49.使う者
「…………使えるのか?」
長椅子に寝そべったまま、ヴィランがルイツに問いかけた。
声の響きは不信ではなく、確認だ。
そして確認されているのは、アルトの力量ではない。
「砦は万年人手不足ですからね。隊員達の彼女に対する評価を見れば、使わない理由はありません」
上手く躱した返答に、ヴィランが口の立つ奴だと笑った。
アルトは気づいていないが、ルイツの返答があれほど遅れることはまずない。
ヴィランに返した答えは、ルイツが覚悟を決めるまでの時間稼ぎだ。
勿論答えは決まっていて、近いうちに必ずそれを口にする。
僅かでいい。
中途半端な決意だと、後悔で自分が使い物にならなくなる。
次の書類に目を落とし、文字を追いながらもルイツの頭は別の事を考える。
最近のアルトは、経験を補うように魔物の知識を入れようとしていた。
彼女がここに来た時、薄々用件は分かっていた。それでも実践の話を持ち出されたとき、やはりと溜息が出た。
「初めはほどほどに鍛えて放り出すつもりだったんですけどねぇ……」
初めは同情とほんの少しの興味。厄介事の方が大きいと分かっていて取り込めば、案の定とても手が掛かった。
でも傷を負って泣きながらも、止まることなく前に進むひたむきさは好ましく。
素直に表現される感情と、真っ直ぐに向けられる親愛の情には心癒される。
気がつけば、アルトはルイツにとって年の離れた妹のような存在になっていた。
彼女の口から出る名前は、いつもディルでルイツの順番なのだ。可愛く思わないはずがない。
「何だかんだ言って、お前は背負い込む性格だろ」
「……面倒をお掛けします」
「お互い様だな。ただ、分かっていると思うが時間はないぞ。本人が走り出したら止められん」
それくらい理解していると分かっているだろうが、言わずにはいられなかったようだ。
ヴィランの忠告は正しい。
魔物との交戦はいつも唐突だ。
隊に属さず、それでいて日々の訓練のお陰でどの隊の癖も理解している彼女は、正直なところとても便利だった。
緊急時において、物理的にも立場的にもアルトを止めることは難しい。
「アルト君の期待に応えないわけにはいきませんからね」
アルトは隊員を適切に使い、砦を守るルイツを信頼している。
確実に前へと進む彼女がその一部になることを望むなら。
ルイツはアルトを、駒として使う覚悟をすべきだった。
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