墓場荒らし
「さぁ、次の階層に進むぞ!我に続け!(キリッ)」
ウィルズさんが偉そうに冒険者を先導している。
……いやさっき何もしてなかったですやん。なんでそんな偉そうなん?まぁいいですけど。
「あの、チヒロさん。」
「さんはなくていい。呼び捨てのほうが気楽だろ。」
「んじゃチヒロ。あんた結構強いけど、一体どんな力があるんだ?」
居酒屋で見たチンピラを一瞬で気絶させたこと、降り注ぐ火の玉を無数に出したことなど、中々強い力を持っているようだったが、具体的な手の内は明かされていない。
「力と言ってもな……、具体的に説明できるのは【神眼】っていう色々見れるスキルがあるだけだぞ。気絶させたりだとか、火の玉を無数に出したりとか、そういうのは全部魔力でなんとかしてるだけだ。アルカナは見たんだろうが、俺の魔力を含めて、ステータスが全体的にerror表示になるくらいには高い数字だぞ。」
「ファッ!?たまげたなぁ……」
強すぎてワロエナイなぁ……
転生者ってみんなこうなのかな?
「じゃあハヤト、そっちはどんな力なんだ?」
「転職スキル。こっちの世界で言うところの『職業』に自分や他人を転職させるって感じ。」
「なるほどな。把握した――っと、次の階層だ。行くぞ。」
「あいよ!」
扉が、開く。
そこには、墓がひたすら並べられてている部屋。海外にある感じの規則正しく並び、周囲には不穏な空気が流れてた。
「なんだぁ?この陰気臭いとこは」
冒険者の一人が直進する。
「そこに扉があんじゃねぇか。なんだ、ボーナスステージか?」
そう言って扉に触れ、開けようとする。
「ん?鍵がかかってんのか?意味わか――」
その時、どこからか声が聞こえた。
『墓を荒らす者、許すまじ!!」
突然現れる大量の死霊。
「出やがったな野郎!!喰らえ!」
ブンっと彼が持っていた斧を振りかざすが、その斧は手応えなくすり抜けた。
「んだぁ!?うぁっ!?なんだぁ……これ……。」
しばらくすると、力もなく項垂れた。
「お、おい?」
「………………まじ。」
「は?」
「墓を荒らす者ォォォ!!許すまじィィィィイイイ!!!」
そこにいたのは、もうさっきまでの冒険者ではなかった。まるで何かにとりつかれているような虚ろな目をしてただ、こちらを睨みつけている。
「お、おい!どうしたんだお前――」
「許すまじィィィイイイ!!!」
「うわっ!?なにすんだてめぇ!!」
我を忘れひたすら斧を振り回す。
とどのつまり、この階層は――
「仲間に取り憑いて、攻撃するタイプか。成程な。」
表情一つ変えず、チヒロが言った。
いや僕が言いたかったやつぅ!
「だが物理無効とはな。なかなかに鬼畜仕様だな。突破口ぐらい欲しいもんだが。」
「そうなんすよねぇ。攻撃通らないし、攻撃したら取り付かれるし。困ったもんすね。」
と、僕も表情一つ変えずに言ってみた。
「言ってみた。じゃ、ないでしょ!バカかなんかなの!?
「そうカッカすんなってアルカナさん。キレたって状況は何一つ変わらな―」
「じゃあさっさと変えろや異世界に逝かない程度に嬲り殺したろかこの低能がァアアアア!!」
※アルカナは殺した対象を異世界に飛ばします。
「わかったわかったわかったから今すぐその物騒なもんしまって黙って見てろ下さいィィィイイイ!!!」
「……仲、いいんだな。」
さてと、気を取り直していっちょやりますかね。
キーワードは『墓を荒らす者、許すまじ』。
墓を壊すと許されないってことは、壊しちゃいけない理由があるわけだ。となれば、やることは一つ。
「せーの」
ボガッ(墓が壊された音)
『キッ、貴様ァァァァアアアア!!』
「<転職・狩人>―――《アクションスキル》バックハント・ストライク」
放たれた矢は、その幽霊の体を貫いた。
『ガァアアアアアア!!!」
「やっぱり消滅したな。こいつらは自分の墓を壊されると攻撃が通るようになるんだ。」
「……墓を壊せばいいんだな?」
そう言い、チヒロが前に出る。
「え、何する気――」
「圧縮」
刹那、全ての墓が破壊され、それに伴って全ての幽霊が実体化した。
「あとは殴って終わり、と。」
なんだこの人、バケモンか。