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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
示す覚悟と選ぶ道
66/93

60.彼がすべきこと

医療行為なので許して下さい。(泣

 縫合だけを請け負うノーティスに短く返事を返しつつ、カイルは彼女の診察を進めた。


 このままカイルが縫ってしまっても何の問題もないのだが、少しでも傷痕を目立たなくしようと思えば、この医療班で最も手先の器用な彼に任せるべきだ。

 そしてそのためには、十分傷を洗ってやらなければならない。


 カイルが手持ちの布に消毒薬を浸して拭えば、それはすぐに真っ赤に染まってしまった。


(……)


 見慣れた光景なのだが、思わず眉間に皺が寄る。




 アルトが負傷したらしいことは、同族の血の匂いで分かっていた。


 ――また、痛みを我慢しているのではないだろうか。

 彼女の事だから、怪我をしたことで自分を責めていないだろうか。

 どんな風に言って、褒めてあげようか――。


 そう考えていたカイルの言葉は、カーテンを開けた瞬間だだひとつの叫びに変わった。



『――アルト君っ!!』



 ――この余裕のない状況下で、動揺を表に出したことは反省している。

 すぐにすべきことを思い出せたのは、ノーティスのお陰だ。

 彼に伝えられた簡潔な情報と見立てはきちんと頭に入っている。



(班長の言う通りか……)


 体温が低下していて、拍動は弱い。尚且(なおか)つ激痛を伴うはずの傷を抱えながら、何の反応もなく瞼を閉じている。

 まるで苦痛を取るために鎮静させたようだ。


 毒の作用によるものだろうが、それで生理的な機能が落ちているのも事実だ。

 お陰で解毒しきって覚醒するまでは、少しも油断できない。

 既に深い損傷を負っている今の状態では、普段では些細だと思うことですら命を脅かしかねないからだ。



(使うのはこれと――)


 アルトの足元を高くしつつ、何種類かの薬を用意していたところで、(ようや)く求めていた介助者が顔を見せた。


「ああ、ヒース」


 湯と沢山の布を持ってきた彼は、それを目にした瞬間小さく息を飲んだ。

 そして苦々しい顔でカイルに問う。


「なんだこれは」

「頑張りの結果……かな」


 カイル自身、そう思うしかない。


 それが分かったのか、ヒースは顔を背けて舌打ちをした。そうして手際よく傷を清め始める。



 血の汚れを落とすにつれ、あちこちに出来たかすり傷が現れてきたが、最も深いのはやはり腰から胸にかけて大きく裂けた傷だった。

 ごく薄く独特の匂いを持つそこが、毒の入り込んだ場所だろうと考える。


(――痛いって、言えないよね……)


 大丈夫が口癖の彼女に、カイルはそれを何度も言わせようとしてきた。

 でもむしろ今は、いつもの分かりやすい嘘が聞きたいくらいだった。




 手早く洗浄を終え、保温のためにも処置に関わらない部分を毛布で覆う。

 そうしてカイルがノーティスを呼べば、丁度別の負傷者の治療を終えたところで、すぐにこちらへと向かってくる。


 彼はそのままカイルを介助につかせ、アルトの傷の奥から縫合し、次いで表面を縫って閉じた。

 手先だけは器用な彼の縫合はやはりとても綺麗だった。


「後は任せる」

「有難うございます」


 多忙な彼はすぐに出て行った。

 聞けばもう一人毒を受けた負傷者が運ばれてきたらしく、そちらはより重症だとのことだった。


 状況が気になりつつも、カイルは自身の担当に集中する。

 傷に薬を塗って布を当て、再びヒースの力を借りて包帯を巻いた。


 余談だが今のような状態のアルトを支える事を、彼は非常に嫌がった。

 カイルとしては、嫌がってくれるくらいの方が信用できるので大いに彼を利用した。



 他の傷も含めて一通りの手当てを終え、再び寝台にアルトを寝かせた頃には一刻半は経過していた。


「お疲れ様、貧乏くじを引かせたね」


 カイルがヒースを労えば、彼は疲れたように思い溜息をついた。


「もういい……。ただ、こいつには絶対言うなよ」

「気にしないと思うけどなぁ」


 この状況でどこを触ろうと完全に不可抗力だ。アルトの性格上感謝以外に特に何か思うことはないだろう。

 それが心配にもなるのだが。


「今後負傷時は街へ向かわせろ」

「そうだよねぇ」


 それでもここに居るべきではないと言わない同僚は、見習いが手にした居場所を奪えないでいる。


 カイルも同じだ。


「――まぁ、その辺は副長に考えてもらおう。ヒースはまたそろそろ本職へ戻らないとね」

「今日のはいつもみたいにはいかねぇからな」

「美味しければ何でもいいよ」


 負傷者にも摂取しやすい形態を優先するため、本日の食事は普段のような選択肢に幅のある献立にはならない。

 カイルが頑張って、と声を掛ければ、ヒースは人を応援してる場合かよと呟いて出て行った。



(さて、と)


 色んな意味で疲れた。

 だが、ヒースの言う通りカイルにもやることは山積みだった。

 処置が終わっても重傷者の観察は常時必要であるし、隊員別に行った診療記録をつけなければならない。

 ひとまず他はどうなっただろうかと思った時、ノーティスが顔を覗かせた。


「終わったか」

「はい」

「急ぐ処置はない。――ついているか?」


 命令ではなくカイルの意志を確認するその言葉に、暫し固まった。


『誰に』かは、言われずとも分かる。

 継続した観察が必要な彼女は、区切りを解放して他の隊員と纏めて診るには問題がある状態だ。

 そうなれば誰かが傍につく必要がある訳で。

 加えて言うなら、書き物は何処でも出来る訳で。


「…………書類を取ってきます」


 そう告げて、カイルは医務室奥の棚へと足を向けた。









深く考えると問題しかない。

保護者がいないのがつくづく痛手です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつみんさまっ!アルトくん、Laを見せすぎじゃないですか(*/□\*) 生着替え、彼シャツふぁさり、そして医療行為の3度目ですよ! アルトはのほほんとしてそうだけど、ディルが嫉妬しちゃっ…
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