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エクシリア・ホープス  作者: アギト
2/5

2話 Welcome to the World

「セッちゃん、今どんな気持ち?ねぇ、どんな気持ち?」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら感想を求めて来る男、志渡 雄星という悪友がいる。

 そして俺の手には、先ほど家に届いた懸賞のXeno Sofiaがあった。


「気持ち悪い顔を向けるな。発売日前日に届く懸賞ってなんだよ、意味わかんねぇよ!」

「そこはほら、販売元メーカーだから!。」


 それにしても、だろうが。

 懸賞に当たるのは良いことだ、ましてや新型VR機器だ。申し分ない事は勿論だ。しかし、しかしだ、発売日前日に届く事が問題だろう。


「流石にいかんだろう…。」

「いいなぁ、お兄ちゃん。」

「刹那、手紙が添えてあるみたいだけど、読んだ?。」

「そんな訳がないだろう…。言われて存在に気付いたわ!」


 何やらダンボールの中には商品と一緒に手紙が入っていた様だ。


「何やら嫌な予感しかしないのだが、雄星よどう思う?」

「奇遇だね、セッちゃん。俺もそう思うよ。」


 表面は白地だが、裏にマストコーポレーションのロゴが入っており封がされている。

 無言で封を切り、中の手紙を読み始める。


『突然の事で驚いただろう、私はマストコーポレーションの代表の榊原さかきばら 海凪かいなと言う。

 あまり知られてはいないが、これでも女だよ。

 さて、きちんと発売日前日に届いているかな?届いていなかったらその運送会社に苦情を出すところだけれどね?。

 今回の懸賞なんだが、フリースペースの場所に君がウチの商品を使用した事がないとあるじゃないか。

 これはいけないと言う話題が社内で上がってね?

 ゆえに今回、このゼノシリーズであるXeno Sofiaを贈らせてたよ。是非ともこれを使ってVRを堪能してほしい。

 きっと気にいるよ。使用後の感想などがあれば、私直通のダイレクトチャットできる様に連絡先をプリインストールされているからね?

 では、連絡を楽しみにしているよ。マイスターくん♪


                      海凪より』


 何なんだ、この手紙は…。それと、マイスターってなんだ、マイスターって…。


「どしたの、セッちゃん?」

「お兄ちゃん?」

「…読むか?」

「「いいの?」」

「…あぁ。」


 2人は手紙を俺から受け取り、読み始める。次第に肩を震わせ始め、雄星は遂に堪え切れなくなり爆笑した。

 終始マイスターで笑っていた。それもこっちを見て…。

 それ以上笑うと駆逐するぞ。


「ぶふっ、それにしても、この代表、凄いな!いろんな意味で!」

「ぶっ飛びすぎだろう。」

「こ、個性的だよね。」


 すまん、まり子、お前に言われたら流石に榊原代表が可哀想だろう…。


「初期設定やっとく?」

「どれくらい掛かるんだ?」

「流石にわかんね。従来のヤツだったら2、3分だったけど。」

「仕様書みたけど、2、3秒みたいだよ?」


 技術の進歩か。凄いな、2、3秒で初期設定が終わるとは。

 とはいえ、俺はVR機器なんか触ったこともないけどな!。


「それにしても楽しみだな〜、刹那とVRゲームとは!」

「それは、まぁ。俺も雄星とゲームなんて久しぶりだし、実際楽しみだよ。」


 これは本音だ。そもそもVRゲーム初体験ってのも相乗効果があるかも知れない。思いの外、ワクワクしている様だ。


「あはは、そかそか。それなら良かったよ!」


 雄星はニカッと笑いながらそう返す。何とも楽しい奴だ。


「それよりも、いよいよ明日な訳だが。」

「楽しみだよなぁ!エクシリア・ホープス!」


 ”エクシリア・ホープス”


 それが俺たちがプレイするVRゲームの名前だった。




◇◇◇◇◇     ◇◇◇◇◇



 翌日、遂にエクシリア・ホープスの正式サービス開始日だ。

 朝早くからまり子と一緒に予約していたらしいXeno Sofiaを受け取り、家で初期設定のスキャンを共に終わらせる。


「すごいね!速いね!」

「あぁ、まさかここまでとは思わなかったな。」


 俺が落ち着いているように見えるだろうが、それは違う。余りの速さに俺は信じられないと思った。確かに取扱い説明書には”初期設定時間の目安”が記載されているが、あくまでそれは目安だ。


「人の技術の進歩は凄いな…。」

「これなら本当に異世界に行けるかもね!」


 何を馬鹿な、とは言えない。

 それ程の技術の進歩を垣間見てしまった故に、その言葉を俺は飲み込んだ。


「よ、よし。エクシリア・ホープスをインストールしよう。」

「うんうん、しよーう!」


 少し声が裏返ったが、俺は構わずエクシリア・ホープスをインストールさせる。

 こんな凄い機器を使ってゲームをやろうって言うんだ、きっと想像を遥かに超える筈だ。


ーー楽しみでしょうがない。


 インストールが終わり、これで何時でもプレイ出来る状態だ。


「まり子、インストールは終わったか?」

「うん!バッチリだよ!」


 どうやらまり子も準備万端の様だ。


「じゃあ、始めるぞ!」


 俺たちは期待と不安を胸に抱き、Xeno Sofiaを装着しエクシリア・ホープスを起動させ目を閉じる。

 俺の意識はそこで一旦途切れたのだった。


 目を開けるとそこは真っ白な空間だった。


「ようこそいらっしゃいました!エクシリア・ホープスの世界へようこそ!」


 背後から物凄い音量で声がした。

 耳を劈く様なキャンキャン声だった。耳が痛い。


「な、なんだ?」

「ようこそ!いらっしゃい!ました!」

「だあぁぁ、うるさいよ!。」

「むぅ、うるさいとは失敬ですね!」


 何にしてもこの音量、どうにかならないのかよ…。


「すまないが、音量を落としてくれないか?。さっきから耳が痛いんだ。」

「しょうがないですね!。……しょーがないですねぇ、これくらいで良いっすか?」


 何だこの投げやり感は…。や、ヤバい、こいつ久々にムカつくキャラしてやがる。


「まったくこれだからマイスターは…。」

「すまんが悪態ついてないで、説明してくれ。」


 先に進まねぇ、これはいかんだろう。そう思って話の腰をバッキリと折ってしまう。


「チッ、私の唯一の楽しみがッ!!」

「おい、駆逐するぞ。」


 冷めた視線を送ると、ビクリとその小さな身体を震わせ頬を上気させ息が荒くなっていた。

 時折「もっと!もっと!」などと怪しい言葉を発していたので、叩き落して正気に戻す。


「こ、コッホン!。先程は失礼しました。忘れてください。」

「いや、無理だろ。あんなキモいの忘れられるわけねぇだろ。おぞましい。」

「つくづく!あなたは私の琴線に触れますね!。良いですよもっと!もっと言いなさい!」

「うっさいわ!」

「あふん。」


 埒があかないので、少し修正してやりましたよ。


「ずびばぜん、でば、しぇつめいさせていばばきます。」


 コポン、という音と共にボコボコだった顔が元に戻る。


「では、改めて説明いたします。ここでは、キャラクタークリエイト、通称キャラクリをしていただきます。一から作ってもよし!リアルモジュールを使っても良し!です。ここまでで質問は?」

「リアルモジュールって言うと、初期設定の時のスキャンデータを使うって事か?」

「そうですね。スキャニングした使用登録者と現在使用中の方が同一かどうか一度スキャンしてからになりますが、まぁ1秒程かかりますよ。スキャン結果に問題なければ使用できます。」

「では一から作るとどれ位かかる?」


 そう、一から作る場合だ。


「それですと、設定が細かすぎる為凡そ丸2日は最低でもかかるかと思います。」


 最早論外としか言いようがないな。キャラクタークリエイトにそんな時間を掛けられるか。

 そんな訳で、リアルモジュール一択だ。


「リアルモジュールで頼む。」

「かしこまりぃ〜!」


 さっき言っていた通り、リアルモジュールだと簡単に終わりそうだった。


「変更点などごさいますか?」

「変更点?。」


 リアルモジュールを使用したんだ、変更点なんか作ってどうするんだ?。


「一部変更ならパパッとできますよ?」

「例えば?」

「エルフ耳ですとか、獣人みたいな耳とか、鬼の角付けるとか…。」

「ないな。」


 一考する間もなく答える。


「では以上で宜しいですか?」

「あと一つ。」

「何でしょう?」

「お前の名前は?」

「おっと、自己紹介してませんでしたか!。私はナビゲーターのシリアです!。」

「シリアか、ありがとうな。俺は、セツナだ。」


 俺は、プレイヤー名を答える。

 シリアに伝える事により、プレイヤー名登録が完了する。


 そして、眩い光が溢れる中シリアの口が僅かに動いた。その言葉は俺の頭に直接響く様な感じで聞こえた。



ーーWelcome to the world,刹那。


 そして俺は、溢れる光に呑まれたのだった。

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