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無能と天才の終着点  作者: ゆい&ゆー
1/3

000 プロローグ

「ハァ、ハァ......」


燃え盛る炎の中、酸素を奪い尽くす轟音と崩れ落ちていく落下音が鳴り響く。その中を動く人影が一つ。


「まだ、まだっ!」


それは15歳程度の少年だった。既に酸欠のせいか、又は灼熱の環境のせいか視界は朦朧としており動きもどこかぎこちない。だが、それでも少年は歩みを止めず右手を伸ばす。


「俺はまだ、こんな所でたちど、まれないんだ......」


途切れ途切れになりつつあるその言葉は近くで聞かないと聞こえないくらい小さい。それでも、強い意志を感じられる言葉だった。


そんな意志とは裏腹に周囲は既に炎に囲まれていく。そこはもはや生物が生きていけない環境になりつつある。


薄くなる酸素、肌を焼く高温の空気、そして言う事を聞かなくなっていく体の激痛に少年はやがて歩くだけの力も入らなくなり、地面に倒れる。


「まだ、まだぁぁぁ」


声は枯れ、視界は揺らぎ、ありとあらゆる感覚が悲鳴をあげている。それでもその影の主はまだ動く腕で体を前に持っていく。


そんなある悪あがきとも言える行動でどうすることも出来ず、次第に炎が少年に近ずく。


その光景は少年に見えたのだろう。最後の悪あがきを止め空を見上げる。


空は炎から生まれた煙がモクモクと広がり、希望などないと訴えるかのように一面を覆っていた。


「ふざけるな......」


もはや何をしても助からないと悟った少年は誰に向かっていうでもなく出せるだけの声を出す。


「ふざけるな!」


無理に声を出そうとして喉に激痛が襲う。それでも少年は止まらない。


「俺はまだ、何もしてない! 誰かからも、認められて、ない。何も、成してない。まだ、見返す事さえ、できてないんだ!」


少年の訴えかけるような嘆きは無常にも周囲の轟音にかき消され、周りはおろか少年本人の耳にさえ聞こえていないだろう。明確な死を感じたせいか、体の力が抜けていくのを感じる。


「俺、は......」


それでも少年は、


「まだ......」


黒い空の向こうにいる神様にでも向けて最後まで言葉を紡ぐ。


「生きた、い......」


それが最後の言葉だった。少年はそれで力尽きたのか頭を地面につける。もう体の激痛も熱さも感じない。無、ただそれだけが体を支配していく。


(結局、最後までアレを使うことは、無かったな......)


消えていくように落ちていく意識の中、そんな事をふと思う。


(やっぱり、俺は、どれだけ頑張っても、唯の、出来損ない、にしかなれないのか......)


それを最後に少年の姿は炎に包まれる。遂に炎が少年の所にまできてしまったのだ。


(終わった、な......)


近くで勢いよく燃えてるのであろう炎の音を一方的に聞きながら少年は意識を落とした。




『メルジストの大火災』 死者45432人、行方不明者13451人という歴史上最悪の被害を生み出したこの災害こそ終わりでもあり、始まりだった。




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