そういうところが、また似ちゃってたりするんだよなぁ……)


 不意にまた影が顔を出し、アルトはそれを呼んだ自分自身に苦笑した。

 本人に打ち明けたこともあってか、どこか諦めにも似た感情を以てそんな自分を受け入れる。


 目を閉じて息をつき、前を向く。


(……よし。頑張ろう)


 その気持ちをしっかりと握り締め気合を入れていると、部屋の扉が外から軽く叩かれる。

 約束通りの訪室にアルトが頬を緩ませて入室を促せば、案の定扉の向こうからジーナが顔を見せた。


「アルト君おはよ――」

「お早うございますっ、ジーナさん」


 灰色の髪は綺麗に結われ、飾り気のない衣服を上品に着こなす。

 朝早くともいつも通り美しいジーナを、アルトは満面の笑みで迎えた。

 だが彼女は挨拶を途切れさせて以降、言葉もなく目を瞠って固まってしまった。


「えと、あの、ジーナさん?」


 ぴくりとも動かない様子に、アルトはどうしたのかと窺うように灰色の瞳を覗き込んだ。

 そしてそっと触れようと手を伸ばした瞬間、ジーナがはっと我に返ったように息を飲み手を組んだ。


「やだ……! 可愛いわ!」

「…………えと……」


 感激、と表現する以外に思い浮かばない彼女の反応を見て、アルトは照れるより先に僅かに身を引いた。

 だがジーナの可愛いものに対する想いは止まらない。


「男の子の服でも十分可愛いんだけど、もうちょっと手を加えたかったのよね。だからと言って女の子らしすぎると狼の巣に戻るのに危ないし……」

「…………あの……」

「悩んだけど、これは当たりだわ」

「…………」


 満足げに頷く様子に、アルトはもう何も言えなかった。


 非常に優秀で優しいひとなのだが、ジーナは時々おかしくなる。

 これこそが最大の彼女らしさなのだが、この10日間で訪れた2度目の波をアルトは大人しく静観していた。

 因みに1度目は、贅沢ながらジーナが来てくれるのを待っていたと告げた時だった。


「――それで、具合は本当に大丈夫?」

「あ、はいっ」


 回想に耽っていたアルトは、不意に落ちた真面目な問いに咄嗟に肯定を返した。

 とはいえ、日常生活には殆ど支障がなくなっているのは事実だ。

 動きの鈍さだけが問題で、実践に出る時期の判断は砦の医療班に任せられている。

 帰還後はヴィランとルイツに会い、その後は医務室に行かなければならない。


(まぁ、元々挨拶しなきゃと思ってたし)


 砦に戻ってからすべきこととしたいことを色々と考えていると、ジーナがくすりと笑みを漏らした。


「帰りたくてしょうがないのねぇ」

「う、はい……」


 浮かれた思考を読まれた事を察し、アルトは恥ずかしさで頬が染まるのを感じた。

 するとジーナがまた笑い、口を開く。


「なら、長く引き留めてちゃ悪いわね」


 そういう彼女の声音は穏やかなものとなっていて、別れの空気を滲ませる。

 身を引くように身体をずらしたジーナに、アルトは慌てて声を上げた。


「あのっ、本当にありがとうございました! 色々考えて落ち込んだりしましたけど、ジーナさんが来てくれていっぱい助けられました」

「ふふ、どういたしまして。私も貴女と沢山話せて良かったわ」


 拙いながらも出来る限りの言葉を尽くして感謝を述べれば、ジーナが微笑む。

 与えられた好意に購えるものなどアルトにはないが、それでも口にせずにはいられない。


「ジーナさん、頼りないかもしれませんが、僕にできることがあれば言ってください。全力で応えますから」


 しっかりとした意思をもって告げられたその約束に、ジーナは笑みを深め、少しだけ身をかがめた。

 そしてアルトの首に腕を回し、じゃあ宜しくねと囁きを零す。


 明確な事柄を示さず告げられたそれは、アルトからすれば社交辞令のようだった。

 だからいつか何かを頼って貰えるようにと、より強く応えた。


 ――勿論です、と。










お久しぶりなのに、今回も読んで下さってありがとうございます!<(_ _)>


そろそろ帰ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 復帰、ありがとうございますっ! また入り浸らせていただきます♡ アルトのファッションショーは、脳内で楽しませていただきましたー(/ω\*) イラストがあればいいなっと思いながら(/ω・\…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ