五章 解明―2―
「だって今はほら、携帯電話に懐中電灯の機能がついているじゃないですか。なにも懐中電灯という道具に固執することはないわけです。懐中電灯が壊れちゃったから、携帯電話のライトを使いました、これいいじゃないですか。それなのにあなたは頑なに明かりをつけなかったし、そのことを強調する。何故でしょう? あなたは明かりを使っちゃいけない理由が他にあったんですね」
「しかし、大庭翠がバーベキュー場に現れたのは光が見えてからすぐだったと言ったのは、瓦木君、君じゃないか」
「こんなのトリックでも何でもないですよ、山中警部。私さっき赤羽さんに言いましたね、『あなたは合図となる水の音を聞いて、懐中電灯を振っただけ』って」
「君は赤羽君が共犯だというのか。しかし赤羽君はこちら側にいたんだぞ。光が見えたのは対岸のバンガローじゃないか、君も見たんだろう? こちらで懐中電灯を振っても意味がないじゃないか」
「ところがどっこい意味がある」
「何?」
しかし紗綾は眉一つ動かさなかった。
「四号バンガローの方で光が見えた。その数秒以内に翠さんがバーベキュー場に戻ってきたら、翠さんに犯行は不可能と判断される。確かにそうです。でも、何も四号バンガローの方で明かりをつけなくてもいいんです。四号バンガローの入り口横には洗面台の上に大きな鏡があるじゃないですか。あれに反射した光を私たちは見たんです。でもそのアリバイを成立させるためには、翠さんは懐中電灯を持って行ってはいけないんです。光はこの川幅を往復します。見える光はとても弱いものになりますね。だから強い光を出すものを持って橋を渡るわけにはいかないんです」
紗綾はそこまで言うと、対岸の四号バンガローを見やった。
「そしてもう一つ、このトリックを成立させるのに重要なのが光の見えるタイミングです。そこで翠さん、あなたは橋のうえから大きな石を蹴り落とした。その音を合図に共犯者が懐中電灯を振る。あの水の音にはあなたが疑われない、絶妙のタイミングを計る目的があった。その上、音を立てることでバーベキュー場にいる人たちの注意を対岸に向けることもできます。うまく注意をひけなかった場合は対岸の相方が懐中電灯を振らなければいい。勿論この場合、どうやってアリバイを成立させるか、その方策も用意していたのでしょう。バーベキュー場側からの明かりが見えるのは、成功した場合、橋を渡っている翠さん、あなただけですね。共犯者からの明かりが見えなければ次の手段に移る。相方が懐中電灯を振ることは翠さんのアリバイを作る以外にも、うまくいったか否かの合図にもなるということです。いや、これは私の考えすぎかもしれませんけどね」
紗綾はそう言うと立ち上がって大庭の前にしゃがみこんだ。
「ねえ、大庭さん。どうですか? 私の言ったこと、間違っていることありますか?」
覗き込もうとしても大庭の表情は前髪に隠れてうまく読み取れなかった。ただ唯一見える口元は、歯を食いしばっているのだろうか、何かを耐えているように苦しく見えた。
「違う! あ、あいつらよ。あの、包帯男を殺したあの女と男が泰君を殺したのよ!」
それが大庭の限界だったのだろう。大庭はそう言うと大きく咳き込んだ。




