22.攻略方法
翌日も、翌々日も結果は同じだった。ただ、ヴィランの扱う武器が違い、初日は長剣だったが翌日は斧を武器にしていた。そして翌々日は槍ときた。
単に振り回しているだけでなく、流石は団長というべきか、全ての武器を使いこなす。
そして武器が変わる度アルトは近づける範囲、攻撃が失敗した場合に取らなければならない距離などを把握するのに時間を使う。長引けばさらに武器が変わり、アルトを悩ませるだろう。
唯一ナイフや短剣の扱いを見てみたい気もするが、それはもう別の機会で願いたい。
「はぁぁー」
打開策も見えず、上手くいかない訓練にアルトの口から溜息が出る。
昼食はパンとローストした鶏肉を薄く切ったものにサラダを盛りつけたメイン、それに野菜が溶けるまでよく煮込まれたクリームスープだった。
食堂のご飯は美味しくて、アルトは砦に来た頃より食べている。それにたくさん食べるとディルが褒めてくれる。
普段は匂いだけで十分美味さを感じられる料理も、今日は悩みが先立ちそれどころではなかった。
「どうしたんだ?」
例のごとく準備運動として走り込みを終えても、いつもなら元気に飛び跳ねて食堂にやってくるアルトが項垂れている。
その様子に声をかけてきたのは、先日アルトに喧嘩を売ったリッツだった。
謝罪を受け、ともに汚部屋の掃除という過酷な試練を経験したリッツとは、年齢が近いこともあって会えば話すようになっていた。
そこまで塞いでるのは珍しい、と言いながら、リッツはアルトの向かい側の席に着いた。第一隊である彼は夜勤に備え、昼食をとってから仮眠するつもりらしい。
「団長との訓練が上手くいかないんですー」
「団長か……」
アルトがそう口にした途端、リッツが遠い目になる。
「是非ともそのまま団長を独占してくれ」
ヴィランがアルトに構って被害がないのをいいことに、リッツは助言を投げた。アルトは何も聞かなかったかのように食事を始めたリッツの腕を掴み、縋りつく。
「ひどいです。次の段階に進みたいです。せめて助言を下さいよー」
「ちょ、まっ、分かった! 分かったから離せ! 見上げるな、顔を近づけるなー!」
激しく腕を振って荒ぶるリッツに、アルトは渋々腕を放した。
「ったく、こんなところをお前の保護者に見られたらどうなるか――と、そういえばディル様はどうした? 夜勤でも一緒に昼食摂ってただろう?」
「昨日の夜勤で出た魔物の報告で、ルイツ副長のところに行ってます」
「あぁ、あれか……」
リッツも昨日の魔物についての報告書は記載した。それを取りまとめてディルが報告に上がっているようだ。
「そもそもディル様は、団長の攻略については僕自身に考えさせる気です」
「見事に保護者だな。で、団長をどうすれば勝ちになるんだ?」
「膝をつかせれば」
リッツは、ヴィランを打ち負かして勝ちをとることなど、端から想定していなかった。そのため『どうすれば』という聞き方になったのだが、正しかったようだ。予想通りではあったが、返ってきた内容にどうしても苦い顔になる。
「あの隊長に膝か……またそんな無茶な」
「……やっぱり無茶なんですか?」
アルトが問うと、リッツが当然だろうという顔をして答えた。
「決まってる。並みの獣族が束でかかって勝てない超人に、どうやって膝をつかせるんだ?」
「うう……。そもそも狼は単独で狩りをするのに向いてないのに……。それなのに何であんな怪力の戦闘狂に向かって行かないといけないんだ……。汚部屋製造機のくせに……。ルイツ副長がいないと何もできないくせに……」
食台に突っ伏し恨み言を漏らすアルトに、リッツが可哀そうなものを見る目を向けた。相当追い詰められているらしく、ルイツの影響だろうか、普段温厚なアルトなら絶対に口にしないような暴言が飛び出す。
リッツは溜息をつき、愚痴くらいは聞いてやろうと話を振った。
「今まで何をやってたんだ?」
「とりあえず跳び掛かってみてました。距離をとっていると何もしてこないんですけど、迂闊に近づくと攻撃されるんです。もちろんこちらの攻撃は華麗に防御されます。隙ができればいいのに……」
「隊長相手に隙なんて無いだろ。防御を解こうと思ったら、攻撃させるか騙すしかないな」
「騙す?」
「まあ、簡単なのはやられた振りをして隙を作るんだ。魔物相手じゃ通じないから砦の騎士には無用だけどな。やっぱりこちらから攻めてみて、攻撃に転じた所を狙うしかないんじゃないか?」
「うーん……攻撃か……」
確かにリッツと初めて戦った時、アルトがナイフを投げ、それを彼が防ぐ隙をついて背後をとった。
しかし狼姿で飛び道具は使えない。攪乱したり、誘導したりはできるのだが、主体的に攻撃するとなると結構難しい。
「リッツ、人型と狼姿との違いってなんでしょうか?」
「それを人間の俺に聞くか?」
リッツが呆れたようにアルトを見た。
「僕にとってはどっちも当たり前だから、どっちがいいとか分からないんです」
「まあ、そういうものか。といっても狼姿のお前を見たことがあるわけじゃないし……。大きいのか?」
リッツの問いに対し、アルトは手で高さを示しながら、自分なりに分かりやすい指標を持ち出した。
「そうですね、高さがディル様の腰位まであって、立ち上がったらディル様の肩に前脚を置けるくらいでしょうか」
「今俺はお前の基準に驚いた」
「へ?」
「そこまで行くと忠犬と言われてもしょうがないぞ」
「はぁ……」
最近のアルトの呼び名が、見習い以外に増えた。それが忠犬だ。猿と呼ばれることもある。犬にも猿にもなったことはないのだが、呼ぶ人は増える一方だった。
アルトがいまいち分かっていない反応を返すと、リッツは溜息をついて首を振った。
「……とにかく、大きいのはわかった。体が重く感じたりしないのか?」
「普通にしてて、自分の体って重く感じたりします?」
「……ないな。小さいと小回りは利くが、大きいと体重をかけて重い攻撃ができるから、羨ましいと思う」
そう言うリッツはヴィランのような隆々とした筋肉があまりつかないようで、しなやかさや瞬発力を鍛える方が向いている。ディルからも素早さを上げるよう、次の内勤務の演習はアルトと組むように言われていた。
「大きさと体重、あとは人間姿よりは身体能力が上がるんだったか?」
「はい。速さも跳躍も人型よりは格段に」
アルトは自信をもって頷いたが、リッツはどこか遠いところに目を向けた。
「……団長の反応速度を超えられるといいな」
「何で希望形なんですか」
「まあ、団長の気が済めばまた違う訓練に変わる。それまでせいぜい走り回っておけ」
「結局それですかぁぁ」
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仲良いっていいですよね。嬉しくなります。




