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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
変わる想いと変わらぬ願い
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37.突然の危機

ちょっとディルが暴走してますので駄目そうな方は飛ばしてください。

 残念ながら、良いことは何日も続かない。

 夕食を終え、宿舎の階段を上りながらアルトは重い溜息をついた。ヴィランとの訓練が翌日に控えていたのだ。

 肉体言語のヴィランからは具体的な助言がなく、アルトが一本取られるまで延々と攻撃と防御を繰り返す。カイルを利用した不意打ち以来、アルトは彼に勝ったことは一度もない。

 勝てない状況でもたまに褒められるのだが、どこが良かったのかを聞いても擬音語が多くて頭を悩ませる。

 色んな意味で難しい訓練だった。


「団長がもうちょっと説明上手だったらなぁ……」

「ないものを強請っても仕方ないな」


 アルトがぼそりと呟くと、ディルは少し笑ってその仮定の話をばっさりと切り捨てた。

 それは事実なのだが、もう少しと思ってしまうのはアルトだけではないはずだ。


「だってこの前のアルディさんの意見が分かりやすかったんです」

「天才肌の団長と違って、あいつは努力で強くなった奴だからな。面倒見も良い方だし、新人騎士の指導も任せやすい」


 ディルの言葉に、アルトは流石だなぁと思った。

 隊長として隊員のことをよく分かっている。そして彼らもまだ若いながらも隊長であるディルを信頼している。

 信頼関係がきちんと出来ていて、アルトにとって、それはとても羨ましいと思えた。


「いいなぁ、僕も早くディル様に頼ってばかりじゃなくて、頼られるようになりたいです」

「頼りか……」


 呟きながら考え込むディルを余所に、アルトは自身が言ったことで意欲を取り戻した。


「よし、明日の団長との訓練やる気出ました! 早く強くなって、見習いを卒業しますね」


 何だかんだ言っても、強いヴィランのお陰でアルトは狼姿での攻撃の幅を増やすことができている。

 重量のある姿を活かして組み付き防御を崩す事や、不意に軌道を変えて攻撃途中の相手を攻めたりと、人間には出来ない動きを頑張って開発した。


「黒の隊服になったら、僕ディル様の隊に入りたいです。それならずっと一緒にいられますよね」


 機嫌よく思い浮かべた未来を語った瞬間、アルトはぴりっとした空気を感じて身体を強張らせた。咄嗟に周囲に視線を巡らせようとした時、急に強く腕を引かれてよろけ、転ぶまいと足を前へと進ませる。

 何とか姿勢を整えたアルトの後ろで勢いよく扉が閉まる音がし、振り返って見て漸くディルの部屋の中なのだと気がついた。


「……そんなに俺と居たいか?」


 押し殺したような声に、僅かな怒りとアルトの知らない感情が感じられる。言い様のない圧力を感じて思わず足が後ろへ下がった。


「強くならなくても、一緒に居る方法なんていくらでもあるよな」

「え」


 そう言って近づいたディルがアルトの腰を勢いよく引き寄せた。

 戸惑って見上げた瞬間、射貫くような目とぶつかり息を飲む。


「お前、女性だろう」

「!」


 目を瞠るアルトを見て、ディルが拘束を強めて言った。


「逃げてみろ」


 力の差を感じる。

 手も使えない状況ではあるが、出来なくは、ない。

 狼姿になれば容易に拘束を抜けられるだろうが、このまま変化すれば隊服を壊す。それに、そもそも彼はアルトの命を脅かす存在ではない。

 ディルの意図が分からず、アルトはどうしようかと躊躇った。

 その一瞬の迷いが伝わり、目を眇めたディルがアルトを抱え上げる。


「逃げないなら、容赦しない」


 唐突に身体が投げ出され、姿勢を整える間もなくディルがその上に伸し掛かった。


「っ、ディル様!?」


 身動きできない体勢にアルトは軽く混乱する。

 これは、どういう状況だろう。

 戸惑うアルトをディルが鼻で笑うように言った。


「お前は弱いな」

「――弱くないですっ!」


 ほぼ反射のように答えたアルトに、ディルが言い方を変えて攻めた。


「俺を傷つけられないと思った時点で、お前に勝ち目はない」

「だってディル様ですよ!?」

「これで俺を安全だと思うなら、お前は砦を出た方がいい」


 弱くてもいいと言ったのはディルだ。

 砦に呼んだのも、ここでアルトに色んなものを与えたのも彼なのだ。

 突然それを否定され、アルトは顔を歪ませた。


「なんで……っ!」

「お前の信頼に付け込んで、いつでもお前を傷つけられる」

「ディル様はそんな事しません!」

「いやする」

「――しませんっ!!」


 怪我をするといつも心配してくれる人が、そんなことをする筈がない。それなのに、アルトが否定した端から本人がそれを打ち消していく。

 信じたいと思った時点で、信じていないのと同じだ。少しでもまさかと疑う気持ちを認めたくなくて、アルトは全力で叫んだ。


「なら、試してみるか?」


 襟元からするりと入り込んできた手に、ざわりと妙な感覚がしてアルトの身体がぴくりと揺れる。


「――っ、や」


 首を振るだけの抵抗は意味をなさず、ディルの指先が鎖骨をなぞるのを感じて背筋が震えた。


「嫌ならもっとちゃんと抵抗しろ。俺を殺すぐらいに」


 その言葉にアルトの息が止まる。


 何でそんなことを言うんだ。

 ディルを殺すなど考えられない。

 そんなことをしろという彼に、アルトは絞り出すように呻いた。


「で、きません……っ!」


「出来ないなら、お前が辛い目に合うだけだ。二度と一緒に居たいなんて言えなくしてやるよ」


 開いた襟から晒された首筋に、ディルの鼻先が触れた。

 ディルはアルトより強い。どれだけアルトが捕食者で、ディルがただの人間だったとしても、小物ではない相手は安全ではない。


 ――――食われる。


 咄嗟に獣姿に形を変えた。

 伸し掛かったディルを撥ね退け、逆に寝台に縫い付ける。 

 唸り声をあげて口を開いた瞬間、悲しそうな、でもどこか安心したようなディルの顔が目に入った。


 何なんだ。

 何でそんな顔が出来る?

 今僕は、ディル様を……。


「――っ」


 訳が分からなくなり、アルトはディルの部屋を飛び出した。

 そこからどうやって部屋へ戻ったのか分からない。

 気づけば人型に戻って寝台に潜っていた。






お読み頂き感謝です!<(_ _)>


ディルがヘタレにならない展開を考えるのが限界。

こんな結果ですみません。でも多分途中で止めてても彼が切れた時点でアルト君は落ち込んでます。


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