世界の歪みは突然に
今回の話の製作者:佳川 瑠伽
ここはどこか。ぶっちゃけそんなんはどうでもいい。
……いやよくないけど。
そんなことよりも僕こと千鳥隼人は、目の前にいる妖精型合法ロリ。そんな身長の低い見た目にそぐわない大剣を片手で持っているロリに、圧倒的な憤怒を覚えていた。
「何ブスッとしてんの隼人。カルシウム足りて無いんじゃない?ブスッとしてると、顔面までブスになるわよ。おっ、今上手いこと言った!」
「おっ、上手い事言った!……じゃねぇよロリババァ!そもそもうまくねぇよ!」
「やーだなぁ、目が怖いよ?」
「やかましい!!素晴らしき僕の安眠を君のメスで切り裂かれた僕の身にもなれぇ!」
アルカナ・ロザリオ。
あらゆる世界のゆがみを正常化し、あらゆる世界を安定させる役割をもつ存在『世界の鍵』である彼女は、殺害した対象を別世界へ送る<異世界転移>の能力を持っている。
「……んで、兄貴が生み出しているゆがみを差し置いて、この僕の安眠までをも差し置いてこの世界の歪みを正常化すんのか?」
「つい最近、この世界に歪みが生じてね。しかも、歪む速度が段違いに速い。歪みが完全になるのは遅くとも10日後。よって、君が寝ている時間すらも惜しいから優先したの。」
「あと10日!?どういうことだよ……兄貴よりも速いって……」
「ええ、私も驚いてる。でもこんなことができるんだとしたら、恐らくは神格を持つものが関わっている可能性があるわ。」
神格を持つ者……神か神に限りなく近づいた者。
そんな化け物が、相手なのか。
「てかあれ?そんなのをソロプレイっすか?」
「そらそうよ。何?愛しき妹や老害ジジィに負担を掛けさせる気?」
愛しき姉はともかくとして、老害ジジィは酷くね?可哀相なマーリンですこと。
この時、マーリンと呼ばれる老害ジジィがくしゃみをしたが、それはそれ、これはこれである。
「んじゃ、早速探すわよ。」
「その歪みを生み出してる奴をか?」
「なわけ。この世界にいるできる限り強い奴を、よ。」
ソロプレイと言った割に協力してくれるアルカナさんマジツンデレ。
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とは言ったものの、特に手掛かりもなく数時間もの間街を歩いていた。
「情報ゼロじゃどこ歩いてもわかんねーよ」
「そうね。まずは情報を集めましょうか」
「そうだな。情報が集まっているところ……」
その疑問に、答えは簡単に出た。
「「 そうだ、ギルド的なところに行こう……」」
なんだかデジャヴを感じたが、気のせいだろう。
というわけで、とりあえずギルドを目指した。
~~~~~~ギルド~~~~~~
「なんだ?やけに騒がしいが。」
「人だかりができてるわね。ちょっと話を聞いてみましょうか。」
クエスト受注所に群がっている中にいた、小柄な冒険者に話しかけた。
「ねぇ君、ここのギルドっていつもこんな賑やかなのか?」
「ん?見ない顔だな。旅してたりとかしてんの?」
「まぁ、そんなとこだ。で?どうなの?」
「あぁ悪い。ついさっきギルドに、緊急の依頼が来たらしくてな。国からの依頼なんだが、報酬が馬鹿みたいに高いみたいなんだ。だから、そのクエストの受注が殺到してるみたいだ。」
奥の掲示板を見ると『最近、王都近郊にダンジョンが出現。危険度は不明のため全容解明、及び攻略を依頼する。最初の攻略者には、王金貨50枚を贈与する』と書いてあった。
もしやと思いアルカナを見ると、無言で頷かれた。このダンジョンが歪みの原因らしい。
強い奴探しは後にして、ダンジョン攻略ができる権利を得ておくか。
そう考えて、列に並ぶ。
すると、後ろから押されてしまい列から外れてしまった。
「おぉっとぉすまねぇ!ついつい急いだもんだからぶつかっちまったぁ!あれ?列から外れっちまったみたいだな!?いやぁ、悪い悪い!あ、割り込みはいけねぇぜ?ちゃんと後ろから並び直すこったな!はっはっは!」
とても大柄な男で、典型的な調子に乗りやすい冒険者だった。
「はぁ!?ぶつかってきておいて酷くねぇか!?」
「ほらほら、兄貴に文句言うより後ろで並び直したほうが早いぜ?」
これまた典型的な取り巻きで、複数人で俺を笑った。
どーすっかなぁと悩んでいると、赤い髪と真っ白いローブが印象的な、俺より背の低い冒険者が
出てきた。
「ぶつかったお前らが並び直せ」
「あぁ!?んだガキ!」
「兄貴、こいつ……」
取り巻きが何か言いかけたところで、大柄な男と取り巻きは白目になっていた。
その冒険者は物を投げるような扱いで、大柄な男と取り巻きを放り投げた。
「ここに並ぶといい」
「あ…ありがとう。……名前聞いてもいいか?俺はチドリ・ハヤトだ」
「おれはヨシダ・チヒロだ。礼は言葉だけ受け取っておく」
それ以降のトラブルはなく、無事に依頼書をゲットできた。
一安心して、また街をブラついている。
「さっきの赤い髪の冒険者、転生してこの世界に来たわね。」
「名前が日本人のまんまなんだから転移じゃないのか?」
「……彼、おそらく……いや確実にかなりの実力者よ。ステータスが化物だったわ。あのスキルと転職スキルがあれば、あっという間に世界の歪みを治せるわよ。」
「もうあいつだけでいいんじゃないかな。神格とやらも。ちょっと事情説明して協力し」
「ハヤト、前」
「見えてるよ」
さっきの大男とその取り巻きが、殺る気満々で道を塞いでいた。
「よーおガキィ!さっきは俺にいちゃもんつけてくれてありがとうなぁ!おかげで殺せる理由ができたってもんだぜぇ!……これから生きていけると思うなよ?」
そう言い終わると、それぞれが完全に殺す気の武器を持ちだす。
街中で武器を取り出して、街の人が何か言わないのかと思って見回すと、誰もいない。
「わりぃが、人よけの結界を張った。これでてめぇと、そこの嬢ちゃんを何の問題も無くいたぶれるわけだ……」
威嚇する彼らをよそに、人数を数える。十人か……。
アルカナを見ると、軽く頷いた。
―――めんどいから、早く片付けて。
口元が少しにやける。
「確認するけどさ。人よけの結界、張ってるんだよね?」
「ああ?それがなn――」
「なら、安心だ。」
「あ?」
「安心して、全力を出せる」
〈転職・賢者〉――――
自分の体が白く光る。
「なんだぁ?体が白くなって……服装も違くなって……」
「〈特殊スキル〉詠唱省略」
その刹那、無数の魔方陣が彼らを包み込む。
「う、嘘……だろ……おい!ガードしろ!障壁張れ!早くしろ!」
「あ、兄貴!そ、それが!障壁が展開できないんですぅ……」
「あ!?そ、そんなこと……」
大男は、チラッとこっちを見る。
口元をニヤつかせて、呟かずにはいられなかった。
―――そりゃあ、すぐにでも『無職化』するさね。
大男の顔が青くなる。
「じゃあ……」
「ちょ、待……」
「BAN」
大男と取り巻きたちは、裸になって倒れている。
人よけの結界は無くなったようで、すぐにその通りに人が通る。
「えっ!?何この人達!」
「こ ん な と こ ろ で倒れてるなんて、よっぽどの変態なんじゃない?」
「ウホッ!いい男っ!」
「いいよ!こいよ!」
などとまぁ、散々な反応が聞こえる。
「……まぁ、そりゃあ普通の冒険者な訳無いよな。」
赤い髪の冒険者、チヒロだけは、大男たちを見ずにハヤト達を見ていた。