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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
離れた地で思うこと
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64.今の状況とは

「あ、りがとう……ございます。あの、ここは……?」

「街の病院です。砦は人手が少ない状況ですので、魔物との戦いで大きな負傷をされた方はこちらで治療と共に、お世話をさせて頂くことになりました。アルトさんは他の方々と共に、二刻ほど前にこちらに入院されたところです」


 そう説明しながら、女性は寝台の傍へと近づき水差しに手を伸ばした。

 器へと流れる水をぼんやりと眺めながら、アルトは先ほど受けた簡潔な説明を頭の中で反芻し――はっと目を見開く。


「! そうだっ、皆は――っ!」


 仲間の安否に思考が至り、思わず声を上げて頭を起こす。

 だが、急激な動きについていけなかった身体と傷が悲鳴を上げて、その動きを止めさせた。


 アルトがまた寝台に逆戻りして唸り声を漏らすと、女性は慌てた様子で傍に寄り、宥めるように華奢な肩に触れた。


「落ち着いて下さい。きちんと説明させて頂きますから」

「はい……すみません……」

「いいえ、無理なさらないで下さいね」


 穏やかな声音で気遣われ、アルトは益々項垂れた。

 つい先ほど似たようなことをし、自身の身体の状態は分かっていたはずなのだ。

 つくづく身体が動く質だと反省し、もたらされる情報大人しく待った。


「まず他の方々ですが、別のお部屋で療養して頂いています。今のところ亡くなった方はおられないと聞いていますよ。……復帰が難しい方は、いらっしゃいますが……」

「……そう、ですか」


 単純に良かったと言ってしまうには、辛い現実だ。


 今までの自分を失うことになった時、生き残ったことをむしろ恨む日があることをアルトは知っている。内側に負った深い傷はそう簡単に癒えてはくれず、近くにあるが故に目を逸らすことが難しい。


 だから生きていてくれて良かったと思うのは、アルトの身勝手なのかも知れない。

 そう思い悩んでいると、女性が思わぬ言葉を届けてくれた。


「皆様もアルトさんの事を心配しておられました。もう少し良くなったらお顔を見せて欲しいと仰っていたので、是非そうして差し上げて下さい」


 驚いて顔を上げれば、目が合った女性が微笑みを返す。

 それを見て、アルトは今の台詞がただの気遣いなどではなく、彼らが本当に望んでくれたことなのだと理解した。

 

(強いなぁ……)


 優しくて、強い。

 砦の騎士達を思えば、生きていただけでも有難いぞと笑い飛ばす姿が浮かんだ。

 だが、覚悟を決めていても辛いことはあるだろう。一人で戦うのは多分怖い。だからその時は皆がくれたように、アルトが温かさを届けたいと思った。


 そのためにはまず自分の身体を治さなければと考えて、アルトは軽い気持ちで尋ねた。


「2、3日くらいで戻れますか?」

「いえ、恐らく近々熱が出ます。それが引いてからここで傷の抜糸をする予定ですので、少なくとも10日ほどは」

「そ、そんなに……」


 予想以上の長期戦を告げられ衝撃を受けていると、困ったような表情を向けられる。


「なので、アルトさんが飛び出さないようにと伺っています……」

「だ、だれがそれを……」

「連れて来られた黒髪の騎士様です。自分は大丈夫だから、ちゃんと治してから戻ってこいと伝えておいてくれ、とも」


(ディル様だ……!)


 負傷してはいたが、砦と街を移動できるくらいだと分かり安堵する。

 一方で女性は途端に目を輝かせたアルトを見て、くすりと笑みを漏らし口を開いた。


「まずは身体を休めて下さい。まだその姿を戻すには難しいでしょうから」


 そう言い、彼女は自身の頭を指さした。

 見覚えのある仕草に、アルトは自身の身に何が起こっているのか薄々気づきつつも、怠い腕を動かし頭に触る。

 案の定、そこには髪ではないふかふかとしたものが突き出していた。


 それはそうだろうな、と思うしかない。

 あの状況で姿を変えられた事自体が奇跡的なのだ。


 気をつけますと答えて礼を述べれば、女性は頷きを返し、台に置かれた鈴を示した。


「それでは、私は一度失礼させていただきます。御用があればお呼び下さい」


 一礼して立ち去る彼女を見送って、アルトは再び目を閉じた。






***






 それから暫くすると悪寒を感じ、言われた通りアルトは発熱した。

 気だるくて身体が重い。傷は動く度にいちいち痛む。さらには毒の影響で力が入り辛くなっているらしく、夕食も整容もひとの手を借りなければならなかった。


(こんなはずじゃ……)


 自身の傷の深さを知らないアルトは、ひと眠りすれば多少は動けるようになるだろうと思っていた。しかし事態はむしろ悪化していて、自分の考えの甘さを強く思い知らされる。


 些細な事にも助けを必要とする状態にいよいよ申し訳なさしか感じなくなり、アルトの視界が僅かに滲んだ。


 大人しく横になったまま、眠ることも出来ずただ時が流れるのを待つ。

 その時間は、どうしようもなく長かった。


(早く……せめて、もうちょっと力が戻らないかな……)


 そんなことを思いながら壁を見つめていた時。


「――アルト君?」


 扉を叩く音と共に、名を呼ばれた。

 艶のあるその声は、この土地にして欠かすことのできない人のもの。


「ジーナ、さん……?」









主人公に物理的に痛い思いをさせることが多いと今更気づきました。

……趣味なのかな。

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