66.偲ぶ場所
アルトが次に目覚めた時、窓の外は明るくなっていた。
ぼんやりとしながら慣れない景色を見回して、病院に来ていたことを思い出す。
ジーナの姿はなくなっていて、昨夜の訪れが夢だったように感じたが、枕元には彼女が用意してくれた布が落ちていた。
誰かが傍にいたことと意識すると、殺風景な室内がよりがらんとして見える。
(……しっかり、しなきゃ)
すきま風が入り込み、勝手に縮まろうとする心を叱咤し、アルトはゆっくりと身を起こす。
ぐらぐらとする身体は変わらず発熱しているようで、傷は容赦ない痛みを訴えていた。
一朝一夕で良くなったりはしないと溜息をついていると、扉の向こうから入室を求める声がかかった。
アルトが返事を返せば朝食が運ばれてきて、身の回りを整えてもらいつつやっとのことで食事を始める。
怠さと痛みで食欲はなかったのだが、早く良くなるために残すことはしない。
義務のように食べ進め、指示されていた薬を飲む。
(うぅ……お腹が重い)
いつもより消化に時間がかかるようで、アルトは暫くの間壁に凭れて過ごした。
窓から日の傾きを眺め、砦であれば午前の訓練で休憩を挟むくらいの時間だなと思っていた時だ。
白衣に身を包んだ女性がアルトの部屋に訪れた。
医者だと告げた彼女は、まず白銀の髪から覗く耳を上手に撫で、とても満足そうに微笑んだ。
どことなく誰かを彷彿とさせるなと思ったが、続いて始まった診察に気を取られ、それが形になる前に霧散してしまった。
そうして一通りの観察が終わり、次は傷の手当てを受けることになったのだが――それはアルトにとって中々に厳しいものだった。
洗う。そして薬を塗る。
ただそれだけで激痛が走り、終わった途端アルトはぐったりとして寝台に身を預けた。
偉かったわねと労る声に辛うじて感謝を返し、立ち去る女性を見送る。
再び一人になった部屋で、アルトは息をついた。
傷はまだ疼いている。
目に映るのは物言わぬ壁ばかりで、ジーナのお陰で立ち直りかけていたはずの気持ちが再び鬱々とし始めた。
仕舞いにアルトは目を閉ざし、視覚を遮断してしまう。
そうすると意識が浮き沈みし、ふと熱が緩めば考えるのは同じことばかりだった。
――砦はどうなっているだろうか。
人が減り、こうして休んでいる間にも皆は頑張っている。
今回の事でアルトは頼りないと思われていないだろうか。
ディルは、どう思っているのだろうか――。
そこまで考えて、アルトはゆるりと目を開く。
意識を失くす直前の事を思えば、思慕と不安が入り交じり、ぎゅっと胸が締め付けられるような苦しさを覚えた。
(……でも、帰って来いって言ってくれたから……)
深みに嵌まりゆく思考を止め、都合がいいと分かってはいながら、否定を含まないその言葉に許しを見出そうとする。
そうして最後には夢の中で黒髪を追い、アルトは長い一日を過ごしていった。
明けましておめでとうございます
きちんとしたご挨拶もまた後程させていただきますm(__)m




