四章 聴取―4―
「どうだい、探偵君。順調かい?」
「ええ、まあまあですね」
山中警部は笑みを浮かべている。対する紗綾は何を考えているのか、表情からは分からなかった。
「そうそう、死因がわかったんだ。知りたいだろ」
「ああ、一体なんですか? 凶器も分かりましたか?」
山中警部は首を縦に振ると手帳を取り出して読み上げた。
「詳しい専門用語は要らないだろう? 死因は撲殺だ。凶器は薪割り、現場近くの山道の入り口に捨てられていた。指紋は出てこなかったな。遺体の傷と薪割りの形状が一致したから、まあ間違いないだろう。どうだ、これで十分か?」
「ええ、十分です。ありがとうございます」
「おう、じゃあ、せいぜい頑張れよ」
パタンと手帳を閉じると山中警部は足早に紗綾の前から去った。そのまま橋を一人とぼとぼと渡っていく。それと入れ違えるように間宮凛が戻ってきた。
「ああ、凛さん。どうです、見つかりましたか」
「ええ、これです」
そう言って凛が取り出したのは直径五センチ、長さ三十センチほど。なかなかしっかりとした赤い懐中電灯である。
「ちょっとこれ預かってもいいですよね」
「は、はぁ、まあ……」
「ありがとうございます。それじゃあもう戻って大丈夫ですよ」
紗綾は早々に凛を返すと、しばらく懐中電灯をいじってから、ずっと聞き取りを退屈そうに聞いていた黒崎の前に立った。
「黒崎、これ直せる? 気を付けて分解してほしいの。できる?」
紗綾に懐中電灯を差し出されて、黒崎浩輔は何かを感じ取ったのか、ひとつ身震いをすると、懐中電灯を受け取った。
「レンズを動かせるのか。なかなかいい懐中電灯じゃないか」
十秒ほど黒崎は懐中電灯をいじっていたが、すぐにくるくると筒をまわして、すっぽりと懐中電灯の頭を取った。黒崎はそこから電池を取り出してハンカチの上に置くとその中をのぞき込んだ。
「さすがきれいに作られている。断線はしていなさそうだが……」
「そう。じゃあどうして明かりがつかないの?」
黒崎はそう言われると、もう一度懐中電灯の内部を検めた。それでも納得しかねるのか、次に電池に手を伸ばすと口元を綻ばせた。
「なんだ。接点にテープが張ってある」
「テープ? ちょっと見せて」
黒崎から受け取った電池を見てみると、なるほど、たしかにプラス極側にセロハンテープが張ってある。紗綾はそれを恐る恐るはがすと電池を黒崎に返した。
「点くかどうか試してみて」
黒崎が懐中電灯に電池を入れる間、紗綾はそのセロハンテープを透かしてにっこりと笑った。
そこにはくっきりと人間の指紋がついていたのだ。




