3話 出逢い
眩い光が治まった時には、町の広場に立っていた。
風が頬撫でる感触、何処かでパンを焼く匂い、感じるのは現実の感覚と殆ど変わらない五感。
「ホントに、凄いな、これは…。」
俺は少し周りを見渡すと、やはりと言うべきか、同じ様なプレイヤーがそれなりに居た。恐らく俺と同じ様に今日初めてプレイし始めた新人プレイヤーなのだろう。
彼らは確認も程々にし、各々自分の好きな様に行動を始める。
「さて、俺もまずは雄星やまり子と合流しないとな。」
そう口にし、俺も歩き始める。土の上を歩く感覚を此処まで再現出来ている事にも俺は驚いていた。
これが、VRなのかと。
「これじゃ、モンスターを斬る感覚とかも再現されていそうだよな…。」
そう思いながら、腰にある剣へと手を伸ばし触る。
腰に装備されているのは、一般的なロングソード。言わずもがな、初期装備であり初心者プレイヤーの愛剣である。
そんな所に、不意に声を掛けられる。
「おやおや?初心者プレイヤーさんかな?」
声を掛けてきたのは身長が俺の腰くらいしかない、怪しげな幼女だった。
俺は、此奴らはヤバいと警報が鳴っている。何がヤバいかって?。まずは見た目、怪しげなローブを羽織り (フードはしてないが)とんがり帽子を頭に被り、フリルだらけの服を着ている…。魔女っ子を目指したのだろうが、怪しさ満点である。
「あ、ああ、今しがたキャラクタークリエイトを終えた所だ。」
それにしても、その横だ。よりヤバさを際立たせているのが、横にいる筋骨隆々でどぎつい程の化粧をした男…。そう、男なんだ。
「おやおや?マイケルが気になるのかな?」
「あ、いや、別に…。出来れば関わり合いになりたくないというか…。」
最後の方が、あまり大きな声で言えなかったが勿論本音だ。いや、人を見かけで判断するのはいけない事なんだがな…。
「あらぁん、ちょっとソレは傷ついちゃうわぁん!」
「えっと、すいません。」
聞こえていたようだ、これは素直に謝らねば。此方が悪いからな。
「いいのよ!ワテシみたいなのは少数派だから」
「いえ、俺が悪いですから。申し訳ありません。」
「おやおや?最近の若者にしては珍しくかな?」
「そぉねぇ、将来有望ね!」
話をしていたら、どうやら2人は実際に知り合い同士らしい。お二人は既に社会人で、この度マストコーポレーションから出たXeno Sofiaを予約して購入したそうだ。
更に、支払いを一括でという事らしい。流石は社会人だ。
「それはそうと、自己紹介がまだだったかな?」
思い出したかのように魔女っ子さんが言う。
「そぉねぇ!先ずはそこからよねぇ!」
「そうですね、そういえばまだでしたね。」
「じゃあ、まずは私からかな?。
私はカナンだよ。見ての通り、魔女だよ。
主に調合で薬を作っているね。」
両手を腰に当ててのドヤ顔だ。身長も低ければ童顔なので完全に子供っぽい。
「次はわてしねぇ!。ワテシはマイケルよ!。
ワテシは細工師よん。アクセサリーなんかを作るの」
これはまた、凄いギャップ?なのかな。物凄く器用な人なんだろうな。じゃないと細工師なんかは出来ないよな。
次は、俺の番だよな。
「俺はセツナ。今の所生産職にはついていません。」
「生産職に就いてるのは社内βテスター位じゃないかな?」
「社内βテスター?」
「マストの新型VR機器のテストを兼ねてこのゲーム
エクシリア・ホープスのテスターたちの事よん。」
成る程、社内でのテストを兼ねてダブルテスターって所かな?。
って事は、この2人はテスターの人達なのか。凄いな。
「とは言え、このゲームは謎過ぎるからね。」
「ホントよねぇ〜、運営は何考えてるか分かんないし」
「そうなんですか?」
「ネタバレを嫌う徹底姿勢は目を見張るものがあるかな?」
「それと新システムも大概よぉ〜。」
どうやら独自の新システムを採用しているらしいが、詳しい事はほぼ分からないそうだ。
しかし、この新システムがこの感覚を生み出しているらしい。正に謎技術だな。
「まぁ、そんな事を抜きにして楽しむのがいいよ」
「そぉねぇ。それが一番よ!」
「いろいろアドバイス、ありがとうございます。
では、俺はこの辺で。知り合いと合流しますので。」
そう言って俺は2人に別れを告げる。色々と試したい気もするが、今は雄星たちと合流する方が先だ。
そう思った矢先に出鼻を挫かれる。
「まぁ、待ちたまえよ。先にフレンド登録しておこうじゃないか。」
「ここで会ったのも何かの縁だしねぇ〜。申請しておくわ!」
【カナン】と【マイケル】からフレンド申請が
届いています。了承しますか?
はい/いいえ
俺は迷わず【はい】を選択する。これは迷う必要が無いからな。
話してて凄えいい人たちだったし。
「うむうむ、これで私たちはソウルフレンドだ!。」
「何かあったら相談にのるわよぉ〜」
「ありがとうございます。相談事があったら真っ先に連絡しますよ。」
そう言って今度こそ、2人と別れたのだった。
カナンさんやマイケルさんたちと別れた後、俺は雄星やまり子を探しながら町を回っていた。
改めて思うが、感覚の再現度が凄い。走れば疲れるし、腹も減る。
「どうなってんだろうな、本当に。」
そんな事を口にしていると、コールが鳴った。
「これは、ゲーム内通話じゃない?」
表示されていたのはゲーム内通話ではなく、Xeno Sofia直通の通話だった。
一体誰からだ?と思いつつも、その通話に出る。
「おぉ、やっと出たね〜、マイスターくん!」
全く聞いた事の無い声の上に、何だ?マイスターって?。
俺は昔からちょくちょくこのマイスターってヤツで揶揄われる。一体何なんだ、マイスターってのは…。
「どちら様で?」
「ぬなっ、!?私だよ!マストの代表、榊原 海凪だよ!」
あぁ!俺に懸賞でXeno Sofiaに不要なアドレス突っ込んで送って来た人か!。
「その節はありがとうございます。お陰で今エクシリア・ホープスをプレイ中ですよ。」
素直に感想を述べる。実際有り難かったし、雄星達と遊べるし。
「そうかそうか、それは良かった!。で、今町のどこに居るんだい?」
「えっと、広場から少しわき道に入った露店通りですけど…。」
「分かったよ、少し待っていてね!」
そう言うと、通話が突然切れた。
何というマイペースっぷりか。それにしても、一体なんだったんだ?。待っていろと言われてもな、俺は雄星たちと合流しなければいけないんだけどな…。
「はぁ、はぁ、ま、待たせたね!。」
突然声を掛けられる。
しかもさっきの通話と同じ声だ、まさか榊原さんとやらか?。
そう思いながら振り返ると、身長は低いもののスタイルが良く整った顔立ちの少女が息を切らしてそこにいた。
「えっと、さ、榊原、さん?」
「そうだぞ!私が、榊原 海凪だ!。
エクシリア・ホープスではナギ、と呼んでくれな!」
この人は何しているんだろう、と言うのが俺の率直な感想だ。曲がりなりにも、マストコーポレーションの代表なのだ。忙しく無いはずが無い。
「仕事は、いいんですか?」
「なに、今は父も出張って来ている。私の出る幕じゃ無いさ!。それに、これも立派な仕事だよ?」
俺はただ、ゲームやってるだけじゃね?って思ってしまった。
「その顔は、ただゲームしてるだけじゃん!って思ってるだろう?。」
ズバリ言い当てられた。
「チッチッチ!。これも立派な仕事さ!。次の新型の為のデータ取りだからね。後は今後のアンケートなどを考慮したりして次の機体を作るのさ!。」
「そう言うことだったんですね。疑ってすいません。」
「えっ!?あ、いや、そんな、素直に謝られるとちょーしが…。」
何故かもぞもぞしているナギさん。
ふと、広場から伸びる時計台を見る。ログインしてから30分以上経っていた。
雄星は良いとして、まり子をこれ以上待たせると面倒になる。
「すいません!俺人を待たせてるんで行きますね!」
「あっ!?ま、マイスターくん!」
すいません!マジでまり子は厄介なんですよ!。
天然のトラブルメーカーが起こすトラブルは洒落にならない。
「くっそ!事前に待ち合わせ場所決めておけば良かった!」
ひたすら町の中を駆けずり回るが、一向に見つからない。
まさか、と思いまだ行ってなかった町の入り口にやって来ると2人の人影があった。
「遅いなぁ〜、お兄ちゃん。」
「ホントだなぁ〜。まだ町の中にいると思うんだけどな…。」
「わ、悪い!遅くなった!。」
俺は息を切らせながら2人に到着を告げる。
「おお!やっと来たか〜!。」
「むぅ〜、遅いよぉお兄ちゃん!」
「すまん!。町で色んな人と出会ってな!。」
遅くなった言い訳を一先ずする。調合師のカナンさんや細工師のマイケルさんたちの事を言う。
「へぇ〜!早速エンジョイしてんじゃん!。で?その子誰よ?」
雄星が俺の後ろを指差しながらニヤニヤしていた。
振り返るとナギさんがゼェゼェと息を切らせ、半泣き状態で後ろにいた。
「え?ナギさん?」
「ゼェ、ゼェ、げふっ!?。え?じゃないぞ、マイスター、くん!待っで、ぐれでも、良いじゃ無いか!」
最早虫の息だった。
とてもじゃないが、自分で自己紹介ができる様子では無いので代わりに紹介する。
「こちらはマストの代表、榊原 海凪さんだ。エクシリア・ホープスではナギという名前らしい。」
「えっ!?こんな子どもが!?」
雄星がそう口にした瞬間、ものすごい速さで頭を叩かれていた。
それはもう良い音で、スパァァン!!と。
「いってぇぇぇ!」
「雄星さん、それは自業自得だよ。」
「全く同感だな。」
俺たち兄妹が雄星を責める。当たり前だ、女性に対してそんな失礼な事言うからだ。
まぁ、俺も最初はそう思ったが…。口には出していないからな。
「それで、どうしたんですか?」
「う、うん、良かったら、フレンドに、ならないか?」
「はぁ、良いですけど。」
「本当か!」
物凄く良い笑顔で返してくる。フレンドになるだけ、だよな?。
「は、初の、フレンドだぁ。」
これは聞かなかった事にしよう。
「あ、私もナギさんとフレンドになりた〜い」
「お、俺も俺も!」
まり子と雄星が立候補するも、雄星の時は物凄く嫌そうな顔をしていたナギさんだった。
なんだかんだでフレンド登録するナギさんだったが。
「そう言えば、ナギさんもリアルモジュールっスか?」
「ん?そうだが?。」
「それに、リアルモジュール以外だったらまだクリエイトしてるんじゃないか?。」
あの膨大なメイキング材料は異常だったからな。
最早ドン引きレベルにバリエーションがあり過ぎて、何処から手をつけて良いか分からないくらいだった。ぶっちゃけ、面倒だったの一言に尽きる。
そもそも操作が不慣れなのにあんなクリエイトは無理だ。よって俺の場合はリアルモジュール一択な訳だが。
「そう言えば、ステータスってどうやって表示するんだ?」
「ステは頭で考えるだけで表示されるぜ!」
成る程、言われるままステータス!と念じてみる。
〈セツナ〉
HP30
MP10
力18
守10
速11
技10
知11
〈装備〉
武器 ロングソード
防具 冒険者の服 〈上下〉
冒険者の靴
装飾 なし
おぉ!これは凄い。後はレベルアップ後にどんなスキルを取るかによるんだろうが…。
正直戦闘もいいんだが、生産職をやってみたい気もある。どんな生産職にするかは決めていないが…。
「凄いな、本当に出たぞ。ステータス。」
「人によってステはバラバラだから、そこも良いんだよな〜!」
俺は、雄星の言葉をそこそこに聞き流し、今後どんな風にステータスを振っていくか考えるのだった。