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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
変わる想いと変わらぬ願い
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39.確保

 潜った毛布の中で、アルトはディルの部屋であったことを考えていた。


 傷つけると言われた。

 二度と一緒にいたいと言えなくするとまで言われた。

 そしてそのまま首筋に顔を寄せるものだから、一瞬、喉笛を咬まれると思って恐慌状態になってしまった。


 冷静になって考えてみると、ディルはたとえどれ程怒っていたとしても、そんな事が出来る人ではない。彼は命の重みをよく分かっている。

 それなのに、アルトは危うく彼を傷つけるところだった。


(……じゃあ何であんな事……。もしかして……脅された……?)


 それなら拘束しておきながら、すぐに行動に移さなかった事にも納得がいく。

 しかしそうなると、ディルは脅して訴える程、アルトと一緒に居たくないと思ったということになる。


 そう考えるとアルトの胸はずっしりと重くなり、息苦しさを感じた。

 平らだった心が波立って震えている。

 握った腕に爪を立てて痛みを感じても、誤魔化されてはくれない。


 砦へ来てからというもの、こんな風に潰れてしまいそうな時はずっとディルが傍に居てくれた。


(あぁ、僕はこんなにも……ディル様に頼っていたんだ……)


 これでは縋るものがなくなって揺らいでいるのか、ディル自身からの拒絶が辛いのか分からない。

 頼られるようになりたいなど、程遠かった。


(このままじゃ……だめだ……)


 しかしそうと分かっても、アルトにはどうすればいいのか分からない。

 纏まらない頭で考えていると、嫌われたという良くない考えが強く出る。


 ぐるぐるとしていると、カーテンを通る光で徐々に部屋が明るくなり始め、一睡もできないまま夜が明けてしまったことを察する。


(訓練……行かなきゃ……)


 起き上がると、破れた隊服がアルトの目に入った。辛うじて身体に引っかかっているだけのそれは、もはや縫い合わせても本来の機能を果たせそうにない。


 いくつか用意してくれていたので無くて困ることはないが、破損したことはルイツに報告する必要がある。今日はヴィランとの訓練の日なので、朝の引き継ぎの終わり頃に向かえば彼に会うついでに報告も済ませられるだろう。


 昨日と同じくディルは内勤務だったが、アルトはいつものように彼を部屋の前で待つことは出来なかった。


 会うのが怖い。

 もし再び面と向かってここに居るなと言われると、立ち直れない気がする。


 一度身体を動かして少し気持ちを切り替えようと考え、アルトは目を擦って滲んだ視界を晴らし、着替え始めた。







 何となく声を掛けられるのが嫌で、アルトは人目を避けて移動しヴィランの元へと向かった。

 破いた隊服は適当な袋に入れて持って来ている。

 恐らくもうすぐ引き継ぎが終わって、ヴィランは団長室か副長室に戻るはずだ。


 万が一にでもディルに会わないよう、気配と匂いに気をつけながら執務棟の階段を上っていると、アルトの後ろから声が掛かった。


「アルト君? 珍しいね、一人でいるなんて」

「あ、カイルさん。……もしかして宿直だったんですか?」


 振り返ると、少しくたびれた様子のカイルが医務室から出てきたところだった。


「まぁね。何にもなかったから楽だったよ。君は……どうかした?」


 カイルの眉間に皺が寄るのを見て、アルトは何でもないと首を振った。


「大丈夫です。えっと、団長のところへ行くので、失礼しますね」

「まぁちょっとおいでよ。念のために熱だけでも測っておこう」


 額に手を当てて手招きするカイルが少し可笑しくて、アルトは表情を緩めた。

 気にさせているのも申し訳なく、それくらいならすぐに済むだろうと考え、足を引いて階段を降りる。


「大丈夫ですって。相変わらず真面目ですね」


 そう言って近づいた瞬間、カイルがアルトの腕をがしりと掴んだ。


「そういう君は、相変わらず嘘つきだよね」


 とても綺麗に微笑まれ、それが彼の不機嫌を示している事に気付いたが、逃げるには一歩遅かった。


 失敗した。

 完全に騙された。


「うっ、嘘じゃないですっ。熱は無いです!」

「僕が熱の事を聞いてると思う?」


 思わない。

 熱の話で躱そうとしたのに、カイルは自身が持ち出したことを堂々と捨ててしまった。


 誤魔化す材料がなくなり、焦ったアルトは半分正直に話した。


「何もなかったことはないですけど、動けば大丈夫になるやつです!」

「それで怪我して医務室に来るんだね?」

「しませんよっ」


 確信的な言い方にすぐさま反論すると、カイルの口角が上がる。


「絶対しないの? じゃあ万が一怪我したら、僕のお願い何でも聞いてもらおうかな。ちなみに内容は一生どんなお願いでも聞いてもらう事」

「…………」


 実質の下僕宣言である。

 恐らく冗談だろうが、カイル相手にそう思い込むのは危険だった。少なくとも一度は絶対何かをさせられる。

 ヴィランが相手で怪我をすることはないはずだが、もしもの場合の代償が大きすぎた。


 一気に大人しくなったアルトに、カイルが満足そうに笑う。


「予測できる怪我は防がないとね?」






お読みいただきありがとうございます。


今のところ前二つの話に苦情がなくてちょっと安心してます。

この先ディルが忍耐力を試される時がしばしばありそうなので……。

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