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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
示す覚悟と選ぶ道
57/93

51.誰のため、そして何のために

 早鐘を打つ心臓に呼吸を荒くしながら、アルトは階段を下った。

 途中、普段ふざけ合う隊員達が真剣な表情で部屋から飛び出してくるのを避けつつ、何段も階段を飛ばし、時には手すりを飛び越えて階下へ降り、ひたすら訓練場を目指す。


 そうして到着した訓練場には既に団長と副長が揃っていて、間もなく見張りを除いた全ての隊員も整列した。

 保護者が不在のアルトは現在内勤務の第2隊の列に従い、前に立つヴィランの指示を待った。


 「大量の魔物が沸いた! 数はおよそ20に及ぶ。第2隊は俺と共に至急東へ向かい、交戦中の第1隊を支援しろ! 他は待機し、負傷者の搬送に備えておけ」


 その異常な数に衝撃を受けるアルトを余所に、第2隊の隊員達は声を揃えて承諾した。そして各々装備を再確認し、解放された正門へと走っていく。


(っ、呆けてる場合じゃない!)


 漸く我に返ったアルトは、すぐにでも彼らの背を追い掛けたい気持ちを抑え、ヴィランの元へと駆け寄った。


「僕も行かせてください!」

「ディルの為なら止めておけ」


 許可を求めるアルトに対し、彼は顔色一つ変えずに即答した。

『良い』でも『駄目』でもないその返答はアルトにとって予想外のもので、思わず言葉を止めてしまう。


 確かに、ディルはアルトにとって代えの利かない存在だ。

 どれだけ自立して自分の意志を持とうとも、アルトの中から彼が消えることはない。そう確信している。

 そして彼が今置かれている状況を思えば、アルトの心の一部が今すぐに飛んでいきたいと叫ぶのだ。


 だが――。


「……それ、本気で言ってますか?」


 仮にアルトがディルだけを大切に思っているのだとすれば、とうの昔に砦を飛び出している。

 そして彼だけを助け、自分の為の限りなく狭い世界を守っていただろう。


 しかし今のアルトの手には、それよりもっとたくさんのものが乗っているのだ。


 隠し事をしているアルトを、それでも何も言わず受け入れてくれた人達がいる。

 共に頑張ろうと手を差し伸べ、その調子だと背中を押してくれる。どうかしたかと気遣って、無理はするなと心配してくれる。


(――全部、失くせない。失くしたくない――今度こそ)


 ふつふつと沸き上がる思いを抑えることなく、アルトはヴィランに向かってそれをぶつけた。


「――確かにディル様は特別です。あの人のお陰で僕はこうしてここに居る。でももう、それだけで生きてる訳じゃない。僕だって、この砦の皆のために戦いたい。命を懸けて戦う皆の事を、同じように命を懸けて守りたい!」


 与えられた優しさだけを握り締め、砦に来たはずだった。

 ただ必死でしがみついていただけだったのに、いつの間にか掴み、手にしたものが気付けば両手に収まらなくなっていていた。

 それを持てることが、泣きそうなくらい強い願いに繋がる。


 求めた強さは何のため?

 ここで動かずして、自分らしくなどいられるだろうか。



 見下ろすヴィランを、アルトは怯むことなく見返した。

 砦の皆の役に立ちたいというアルトの言葉を、少しくらいは信じてくれていると思っていた。伝わっていないのならば、何度でも声に出すまでだ。

 絶対に、退くつもりはない。


 暫くしてヴィランは静かに瞬き、口を開く。


「――状況は普通じゃない。死ぬ覚悟はあるか?」


「!」


 重い問いかけに、アルトは息を飲んだ。

 肯定しなければ戦うことは認められないかもしれない。求められるものに応えなければと思い、手を握り締め――俯いた。

 

「…………すみません、ありません……」


 多くの人に救われた、自分のものだけではない『自分』を、もう簡単には諦められない。諦めたくないと、思ってしまう。その気持ちを、どうしても偽ることが出来なかった。

 口を閉ざして項垂れて、少し迷ってから、でも、と続けた。


「初めから死ぬと思っているより……、生きたいと思っている方が、抗える気がしませんか?」


 甘い考えだろうかと思いつつ、アルトは願いを含んだ正直な気持ちを口にした。

 するとヴィランは目を丸くし――次いで満足そうに笑みを浮かべると、アルトの髪を掻き混ぜた。


「ふっ! いい返事だ! 言っただろうルイツ、雛は巣立ちだ」


 そう言いながら、彼はこちらを見ようとしない部下を振り返る。

 それだけで、アルトには反対していたのがルイツの方なのだと分かってしまった。


「……問題があれば、見習いは続行ですからね」


 ややあって、ルイツから溜息と共に遠回しな許可が告げられた。

 容易に『行け』と言えなかったのは、彼がアルトを想っていてくれるからだ。それを正しく受け取って、アルトはつかえながらも心からの感謝を述べた。


「っ、ありがとうございます!」


 深く頭を下げた瞬間、固唾を飲んで成り行きを見守っていた周囲から歓声が沸いた。


「よっしゃ、行けアルト!」

「頼んだぞ!」

「蹴散らして来い!」


 待機となった隊員達から激励を受けると共に、大事な仲間の未来を託された。

 胸に灯る強い思いに身体が熱くなり、アルトは力強く返事をする。


「はいっ! 行ってきます!」


 誰かの思いが自分を強くする。

 今ならきっと何でもできる、そう思えた。







お読みいただき有難うございます。


すみません、大いなる変更を致しました。<(_ _)>

初めは間違いなくハイファンタジーにしか当てはまらなかったのですが。

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