四章 聴取―2―
次に呼ばれてやってきた間宮凛も、大庭翠ほどではないがどこか憔悴した様子であった。
「間宮さん。大庭さんはあの通りなので、あまり深い話はできなかったんですけど、その分、いろいろお聞きしていいですか?」
「は、はぁ」
間宮の顔には明らかに怯えている色があった。お世辞にも美しいとは言い難い。しかし色の白いは七難隠すという。ただし今はその色の白さも白を通り越して青白いとも言えるほどだった。
「まず、泰さんが体調を崩したっていうのは一体いつごろからなんですか?」
「それは、その日のお昼過ぎからです。昨日は朝からサイクリングで、お昼を食べた後こっちに戻って来る途中からちょっと気分が悪いって」
「お昼は皆さん何を?」
「道中の道の駅でラーメンを」
「それは皆さん食べたんですね?」
「はい」
「なるほど。じゃあ次なんですけど、昨晩お風呂でお会いしましたよね。翠さんと何か話してませんでしたか?」
その刹那、間宮凛の眉間に皺が寄った。聞き耳を立てていたことを責めるような目つきに、紗綾は少し申し訳なく思ったが、これも仕事と割り切って表情には出さなかった。間宮凛もすぐさま不快感を取り繕った。
「それは泰君が居なくなっちゃって。それで、あのバンガローは昔事件があったとか……。怖いって翠が言うから、じゃあ今日は三人一緒に寝ようかって話になったんです」
「凛さんと裕さんはこっち岸のバンガローなんですね?」
「はぁ、そうです。むこうのバンガローが一つだけ格安だったから、むこうとこっちを一つずつ取って、あとでみんなで割り勘しようって話になっていて」
「そうですか……。ところで、こちらには初めてきたんですか?」
「いや、それは赤羽君……あ、裕君は違うんじゃないかな。このあたり詳しかったし、そう、このバンガローを紹介してくれたのも彼なんです」
「なるほど。それじゃあ昨晩、バーベキューの時の話に移りますけど、翠さんは向こう岸に行くとき、懐中電灯をもって行かなかったんですか?」
「ええ、そうなんですよ。丁度バーベキューやろうって時になって壊れちゃって。まあ、安物だったし」
「その懐中電灯はいつ買ったんです?」
「それは旅行の前に私が買ってきたんです。赤羽君に頼まれて」
「今その懐中電灯は?」
「赤羽君が持ってるはずですよ」
「そうですか。それじゃあ、ちょっとあとでこっそりその懐中電灯をもってきてもらえませんか?」
「内緒で、ですか?」
「ええ、こっそりと。ああ、そう、そういえば……赤羽さんはバーベキューの間、向こう岸に渡りましたか?」
「いいえ。初めに食材を持ってきた時だけです。その時は三人で泰君のお見舞いをして、それから食材を持って……」
「凛さんは向こう岸には?」
「いえ、私ずっと炭火に付きっきりだったからそんな余裕はないですし、私が向こう岸に行くのは翠に悪いじゃないですか」
「ああ、たしかにそうですよね。それで、あなただけ炭火の番をしていて……赤羽さんは?」
「赤羽君、料理したくないみたいなんです。いつも私がやってあげるんです。だから彼、食べたいだけ食べるともう終わりで、土手に座って空を見てるって」
「それで一人離れていたんですね。片づけの時まで」
「赤羽君ってそういう人なんですよ。とっても面倒くさがり屋だから。なんでもかんでも私に任せるんです。手伝ってっていうといつも嫌な顔されるから……」
だからもう、手伝ってと聞かない、間宮凛はそう訴えるように眉間にしわを寄せた。
「なるほど。それは苦労しますね。ああ、それでじゃあ、赤羽さんを呼んできてもらえますか? あんまり時間はないかもしれませんが、その間に懐中電灯を探してもらえれば」
「あ、はい。わかりました」
間宮凛は不審そうに紗綾を一瞥すると、小走りでバンガローへと帰って行った。




