五章 解明―3―
しかし紗綾はそれを見て呆れたように首を振った。
「その言い訳は苦しいですよ。山中警部、当然調べましたよね、実際そういう事件があったか」
「あ、ああ」
「どうです、実際にありましたか?」
「いや……確かに亡くなった男はいたそうだが、あの話のように包帯は巻いていなかったし、一人旅で心臓発作だった。当時の調書も調べたから、これは確実だ」
「そうですよね。ねぇ、大庭さん。その包帯男の話も二人の共作でしょう? 今回の事件で泰さんに包帯を巻きつけ流す。それが見つかって、あのノートの記述が発見されれば、その噂にある男女が泰さんを殺したっていうシナリオを作れます。でもそれは、警察の捜査力を見くびりすぎですよ」
紗綾の目は壊れかけの人形を見るように、今にも目を背けたい、そんな目であった。
「そもそも、大庭さん。ダメですよ。人殺しっていう一世一代の大仕事になって、自ら手を下さず、計画だけ持ちかけるような男につぎ込んじゃあね」
紗綾がそう言った途端、大庭翠の口元から嗚咽が漏れてきた。しかし紗綾の表情は変らなかった。
「それに赤羽さんはまだ一言も返してこない。このままじゃ、あなた一人の罪にされかねない……。ねぇ赤羽さん、なんか言ったらどうなんです?」
紗綾はそう言うと赤羽の方を向いた。赤羽もそれを予期していたようで、ぐっと首をこちらに捩じるとにやりと笑った。
「ああ、そうだな。俺がその光を当てたって証拠はどこにもないからな。いや、ひょっとすると偶然懐中電灯の光がそのバンガローの鏡とやらに当たっちまったのかもしれない」
大庭の嗚咽が止んだ。
「あの光のアリバイさえ解けちまえば、こいつには犯行時刻のアリバイは無くなるからな。こいつ単独の犯行じゃないのか?」
それは冷酷な一笑だった。その刹那大庭を殺気が包んだようにも見えた。誰からも彼女の瞳は見えなかったが、実際、この時紗綾が大庭の肩に手を置かなければ、どうなっていたかは分からなかっただろう。




