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特殊砦で頑張りたい  作者: やなぎ いつみ
少しの勇気と沢山の優しさ
14/93

14.訓練はじめます

 ディルを始めとした各隊の隊長は、引き継ぎのため朝と夕は執務棟へ向かう。

 朝は夜勤から、副長及び内勤と外勤の者への報告と伝達を。夕はその逆で、夜勤への引き継ぎをする。

 そのため、ディルは隊員達が訓練場に集う前に執務棟へ向かい、一日の終わりには再び報告をしに行かなければならない。


 そんな多忙な彼に懐くアルトは、引き継ぎの間、扉の外で待機だ。

上官だけの重要な話し合いもあるため、なるべく中の話を聞かないよう、ちまっと廊下にしゃがみ込む。

 それが終わって訓練場に出ると、すでに他の隊員たちが整列し始めていた。


 揃った隊員達を見渡し、ディルが朝礼を始める。


「よし、揃ったな。昨日各隊長に通達を回したが、まだ知らない者もいるだろうから伝えておく。今日から見習いが入る。アルトだ。獣族で種族は狼。見ての通りまだ幼いが、単身で魔物に飛び掛かるくらいにはやんちゃだ」


 ディルがアルトの頭に手を置き、隊員たちにそう紹介した。


「よ、よろしくお願いしますっ」


 昨日から繰り返しているやり取りではあるが、如何せん人が多い。緊張して長く話せず、挨拶だけに留まった。


 朝礼が終わると、早速訓練が始まる。まずは基礎体力を維持するため、持久走から始められた。


 アルトは走るのが得意だ。狼にとって走る行動には何種類かあり、速歩だと1日中走ることが出来るくらいの持久力はある。

 これならば招いてくれたディルの顔に泥を塗ることもないだろう。ほっとしつつ、合図を受けたアルトは他の隊員に混じって走り始めた。


 本気を出せばもっと早く走れる。けれど、長距離を走るなら余裕を持ちたい。

 そう考え自分なりの速度を保ち走り続けていると、最初は先を行っていた体格のいい隊員達との距離が縮まる。それでもアルトの速度は落ちず、走れば走るほど距離を詰め、しまいにはアルトが先行することになった。


 そうして規定の周数を走り終え、アルトは足を止めた。


「ディル様、終わりました!」

「ああ、ちょっと待っててくれ」


 ディルに駆け寄り、報告を行う。苦も無く済まされた訓練に、ディルは流石だなと感心した。

 徐々に他の隊員達も走り終え、息を切らせて歩いている。中にはそのまま座り込んでしまう者もいた。


「……子供とはいえ……っ、……獣族……だから、な」

「のう……りょくの、差は……埋められねえよっ……」


 息をするのも辛いだろうに、隊員たちが各々に言い訳をした。


 そもそも獣族は種族によって能力が異なり、各個で特化した能力は普通の人間よりも高い。そのため獣族の訓練は人間とは別に行い、個々に応じたものとすることが多い。

 あまりに能力がかけ離れていると、人間側が意欲を喪失しやすくなるからだ。


 隊員達の言葉にアルトが困ったような顔をすると、嫌な空気を消すようにディルが訓練を切り替えた。隊員たちが息を整えてから柔軟や腕立てなど、それぞれ鍛えたい能力に応じた運動を始める。


 アルトはと言えば、剣の素振りをするように指示された。ナイフは扱ってきたが長剣は持ったことがなく、これはアルトにとっては辛いものだ。

 使うどころか振り回されるアルトに、周囲が溜息をつく。


「……まだ小さいからなぁ」

「走るだけじゃ戦えないな。せいぜい走り回ってればいい」


 一部微笑ましそうに見る騎士もいるが、若い騎士からは侮るような発言が零れ出ていた。


 そんな中、訓練は後半へと移り、隊員たちが互いに手合わせをする演習となる。

 だがまだ剣を扱えないアルトは見て学べと待機を言い渡されてしまった。

 戦い方は色々あるだろうに、まるでお荷物のように控えさせられたアルトは、浮かない気持ちでその様子を見つめていた。




***




「ディル様」


 アルトが悩んでいる頃、ディルは自身の名前を呼ばれて振り返った。


「アルディ。どうした?」


 声をかけてきたのは第一隊に所属する騎士だ。


「差し出がましいとは思いますが、アルトのことで……」


 他の隊員の手前言いにくそうに声を落とす彼に、ディルは訓練場の端へと誘導する。


「アルトがどうした?」

「その……何故剣を持たせたんです? どう見てもあの子の身体に合っていませんし……。戦ったことがあると聞きましたが、他の武器を扱っていたんじゃないでしょうか? それにアルトのような狼なら、変化して訓練できると思うのですが……」


 今の訓練は無駄だとはっきり否定しないよう、細心の注意を払いながら遠回しに訴えるアルディに、ディルは思わず浮かびそうになる笑みを堪えた。


 アルディは栗鼠の獣族だ。鼻は良いが、変化すると普通の栗鼠より一回り大きい程度にまで縮んでしまう。

 故に小動物の獣族は中央の諜報部に望まれるのだが、彼は魔物と戦い人を守ることを希望した。


 とはいえ、ここでは彼が変化して戦うことはまずなく、獣型でも戦えるものが少し羨ましいらしい。

 そんな隊員が、アルトの事を気にしてくれている。


「ルイツ副長によると、弱ってるらしい。村でのことがあってすぐこちらに来ているし、ノーティスの見立てでも軽いものしか口にしていないようだ。変化に失敗したらと危惧していた」

「なるほど。では無理させない方が良いでしょうね。出来ることは限界までやりそうな子ですし」


 不興を買う覚悟で意見しに来たにも関わらず、あまりにもあっさりと納得して引き下がるため、ディルは変化に失敗するということが今更ながらに気になった。


「変化に失敗するってどんな感じなんだ? ただ姿が変らないのとは違うのか?」


 興味をそそられディルが尋ねると、アルディはしばらく思案し、返答した。


「そうですね……。例えばディル様、あのアルトの顔だけ残して、体だけが狼になったとしたらどうします?はたまた、身体は残して顔だけ狼なったとしたら。接するのをためらいません?」


 想像してみて何とも言えない気持ちになる。引かないと言ったら嘘になるだろう。


「……否定はしない」

「厳密に言うと違いますが、それに近い事が起こるんですよ。混じり物――魔物だと罵られた歴史もあるようで、獣族は絶対に弱っているときに人間の前で変じたりしません。……アルトの容姿だと、かなり危ないことになりそうですし」

「そ、そうか。無理させないよう気を付ける」


 神妙な面持ちで呟くアルディに、余程の事なのだろうと気を引き締めた。











お読みいただきありがとうございました。


今のところ獣族の登場率高めですね。

……あまり変化しませんが。


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