33.喧嘩するほど仲が良い?
翌朝、アルトはいつものようにディルと共に食堂へ向かった。
食事をとり向かい合って座ると、席の場所を探す灰色の頭が視界に入る。
「あ、カイルさんお早うございます」
アルトが声を掛けると、気づいたカイルが食事を受け取ってこちらに近づいてきた。
「お早うございます。ディル様、アルト君」
「お早う」
挨拶を交わし、カイルがアルトの隣に座った。
おもむろにカイルがアルトを見て、揶揄うように笑いながら片手で目を押さえる。
「う……」
目が腫れている事を指摘されているのだと気づき、アルトはカイルから顔を背けた。すると今度は返答が必要な話を振られる。
「ディル様はともかく、アルト君は早いね。治るまで訓練禁止じゃなかった?」
「知ってたんですね……」
「それはそうでしょ。ルイツ副長に報告したのは僕なんだから」
それに医療班として当然、と続けるカイルに、アルトが恨みがましく呟いた。
「足は問題ないのに……」
その瞬間、向かいに座っているディルがアルトの頭を指で弾いた。
「懲りないね、アルト君」
「う、それも知って……」
「だって痛いって言わないから。心構えが危なっかしすぎるんだよ。怪我より迷惑に対する補償を優先するなんて。僕前にも言ったよね? 怪我するのと迷惑をかけるのは違うって」
カイルの言葉に、アルトはまたすみませんと言おうとして、開いた口を閉じた。
返すべきは謝罪ではないということは分かったが、言葉が見つからなかったからだ。怪我と違って中々直らないらしい。
アルトががっくりと項垂れると、先ほど小突いたためか、ディルが少し迷ってから頭に手を乗せた。
するとその様子を見たカイルが、珍しくディルに対して意見した。
「甘やかしすぎは良くないんじゃないですか?」
「叱るばかりでも良くないからな」
「……雛鳥はいつか巣立たせないといけないんですよ」
「時期が来たらちゃんと飛べるようになる。それまでは守ってやらないといけないだろう?」
繰り出される指摘に、ディルが淀みなく返していく。
しかしカイルも変わらず微笑んだまま、一向に引き下がる様子を見せない。
「飛ぶ練習って必要ですよね」
「ああ、親鳥が見ているところでな」
意見の不一致により、ディルとカイルは黙って睨み合った。
二人の食事の進み具合を見たアルトは、何となく険悪な空気を察しておずおずと口を挟む。
「あの、ふたりとも、遅れますよ?」
「そうだな」
「そうだね」
同意の声が被り、ディルとカイルは顔を見合わせた。
「な、仲良いですね……?」
アルトは思わず漏らす。
「いや。アルト、今日は副長の手伝いだろう? どうせ引き継ぎに出るんだ。一緒に行って、そのまま副長と行動しろ」
「えと、もちろんです?」
ディルが夜勤と休み以外の朝は、彼と共に引き継ぎに行くのはいつものことだ。その後ルイツにつくのは初めてだが、改めて言わずとも今はディルについていくつもりだった。
アルトが戸惑いながら返事をすると、カイルが横から一言寄越してくる。
「なんでもいいけど、処置にはちゃんと来てよね」
「はい。忘れないよう、ちゃんと行きます。お願いしますね、カイルさん」
何だかんだ言ってカイルは真面目だ。素っ気ないがきちんと忠告してくれる彼に、アルトは少し笑った。
「……今日は痛くないようにしてあげる」
「痛くするとかあるんですか!?」
カイルが顔を向けずに言った言葉に、アルトは戦慄した。
お読みいただき感謝です。
重い流れで来ましたので、次は明るい内容の閑話にします。




