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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
示す覚悟と選ぶ道
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55.夜の戦い③

 アルトが岩陰を離れた時、轟くような咆哮が響き渡った。それに呼応するようにあちこちで同様の声が上がり、異様な空気を醸し出す。

 それに当てられ立ち尽くす隊員達を余所に、双頭の魔物が踵を返して駆け出した。


 それにいち早く反応したディルが回り込もうとするも、鞭のようにしなる尾に阻まれる。


 アルトはディルの意を汲んで、走ったままの勢いでその魔物へと飛び掛かった。

 首筋へと咬み付き、前脚に力を込めて爪を食い込ませてみたが、毛皮が厚くどちらも致命傷を与えられずに終わる。

 しかし痛みは感じたようで、唸って足を止めた魔物はアルトを振り落とそうとその巨体を暴れさせた。


 見切りをつけたアルトは後脚で魔物の背を蹴り、攻撃を受ける前に距離を取る。

 危なげなく着地したものの、気を緩める間もなく尾が横薙ぎに走って来て、再び飛び上がって避ける。

 身を捻ってディルの傍に降り立てば、彼は視線を敵に向けたまま声を荒げた。


「お前っ、何でここに居る!」

『応援です! もうすぐゼクス隊長たちも追い付くはずですっ』


 ディルは驚き何かもの言いたげにしたが、こちらに向き直った魔物が前脚を振り上げたのを見て、言葉を止めてそれぞれ脇に飛び退いた。


 まともに言葉を交わす間もないが、それでもアルトはもう一つの重要事項を伝えようと呼び掛けた。


『ディル様っ、もしこの魔物から受けた傷があれば、すぐに薬を――っ』

「!」


 魔物がディルを追って牙を剥く。咄嗟に距離を取りつつも、彼が片手で解毒薬を取り出すのが見え、アルトはこれ以上口を開くのを止めた。

 互いに集中しないと洒落にならなくなる。


 ディルとアルトが魔物から距離を取れば、二つある頭が二人を睨み、尻尾が苛立ったように地面を叩いて抉った。


(せめてあれ抜ければ――)


 魔物の脇腹に深く突き刺さったままの剣。それを引き抜くことができれば、出血が増えて魔物の消耗が激しくなる。

 応援が来るまで防勢とし、魔物の足止めを続ける方が賢明なのだが、怪我を負ったディルが何処まで動けるか分からない。他の隊員達の疲労も考えると、もう少し動きを抑えたいと考えた。


 だがアルトがそこに接近しようとすると、魔物は傷を庇って強い反抗を見せる。

 2打、3打と続く攻撃を躱すうちに距離を取らされ、再び引き離されていく。


(厄介な……っ)


 内心で愚痴を漏らしつつ、アルトは目標から程遠い場所へと着地した。さらなる追撃に備えていたものの、彼女が姿勢を整えた頃には魔物の意識は既にディルへと向けられていた。


 後脚で蹴り上げるような攻撃が繰り出される。ディルが飛び退いて避けた瞬間、その場所を狙っていたかのように、棘のある尾が彼を弾き飛ばさんばかりの勢いで迫った。


『!』


 アルトは考える間もなく全力で駆け、身を投じてディルを押し倒した。

 その瞬間強い衝撃が脇腹を襲い、一拍遅れて熱さが走る。気づけば弾かれた身体がアルトの意に反して宙を舞っていた。

 悲鳴のようにアルトの名を呼ぶディルの声が聞こえる。


(大丈、夫……!)


 安心させたくて、アルトは身を捻って着地した。

 傷に響いたが耐えられる。

 見れば身を起こしたディルが剣を振り上げ、魔物の尾を切り落としたところだった。


「アルト!!」

『……だいじょぶですっ』


 拍動するような痛みが傷の存在を主張する。それに伴う自身の出血はいかほどか不明だが、立っていられるならさほどの深さはないだろう。

 そう判断して魔物に向き合うアルトに、ディルの焦ったような声がかかる。


「もう下がれっ!」

『いいえ! まだ持ちます!』

「だめだ! 早く――」


 必死で制止をかけるディルが、こちらに向かって来ようとしたその時。

 再び魔物が大きく吠えた。

 そして怒りに染まった目でディルを振り返り、アルトに駆け寄ろうとする背に牙を剥いた。脇に飛び退き避けた彼をさらに追い、魔物は狂ったように前脚を振り払う。


 完全に狙われている。


(っ、冗談じゃない……!)


 これ以上ディルを疲弊させるわけにはいかない。

 尾が無くなり、阻むもののなくなった脇腹に向かって駆けたが、ディルに集中している魔物はアルトには目もくれない。

 その好機と言うには苦い状況に、アルトは魔物に飛び付きその身体に刺さった剣の柄を咥えた。

 肉の切れる嫌な感触を感じつつも、力を込めて引き摺り出せば、魔物はびくりと動きを止めて傷を抉る刃物の動きに絶叫する。

 途中から自然に抜け落ちる剣から口を離して着地し、アルトは警戒を保ったまま魔物から距離を取った。


 下がるアルトの視界の端で、隙をついたディルが晒された急所に剣を突き立て引き抜くのが見えた。

 一拍置いて、巨体が音を立てて地面に倒れ込む。


(……どうか、これで……!)


 終わってくれと願い、アルトは離れた位置から魔物の動向を見守った。

 巻き上げた土埃が落ち着く頃、その姿が少しずつ欠けはじめる。


(やっ、た――……)


 肩で息をし、視線を巡らせディルを見れば、彼も同じく呼吸を乱しながらも周囲の状況を把握しようとしていた。

 そして一息つく間もなく、近くで聞こえた金属音がアルトとディルに動けと告げる。

 

 魔物は少しずつ減ってきているが、それと共に負傷者も増えている。

 あと少し――そう踏ん張った時。


「――お前らよくやった! 此処からは俺が引き受ける!」


 場違いに明るい声が響く。


「「――っ、団長!」」


 待ちに待った、強力な応援が現れた。








お読みいただき感謝です!


団長無双。

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