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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
抱えた傷と分け合う痛み
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31.手当て

 逃げると思われたのか、アルトはカイルに終始手を引かれ、砦へ戻るとすぐに医務室へ向かった。

 本日も医務室に負傷者はいないようだ。

 他の班員もいるのに、カイルは入るなりノーティスを呼ぶ。


(ええぇ……)


 アルトの足が一歩後ろに引き、それに気づいたカイルが負傷していない方の腕を掴んで引き留めた。

 向けられた笑顔に、アルトは助けがないことを悟る。


 出てきた班長は相変わらずの強面だ。鋭い視線を向けられたアルトは反射的に身を強張らせた。


「アルトが採取中に怪我を。正気を失くす前に自らナイフで切り付けたようです」

「……何故。前兆は」


 無用な言葉を一切削ぎ落とした質問に、アルトは首を振って答えた。


「初めてのことでしたので、気を張っていて気づけなかったのかもしれません。ついていながら、申し訳ありません」


 言葉の足りないアルトの代わりに、カイルが補った。


「戻り方が分からなくて……すみません」


 アルトが謝るとノーティスは眼光を鋭くする。溜息をついて今度はカイルを見た。


「カイル」

「はい」

「前兆が分からなかったものは仕方ない」


 それだけ言い置いて、ノーティスは奥へと去って行った。しばらくして奥からは激しい音が聞こえ始め、アルトは飛び上った。

 助けを求めるように見上げたカイルは笑いが堪えられない様子で、何故この状況で笑えるのかと訝しむ。


「ごめ……不器用すぎて……。可愛いでしょ? うちの班長」

「ええぇ……」


 だんっと響く不穏な音に、アルトはどの辺が、と戸惑うしかない。


「今お薬作ってくれてるよ。とりあえず座ろう」


 あの音がただ薬を作るだけで出るものだろうか。

 不安になりながらカイルの後に続いた。


「その傷をどうすれば防げたか答えが出なくて、やり場のないのをぶつけてるんだよ」


 カイルの擁護を聞きながら、アルトは案内された簡易の寝台に腰を下ろして隊服の上着を脱いだ。

 白い隊服は前腕部分が裂け、その周囲が赤く染まっている。


(あぁぁ……)


 がっくりと項垂れていると、早く腕を出すよう促された。

 カイルが処置のために向かいに座り、アルトの腕をとる。

 動いたせいか、止血のために縛っていた包帯にも血が滲んでいた。カイルがゆっくり包帯を外していく。


「……ねぇ、痛い?」


 カイルが尋ねる。


「……大丈夫です」


 痛くないわけではないが、それを言ってもどうにもならない。そもそもアルトが自分でつけた傷だ。

 そう思って返答すると、カイルはどこか面白くなさそうな顔をした。


「こんな時に限って、君は強情だよね。言いたいこと言えばいいのに」

「いえ、すでに迷惑をかけてますし」


 アルトが困ったような顔をすると、彼は苛立ちを吐き出すように溜息をつき、傷口を診察して洗浄し始めた。

 流れるほどの血はすでに止まってきている。


「で、どうだったの? やっぱり前兆はなかった?」


 手を止めることなく、カイルが尋ねた。


 痛い。この状況下でその質問に答えるのか。


 相変わらずな彼に、アルトは大人しく感じたことを話し始めた。


「……そうです。えと、急に暗くなって、何も見えなくなって。その、声が……聞こえたんです」

「ふぅん?」


 半ば考え事をしている様子でカイルが相槌を打つ。その目が鋭くなったことに、思い返すことと痛みを我慢することで必死のアルトは気づかなかった。


「あのまま……いえ、引き摺られたら、戻れなくなりそうで……。っ」


 傷が染みて呻く。その時、カイルに名前を呼ばれた。


「……アルト君」

「はい?」


 口を開いた彼が、珍しく謝るのかと思いきや。


「アルト君」


 再び、アルトの名前を呼んだ。


 繰り返し呼ばれるそれに、アルトは妙な居心地の悪さを感じ、続く声を遮るように問いかけた。


「な、なんですか?」

「……次からは僕が呼んであげる。戻って来られないときは」

「あ、りがとう……ございます……?」


 カイルの表情は変わらない。

 何を考えているのか分からない。


「……えっと……」


 じっと見つめられ、何となく息がしづらくなってアルトは目を逸らした。

 ややあって、ふっと空気が軽くなる。


「まぁ、次があるかは分からないけどね」


 そう言ってカイルが席を立つ。入れ替わりにノーティスが傷口に塗布するのであろう薬を持って来た。


(……何だったんだろう)


 いつもと同じようで、違うカイルに頭を悩ませているうちに、ノーティスが処置を行っていく。


「……痛むか?」


 暫くしてぽつりと呟かれた質問に、カイルと同じだと思って少し可笑しくなる。


「大丈夫です」


 アルトがそう答えると、ノーティスは渋い顔をした。


「自分の体を大事にしろ」

「す、すみません……?」


 怒られたようで、アルトは反射的に謝る。するとノーティスは溜息をついて再び口を開いた。


「十日はかかる。明日も来い」

「分かりました」


 重々しく言われ、頷いた。

 礼を言って医務室から出ると、階段から降りて来たカイルと会う。


「報告は済ませたよ。ちゃんと、副長室へ行ってね?」

「う……」


 一気に気が重くなり、アルトは医務室の前で立ち止まってしまった。








お読み頂き感謝です。


ある部分をカットしたので短くてすみません。

未練がましくまたそのうち活動報告に載せてみたり……

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