表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
示す覚悟と選ぶ道
58/93

52.混乱を極める見送り

 すっかり姿の見えなくなった応援を追おうと駆けだしたところで、アルトは自分の動きの鈍さに気が付いた。

 鈍いというよりは、逸る気持ちに身体が追い付いていないのだ。

 心は既に砦を飛び出しているのに、アルトの身だけがここにあり、もどかしさばかりが募っていく。


 不意に、いつか夢で見た光景が思い出された。

 奥歯を噛み締め、それを打ち消す。


 ――どうか、間に合って欲しい。何一つ取りこぼす事なく、守らせて欲しい。


 そう望み、アルトは全力を出すのに邪魔なものを外し始めた。

 都合よく向かう門の先に馴染みの存在を見つけ、声を張り上げる。


「――リッツ!」


 坑道のような造りで声が反響し、声が届く。

 砦の外の暗闇に目を向けていた彼はぴくりと肩を揺らし、勢いよく振り返った。

 そして、絶句した。


「――!?」

「これ預かっといてくださいっ! あと靴とズボンも!」


 そう叫びながら、アルトはナイフを収めたベルトと隊服の上着をリッツに投げた。

 彼が慌てて手を伸ばすのを横目で見つつ、ズボンを緩めて身体を変える。

 外気が肌に触れるのを感じつつ、後ろ脚で地面を蹴れば上体が前に倒れ、突き出した腕は既に白銀の毛に覆われていた。


『散らかしちゃってごめんなさいっ。隊服だけお願いしますー!』


 謝罪を残しつつ、アルトはぐんと速度を上げて夜の平原へと飛び出した。









「な……」


 今し方起きた出来事に理解が追い付かず、リッツは呆然としていた。

 気のせいだったと思いたいが、手にした白い隊服がそれを許さない。

 それに目を落とせば、『彼女』の姿がありありと思い出される。


(――っ、何してくれてるんだ……!)


 思わず既にいない存在に、リッツは心の中で恨み言を漏らした。

 夜でも篝火を焚いた砦はそれなりの明るさがある。それで近くを通られれば、嫌でも相手の姿は目に入る。

 そのたった一瞬の間に見たことが、彼の脳裏に焼き付いてしまった。


 肩口からすらりと伸びた腕に、緩い襟ぐりから覗く華奢な鎖骨。繊細なつくりの身体に反し、前を見据える金の瞳は強い輝きに満ちていた。


 ――はっきり言って、綺麗だった。


 あまりの驚きに状況も忘れて見つめていると、不意にアルトが手にしていたものを投げて寄越し、不様にも慌てて受け取る事になってしまった。

 そうして今それがリッツの手にある。


 アルトは極力肌を晒さないようにしていたため、リッツは彼女が袖を捲っている所すら見たことがなかったのだ。なのに一足飛びであんな姿を目にしてしまい、その上彼女が着ていたものを手にしていると思うと、妙に焦る。


 リッツが助けを求めるように相方の先輩騎士が立つ方向に目を向ければ、そこには居るべき人物がいなかった。視線を巡らせれば、彼は少し離れた場所で脱ぎ捨てられていった靴とズボンを拾い上げていた。


「あーあ、こりゃ副長怒るぜ」


 驚きもせず溜息をつくだけの様子に、彼もまたアルトが言わない事実に気づいていたのだと分かった。


「ご存知で……」

「気づかん方がおかしいぞ」

「……ですよね……」


 曖昧な呟きにあっけらかんと返され、リッツは脱力した。

 この分では砦の殆どの隊員は知っているのだろう。分かっていて、受け入れている。

 そうさせるだけの力が、あの小さな存在にはある。


「取り敢えずお前、それとこれ、副長に預けてこい」

「俺がですか!?」

「託されたのはお前だろ。責任もって処理しろよ」


 先輩隊員から良い笑顔で命じられ、厄介なことになったと呻く。

 確かにどうしようとは思ったが、その選択肢は出来れば避けたかった。

 アルトのもう一人の保護者とも言える存在に、この抜け殻を渡したときの反応が怖すぎる。たとえリッツを締め上げるつもりがなかったとしても、この砦の頭脳を担う者の怒りに、間近で触れるのは勘弁願いたい。

 よもや完全な不可抗力で目にしてしまった事にまで、飛び火しないだろうかという危惧もある。


「……くそ、あいつ……!」

「帰って来たら叱ってやれ」


 思わず原因を作った犯人を罵れば、先輩隊員が苦笑しながら助言を返す。それと共に回収したものを押し付けられ、リッツは逃げ場を失くして溜息をついた。

 こっそり部屋へ置いておいても、どのみち本人が帰ってきた時の姿でバレるのだ。そうなれば服を回収したのは誰かという話になる。


(――全く、しょうがない)


 とても素直な頑張り屋。でも時々心配になるくらい抜けている。

 そんなところが、人を惹き付けるのだろう。

 そう思いながらリッツはいつも通り、気になるのは自分だけではないと片づけて、望まぬ感情に蓋をした。

 勝手に虚しさを訴える心からは目を逸らしておく。

 彼女の視線を追えば、この先を想うには不毛すぎるのだ。



 一呼吸置き、リッツは誰かのせいで緩んだ気を引き締め口を開いた。


「すぐ、戻ります」

「健闘を祈る」


 それは飛び出した相手に贈ってくれと思いつつ、ルイツの元へと向かう。


 魔物との交戦が起きる度、誰しも言葉を交わすことすら出来なくなることを覚悟する。

 それでも思わずにはいられない。


 生きて帰って欲しい、と。







お読みいただき有難うございます。


まさかの公開露出。何度考え直してもこの場で脱いでしまうので諦めました(汗


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ