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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
予期せぬ支援と不測の事態
30/93

閑話1.捕まりました

 お礼をしよう。

 アルトがそう思い至ったのは、初めて給金を貰った時だった。

 休みに街で魔物を討伐した後、四苦八苦しながら慣れない報告書を作成した。ディルの助けを得ながら完成させて提出すると、ルイツから臨時報酬としてそれを渡されたのだ。


 何を買おうと考えて、アルトはそう閃いた。

 お菓子は憧れだが、初めて貰った給金は、お世話になっている人へのお礼に代えたい。何故ならこうして砦で働けるのは、その人たちのお陰だからだ。

 それに、カイル経由でジーナから日用品を頂いてしまったアルトには、今のところ急いで必要なものはない。

 村を出る時に持って来たお金もあるとはいえ、全て使ってしまうのもいかがなものかと思い、予算を考えた。


(えっと、ディル様にルイツ副長、カイルさんと、ジーナさんと、ヴィラン団長……。ノーティス班長も怖いけど、色々とお世話になってるしなぁ。各隊の隊長さんもだし……)


 考えていると増えてきて、これでは足りないとアルトは項垂れた。

 思い起こす順番が序列に沿わないものであり、それ自体に意味があることには気づいていない。


(うう……絞るしかないかな……。今回用意できなかった人は、また次に考えよう……)


 苦渋の決断をし、アルトは相手をディル、ルイツ、カイル、ジーナに絞った。


(ごめんなさい、団長……)


 こんなことで恨むような人ではないと分かっているが、ルイツに渡して彼にないのは気が咎める。勿論秘密裏に渡すつもりではあるが、アルトは絶対に見つからないようにしようと思った。

 丁度明日、アルトさえよければ、台無しになった前回の代わりに、とディルの誘いがあった。

 アルトとしては、ディルへの贈り物も買うつもりなので、彼がいることは少し困る。しかし一人でというのも難しいため、何とか隠れて手に入れようと決めた。


 そう思って街へ出たのだが――――。


「ほらアルト君。ちゃんと給仕しなきゃ」

「えと、はい……」


 ジーナの指示に従い、アルトはディルのコップに茶を注いだ。

 ライカが不器用だったので、料理はクレストとアルトで分担して行っていた。茶を淹れるくらい問題なくこなせる。

 茶菓子を並べ、用が終われば静かにジーナの脇に控えた。

 歩くと紺色のスカートが揺れ、振り返ればフリルのついたエプロンが翻る。

 足元がすかすかとして心許ない。着慣れない衣装に、アルトの動きと表情がぎこちなくなった。


(あぁ、早く元に戻りたい……)






 時刻は一刻半ほど前に遡る。

 ディルと共に街に入ったアルトは、前回入り損なった雑貨屋で贈り物を購入していた。

 金属製で、繊細な装飾に鉱石の飾りがついた栞を見つけ、ディルへのお礼にすることにした。休みの日の過ごし方を聞いたとき、本を読むと言っていたからだ。

 ルイツには別の店でお茶を買った。副長室には時々お茶の香りが漂っていて、疲れた時などに飲むのだろうと思ったのだ。因みに好みは匂いで判断できたので、抜かりはない。

 そしてカイルにはディルと同じ雑貨屋で手袋を選んだ。薬草の採取や精製などで必要になるため、邪魔にはならないだろう。


「お待たせしました、ディル様。ありがとうございます」


 店を出たアルトは、外で待ってもらっていたディルに声を掛けた。するとディルはしょうがないな、というように微笑んでアルトの頭を撫でた。

 出来れば驚かせたいのだが、もしかすると薄々気づかれているかもしれない。普段から顔に出るとはよく言われる。


「後はどこに行きたい?」


 ディルの問いに、アルトはうーんと思案した。

 後はジーナなのだが、具体的に決められていなかったのだ。

 彼女からは代えの少なかった下着や晒を頂き、かなり気を遣わせてしまっている。絶対に適当にはしたくなかった。

 そんな風に考えに耽っていたため、アルトは接近する足音にすぐに反応できなかった。


「捕まえたぁあ!」

「うわぁっ!」


 突然がばりと抱き締められ、アルトは相手の腕の中で飛び上った。


「熱烈だな、ジーナ」


 アルトに飛び付いてきたのは、ジーナだった。呆れたように声を掛けるディルに、止める気はないらしい。


「だってアルト君がいるんだもの。私の新しい癒しが」


 そう言ってジーナはアルトの頭に頬擦りをした。


「あああのっ! えっと……こんにちは」


 強く拒否することも出来ず、何を言っていいか分からなかったアルトは、結局挨拶に留まった。

 身体が離され、ジーナが微笑んで挨拶を返す。


「こんにちは、アルト君。ディル様も」

「俺はついでか」


 ディルが突っ込んだが、ジーナは特に気にしない。我が道を行く彼女らしいが、アルトには微笑んだ顔が少し疲れているように見えた。


「ジーナさん、お疲れですか?」


 アルトが尋ねると、ジーナは途端に顔をしかめて訴えてきた。

「そうなの! この間の魔物のことで、あれからずっと忙しいの! 私疲れちゃって。だから癒されなきゃだめだと思わない?」

「そ、そうですね……」


 アルトが街で魔物を討伐してから3日が経っている。

 他の仕事ですら大変だろうに、こんなところで魔物が出て、事後処理や対策など間違いなく面倒事が増えているだろう。

 ジーナの勢いに、相当な負担なのだろうと思いつつも、アルトは少し引いた。


「そうよね! 何でこんなことに……」


 項垂れながら、管理者は息が無かったし、魔物を閉じ込めた荷は彼のじゃなかったし、とジーナがぼそぼそ呟いている。重要な情報を聞いてしまう前に、アルトは耳を塞いでおいた。

 疲れたように溜息をつくジーナに、気休め程度にしかならないだろうと思いつつ声を掛ける。


「大変そうですね……。僕に何かできることがあればいいんですけど……」

「あっ馬鹿」


 ディルが咎めた瞬間、ジーナがぱっと顔を上げた。


「あるわ! 勿論!」

「本当ですか!?」

「おい待てアルト。絶対止めとけ」


 ディルは苦い顔をしてアルトを止めた。あまり強く妨害すると、ジーナの恨みを買う。言葉だけになったが、アルトはきちんと反応して振り返った。


「ディル様?」


 ただし、それは一歩遅かった。

 ジーナの腕がアルトの体に絡む。艶のある声が、アルトの耳元で響いた。


「じゃあアルト君、脱ぎましょうか」

「は……」

「私の癒しに付き合ってくれるのよね?」


 微笑むジーナは美しい。ゆえに有無を言わせぬ圧を感じた。


「……」


 アルトは助けを求めるようにディルを見る。

 彼は諦めたように首を振った。






お読みいただきありがとうございます。


可愛いは正義。

続きます。次は半分ディル視点です。

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