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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
少しの勇気と沢山の優しさ
16/93

16.策略と罰

 副隊長のヘイスに訓練の監督を任せ、ディルはリッツとアルトを連れて副長室へ向かった。

 ある程度の内容であれば各隊で処理するが、見習いが問題を起こすと砦での受け入れの維持に関わるため、責任者への報告が必要になる。

 アルトにも負け、ディルにも叩きのめされたからか、リッツはすっかり大人しくなり後をついてきた。

 それよりディルが気にしなければならないのはアルトだ。ルイツに事前に言われてはいたようだが、突然悪意を向けられ傷ついているだろうと思う。しかしリッツがいる中で気遣う声かけをすると、同じく罰を受ける立場に対し、特別扱いだと言われて再びアルトの立場が悪くなる可能性がある。

 折角アルト自身の能力を示し、他の隊員の見る目を変えられただろうに、それではこの一件が無駄になる。


 そもそも、アルトとリッツが衝突したのは、そうなるようルイツが仕向けたからだった。

 アルトが砦に来た経緯から、大半の者がその扱いと能力を測りかね、一部の若い騎士は我儘を言って居座ったと誤認している状況が出来つつあった。遅かれ早かれ、アルトが傷つくような事態が起こるだろうと、容易に予測できた。

 そんな中、ルイツは言ってのけた。


『衝突させてみましょう。そしたらすっきりするでしょう?』


 他者が火消しに努めても、反感を持った者は中々信用しない。むしろ贔屓だと思われるのが関の山だ。だからルイツはアルト自身がその火の粉を振り払うよう、場を整えた。

 アルトが害されるのを、一時的にでも見て見ぬ振りをしなければならないことに、ディルはすぐに賛同できなかった。しかしディルが外勤務や夜勤になると目の届かない時間が増えるし、アルトの性格上傷を隠す可能性がある。

 状況を知った上で支えられるよう、早く決着をつけるべきだとのルイツの言葉に、ディルはやむなく頷いた。


 アルトは素直すぎるその言動から、幼く何もできないように見える。しかし砦内を案内した際、気配を読みながら歩く様子を見てそれは違うと感じた。

 決定打が武器を渡した時だった。すぐに慣れた手つきで握る様子を見て、扱ったことがあると確信した。

 ナイフや短剣は護身の要素が強い。投げて使うことを選択した場合、よほど上手くないと相手に致命傷どころかかすり傷を与えることも出来ず無駄になる。投的としてはその辺りに落ちている石でも投げた方が経済的にもいいくらいだ。しかし逆に、投げ方を熟練すれば十分武器として使える。さらにアルトのように相手以上の速さが伴えば、ナイフでも攻撃に転じることができる。どちらかと言うと暗殺向きの戦い方にはなるが。

 筋肉の付き方から、軽めの武器をと考えたルイツの読み通りであった。


 何せそんなアルトが訓練から外されればどうなるか。そして周囲が一向に演習に参加しないアルトをどう見るか。大人しいアルトが誰かの挑発に乗るかは疑問だったが、向かってくる相手を躱すくらいでも良かった。

 短気を起こしたリッツはまさしくルイツの掌の上で踊る生贄だった。

 狙った通りに大人しいアルトを挑発し、その能力を引き出して見せつけることができた。訓練を積んでここに来た新人騎士にも引けを取らない動きに、周囲は驚きを隠せない様子だった。

 リッツの指導も出来、アルトの動きもわかって、一石二鳥だ。


(そういえば、あれほど使えるアルトが『扱えるか気になって』と言っていたな……)


 ナイフを渡したときにアルトがついた嘘を思い出したが、副長室へたどり着いたディルは考えを後に回した。


「副長、ディルです」

「どうぞ」


 促され副長室に入ると、書類を積み上げたルイツが書き物をしていた。

 団長は人間のくせにその辺の獣族では敵わないほど強く、明るくて人望も厚いが、書類仕事は全くできない。全ての事がこうしてルイツのところへ持ち込まれるため、彼がいないとこの砦は回らない。


「どうされましたか?」


 新人騎士であるリッツとアルトを連れている時点で察しているだろうに、この茶番を組み立てたルイツは何も知らない顔で問うた。


「砦内の規則を破り、2名が私闘を行いました」

「それはそれは。血の気の多い若い新人と見習いではありがちな揉め事ですね。当然罰はありますが、理由を聞きましょう。リッツ?」

「はっ。自分が力量も測れず、見習いであるアルトを侮辱したためであります。責は私にあります」


 アルトが驚いた顔でリッツを見た。あれほど嫌味を吐かれ、嫌われていた相手にまさか庇われると思っていなかったのだろう。


「どうですか? アルト君」

「けっ喧嘩を買った僕にも非はありますっ。それに訓練をまともにできない者がいれば、真面目にしている側が不満を持つのは当然ですから」


 庇ったにも関わらずそれを無下にする発言に、リッツが咎めるような視線を送るが、アルトは気づかない振りをしていた。

 自分が不利になる言い分にアルトらしさを感じ、ディルは思わず浮かびそうになる笑みを堪えた。

 そう言えば、何故人見知りで大人しいアルトが喧嘩を買ったのだろうか。ディルが危惧するように、嫌味を言われても我慢してしまいそうだが。

 その理由が大事なことのように思うのに、深く考える前にルイツの声がディルの思考を引き戻した。


「さて、どうしましょうかね」


 その笑顔を見たリッツは、あ、これは大変な罰になるやつだ、と遠い目になっている。

 ルイツは一石で二鳥どころか三鳥か四鳥くらいは狙いに行く人だ。訓練を倍にして、罰を与えることと身体強化することを同時に狙う程度で済むはずがない。最低もう一つは、ルイツか砦にとって利になることを組み込んでくるだろう。

 そういえば、ヴィランが団長になって以降団長室の清掃が投げられた。定期的にルイツがどうにかしているが、再び誰も入れない状態になってきていることを思い出す。

 そしてあまりにも時宜を得た回想に、幼いころからルイツに指導されていた自分が、砦を管理する時は彼に似た思考になることを思い出す。

 嫌な汗が滲んだ。匂いに敏感なアルトにとって、過酷な罰だ。


「いいでしょう。では、両名には罰として団長室の掃除を言い渡します」

「げっ」


 思わず声を漏らすリッツだったが、ルイツに視線を向けられて表情を改めた。

 思った通りの内容に、ディルは顔を覆う。


「お掃除……ですか?」

「ええそうですよ、アルト君。団長が滅多にしない書類仕事で大量生産した書き損じがばらまかれ、資料に使った図書が積みあがり、筆圧で折ったペン、こぼしたインクが散乱し、間で摘まんだ食事の食べこぼしが腐った汚部屋のお掃除です」

「――!」

「今日の休憩時間は返上ですね」


 この上なく綺麗に微笑まれ、アルトとリッツは項垂れた。






か、解説が重い……そしてまた掃除……

本当に、飽きずに最後までお読みいただきありがとうございます<(_ _)>


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