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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
示す覚悟と選ぶ道
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48.少しずつでも前へ

 アルトが魔物に関して勉強していると知ると、砦の隊員達は訓練しながら、食事しながら、今まで戦ったことのある魔物について教えるようになった。

 彼女からするとそれは報告書を読むよりも分かりやすく、同時に彼らが守るべき人達のために全力で戦っているということを強く感じられるものだった。

 そしてその思いを受け取る度、アルトの中で一つの要望がむくむくと膨れ上がり、彼女はとうとうある行動に出た。




 ヴィランとの訓練の終わり、アルトは彼と共に執務棟へと向かった。

 あることを相談したくて、ずっとディルが不在でルイツに会える時を狙っていたのだ。


 副長室へと辿り着くと、ヴィランは知らせもなしにいきなり扉を開いて、いつものように長椅子に寝そべった。

 ルイツには足音と気配で誰が訪ねてくるか知られているので、扉を叩く必要はないと言えばないのだが、あまりにも豪快過ぎてアルトは言葉を失った。


「お疲れさまです、団長、アルト君」

「お、お疲れさまです」


 ルイツはさして気にした様子もなく、淡々と書類を捌きながら労いの言葉を掛ける。

 アルトはそれに慌てて返し、気を取り直して副長室へと足を踏み入れた。


「どうしました?」


 彼女が声を掛ける機会を見計らっていると、ルイツの方から話を促す声が掛かる。

 手は止めずとも話を聞いて貰えるのだと分かり、アルトは慌てて口を開いた。


「えと、相談なんですけど、僕が実践に参加させてもらうことってやっぱり無理なんでしょうか?」


 自然と窺うような言い方になったそれに、ルイツからの返答はない。

 だが馬鹿馬鹿しい話であれば、彼は即座に却下する。そうでない所を見ると、彼にとって検討する余地のある内容なのだと察せられた。


 筆と紙の擦れる音だけが室内に響く。

 ヴィランは口を挟むことなく目を閉じていて、アルトも上司の判断を大人しく待った。


 ややあってきりの良い所に来たのか、ルイツは漸く手を止めて顔を上げた。


「――実践、ですか」

「はい。あの、魔物なんていつ出てくるか分からないので、難しいとは思うんですけど……。いつもの訓練だけじゃなくて、時々外回りとかについていくことは出来ませんか? そうすれば見習いを卒業してもすぐ実勤務も出来ますし」


 否定するような響きは感じられず、アルトが認められようとつい思いついた利点も付け足した。

 その様子に、ルイツは少し笑ってから宥めるように声を掛ける。


「素晴らしい意気込みですね。ですが、焦らなくても見習い期間というのは、そう短くないものですよ?」

「あ――えと、見習いがどうこうと言うか。……ただ、もっと皆の役に立ちたいなって。団長にも強くなってるって言って貰えてるので」


 ヴィランは能力に関してお世辞を言う人間ではない。

 この要望を持った時は足手纏いにならないか不安ではあったが、彼が認めるならばそれに応じた段階に進んでもいいのではと考えたのだ。


 意気込みを見せるアルトに対し、ルイツは一つ肝心なことを尋ねた。


「ディルにはちゃんと相談しましたか?」

「う……」


 痛いところをつかれ、アルトは言葉を詰まらせた。


「出来なかった理由を聞いても?」


 彼女の何よりも分かりやすい態度に、苦笑と共に詳細が求められる。

 曖昧な感覚の話だったので、アルトは視線を彷徨わせつつ上手い言葉を探した。


「……何ていうか、凄く困らせそうだったんです。応援はしてくれるんですけど、ディル様にとって僕はまだまだ守らなきゃいけない雛みたいで……」


 何となく、魔物と関わることを歓迎されていないと感じていた。

 恐らく反対はされないが、心から認めてもらえるとは思えない。


(僕が、頼りないから……)


 普段の訓練でどれだけ成長を示してもだめなのだ。しっかり魔物の討伐が出来るのだと見せれば彼の見方も変わるかもしれないと思い、アルトは外堀から埋めるような作戦を立てた。


 ただ――。


「どのみち知られますが?」

「それもそうなんですけど……」


 どれだけ隠しても、実践に出る日になればディルには否応なく知られる。

 だが事前に知らせると――過保護な彼の事だ――要らぬ気苦労を掛けると思われた。


(止めたいって思いながら、それを隠して送り出すんだろうな……)


 それは、嫌だ。

 アルトに嘘をつかない彼の、口先だけの応援を聞きたくない。


 身の内に潜んでいた自分勝手な思いに気付き、アルトは思わず苦い顔になる。

 すると正面で溜息が落とされ、それが彼女を益々項垂れさせた。


(やっぱり、だめか――)


 アルトがそう諦めかけた時。


「分かりました。調整しておきますね」

「――へ?」


 予想外の返答に驚き顔を上げてみれば、愁いを払うように微笑まれる。聞き間違いではないことを実感すると同時に、アルトの胸に喜びが広がった。


「――あ、ありがとうございますっ」


 実勤務に見習いを入れるのは相当に配慮が必要だ。

 それでもルイツが調整に乗り出してくれたことに感謝し、アルトは声を弾ませて礼を述べた。


「但し、ディルにもちゃんと伝えておくんですよ。除け者にすると、きっと後が面倒ですから。困るのはあの子が勝手にすることなので、そちらは放っておいて構いません」

「そ、そこは構いたいのですが……」

「大丈夫です。一々甘やかしていると我儘になって大変ですよ?」

「ええっと……」


 甘やかした記憶もなければ、ディルが我儘だった事もないので、アルトとしては返答に困る。だがディルをずっと見てきた上司からすると、見えるものが違うのだろうと自身を納得させた。


「と、とりあえず近いうちにお話ししておきます」


 そう答えつつも、アルトは切っ掛けを与えられた事にどこかほっとしていた。

 というのも、今ですらディルに対してどこか後ろめたさのようなものを感じていたのだ。

 きっと拗れる前に解決しておいた方がいい。


 ルイツにはアルトの気持ちもお見通しだったのかも知れない。

 

 また少し背中を押されたような気持ちになって、アルトはぎゅっと拳を握り締めた。


「――僕、頑張ります」

「アルト君の働き、期待していますよ。私は使えるものは使う主義ですから」


 微笑んで悪役振るルイツに、アルトは頬を緩めた。

 嫌味を吐いて厳しくしながら、いつも隊員を思う優しい彼を知っている。


「そうやってちゃんと隊員を使える副長を、僕は尊敬してます」


 この砦に来られて良かった、そう続けたアルトを、ルイツが静かな目で見返した。








お久しぶりです! お読みいただき有難うございます。

長期に渡り停止いたしまして、すみませんでしたっ <(_ _)>

今後ガッツリ本文が短くなりますが、なるべく更新できるよう頑張ります!(4000字程→1000字程)


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