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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
抱えた傷と分け合う痛み
36/93

33.喧嘩するほど仲が良い?

 翌朝、アルトはいつものようにディルと共に食堂へ向かった。

 食事をとり向かい合って座ると、席の場所を探す灰色の頭が視界に入る。


「あ、カイルさんお早うございます」


 アルトが声を掛けると、気づいたカイルが食事を受け取ってこちらに近づいてきた。


「お早うございます。ディル様、アルト君」

「お早う」


 挨拶を交わし、カイルがアルトの隣に座った。

 おもむろにカイルがアルトを見て、揶揄うように笑いながら片手で目を押さえる。


「う……」


 目が腫れている事を指摘されているのだと気づき、アルトはカイルから顔を背けた。すると今度は返答が必要な話を振られる。


「ディル様はともかく、アルト君は早いね。治るまで訓練禁止じゃなかった?」

「知ってたんですね……」

「それはそうでしょ。ルイツ副長に報告したのは僕なんだから」


 それに医療班として当然、と続けるカイルに、アルトが恨みがましく呟いた。


「足は問題ないのに……」


 その瞬間、向かいに座っているディルがアルトの頭を指で弾いた。


「懲りないね、アルト君」

「う、それも知って……」

「だって痛いって言わないから。心構えが危なっかしすぎるんだよ。怪我より迷惑に対する補償を優先するなんて。僕前にも言ったよね? 怪我するのと迷惑をかけるのは違うって」


 カイルの言葉に、アルトはまたすみませんと言おうとして、開いた口を閉じた。

 返すべきは謝罪ではないということは分かったが、言葉が見つからなかったからだ。怪我と違って中々直らないらしい。

 アルトががっくりと項垂れると、先ほど小突いたためか、ディルが少し迷ってから頭に手を乗せた。

 するとその様子を見たカイルが、珍しくディルに対して意見した。


「甘やかしすぎは良くないんじゃないですか?」

「叱るばかりでも良くないからな」


「……雛鳥はいつか巣立たせないといけないんですよ」

「時期が来たらちゃんと飛べるようになる。それまでは守ってやらないといけないだろう?」


 繰り出される指摘に、ディルが淀みなく返していく。

 しかしカイルも変わらず微笑んだまま、一向に引き下がる様子を見せない。


「飛ぶ練習って必要ですよね」

「ああ、親鳥が見ているところでな」


 意見の不一致により、ディルとカイルは黙って睨み合った。

 二人の食事の進み具合を見たアルトは、何となく険悪な空気を察しておずおずと口を挟む。


「あの、ふたりとも、遅れますよ?」

「そうだな」

「そうだね」


 同意の声が被り、ディルとカイルは顔を見合わせた。


「な、仲良いですね……?」


 アルトは思わず漏らす。


「いや。アルト、今日は副長の手伝いだろう? どうせ引き継ぎに出るんだ。一緒に行って、そのまま副長と行動しろ」

「えと、もちろんです?」


 ディルが夜勤と休み以外の朝は、彼と共に引き継ぎに行くのはいつものことだ。その後ルイツにつくのは初めてだが、改めて言わずとも今はディルについていくつもりだった。

 アルトが戸惑いながら返事をすると、カイルが横から一言寄越してくる。


「なんでもいいけど、処置にはちゃんと来てよね」

「はい。忘れないよう、ちゃんと行きます。お願いしますね、カイルさん」


 何だかんだ言ってカイルは真面目だ。素っ気ないがきちんと忠告してくれる彼に、アルトは少し笑った。


「……今日は痛くないようにしてあげる」

「痛くするとかあるんですか!?」


 カイルが顔を向けずに言った言葉に、アルトは戦慄した。






お読みいただき感謝です。


重い流れで来ましたので、次は明るい内容の閑話にします。

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