62.会議
夜明け前、ヴィランとルイツ、そして各隊及び各部門の代表者が会議室に揃っていた。
「今回の件について、交戦した隊員達には通常通り報告書を記載していただく予定です。ですが早くに皆が知っておくべきことがある――ですね? ディル」
「はい。今回の魔物は出現から始まり、あらゆる点で普通ではありませんでした」
そう切り出したディルに、机を囲む者達から視線が集まった。
先を促すような沈黙に、彼は続けて口を開く。
「夜目の利く隊員が見張り台から数体を視認、討伐に出たところ次々と魔物が現れました。それで応援を要請するに至った訳ですが、何より不自然だったのはそれ程近い距離であったにも関わらず、そのどれもが砦や隊員を目標としていなかったことです」
その一つだけで考えることが山程ある情報に、皆難しい顔をして黙り込んだ。
「……どこに、向かっていたかなど――愚問か」
第四隊長であるテセラがぽつりと疑問を呟いて、自身でそれを打ち消した。
最終的に交戦していた場所と方角から考えて、魔物が向かっていた先は恐らくそこだ。
不確かな事ばかりの魔物に、『普通』を期待する方が間違っている。だが今回のことを魔物の気紛れで済ませてしまうのは危険だった。
異常だったのは、魔物かそれともその場所か。
「レジーナ殿に報告、ですね」
「……万が一、確実に魔物を呼べる何かがあるとすれば……相当厄介だぞ」
「そんなもんあってたまるかよ。――ったく、懲りねぇ奴がいるもんだ。あそこまでに辿り着くのに、あの姉ちゃんがこの10年どれだけ苦労したと思ってる」
憶測を口にし警戒や憤りを強める部下達に、それまで黙っていたヴィランがその場を抑えるように手を上げた。
「気持ちは分かるが落ち着け。ルイツ、話を進めろ」
「はい。それに関しては後程検討した対応策を伝えます。ひとまず各々、隊員達に勤務中気付いたことがあれば報告するように伝達してください」
何をどう話しても、結局現状では手の打ちようがない。
時間の浪費を避ける締めの言葉に、各々膨らませかけた感情を収めて頷いた。
「では次に、被害状況と当面の体制について伝えておきます。――ノーティス」
「……魔物の進行を食い止めた第一隊の被害が大きい。現時点で死者はいないが、負傷者の内2名は復帰できない者がいる。他、十余名は当分復帰の許可は出せない。歩行が可能なものは自室で療養させるが、予断を許さぬ者を除き、日常生活に介助が必要な者は街の療養機関へ移したい」
砦は特殊な薬を扱えるが、動けない者を終日世話するための人員はない。
医療班からの希望はやむを得ないものだ。
「……それにしても、よくそんな被害で済んだもんだ」
負傷者の報告にゼクスが溜息をついて呟いた。
実際現場にいた立場からの言葉に、机を囲んだ他の面々は苦々しい表情を浮かべる。
「被害状況を鑑み、暫く内勤務をなくして各隊の勤務変更を行います。詳細は書面で確認するように。ひと月後には隊の編成を変え――一部隊員を、街へ派遣します」
ルイツの決定事項を受け、彼らはその内容全てに承諾を見せた。
アルトが街で魔物を討伐した事件以降、似たような報告が2度ほどジーナから届いていた。
街は近いとはいえ、砦から馬車で2刻はかかる距離だ。それに砦の隊員達の家族も多く住んでいる。
役人達が原因を突き止めるまでの間、一時的に砦からも騎士を派遣し対応してやるべきではという意見もあったのだ。
そのため新たに増えたその任務に、誰も驚きは見せない。
むしろとうとう決めたかという空気が漂う中、ある者がルイツに尋ねた。
「誰を行かせるか、もう決まっているんですよね?」
「ええ。反対であれば仰ってください。我々が送り出すつもりなのは――」
――その後ごく僅かな時間で話は終わり、それぞれが与えられた役割を果たすため再び動き始めた。
その中でディルは少しの休息時間を与えられ、自らの隊員達に必要事項を伝えた後、再び医務室に足を向ける。
そこで何より願っていた知らせを受けて、漸くいつも通りに彼女に触れた。
その傍で、暫しの間目を閉じる。
日が昇れば負傷者を街まで搬送する。そしてその後はジーナに今回の件を伝え、今後の調整を行わなければならない。
休まる暇などないが、自分が選び取った道だ。それくらいの事は何の苦でもなかった。
砦側の動きはようやくこれで終わりです。
次からは主人公復活です。
――が、また少し更新伸びます。すみません。




