第5話 路地裏
「やあやあ、君たち。どうしたんだい?」
そう言って3人に使づいてきたのは、深い堀を持つなんともいかつい中年の男性だった。クリラはその風貌を見て怖くなりリュウの頭に強くしがみつく。その反応を見てレイカは男とリュウとの間を遮るように間に動く。
「何か御用でしょうか。」
レイカが聞き返す。男は張り付けたような笑みを見せレイカと向き合い口を開く。
「察するにその少女は迷子じゃないかい?私はこの王都に住まう商人だ。実は先ほど娘とはぐれてしまったという親御さんに会ってね。娘さんを探す手伝いを頼まれたんだよ。親御さんは娘さんが路地に入って行ってしまったんではないかとそっちの路地に入っていったよ。たぶんこの先にいるだろう。私が知っている限りこの先の路地を案内しよう。」
レイカは鋭くその男を睨んだ。リュウは男を半信半疑な面持ちで顔をうかがう。そして厳しい顔をしているレイカを見てどうするかと問うような眼を向けた。レイカはリュウの方を見ると厳しい顔のままうなずいた。
「分かりました。案内お願いできますか?」
「こっちですよ。」
男はにんまりと怪しげな顔で笑い通りから続く小さな路地へと体を向け進んでいった。
「お母さんと会えるの?」
「分からないけど、お母さんいるといいね。」
「うん。早く会いたいな。」
「そうだね」
喜色満面でクリラが問いかける。それにリュウが答える。そして男について歩きだす。そんな二人にレイカが厳しい顔のままリュウの隣に並び非常に小さな声でリュウに言った。
「気を付けてください。たぶん母親はいるけど嘘をついています。」
「嘘…? 何か企んでるってことですか? 確かにとてもじゃないがいい人間には見えませんが。」
「ええ。よからぬことを企んでいるのでしょう。下手をしたら戦闘になります。あなた戦うことはできますか?」
戦闘という言葉を聞いてリュウは驚きそのあとすぐに険しくなる。そしてうなずいた。
「霊石は持っています。心がけておきます。」
レイカもそれを聞いてうなずいた。そして会話は終わり二人は前の男を注意深く見ながらついていく。クリラは薄暗い路地で不安になったのかリュウの頭にしがみついている。男は後ろの様子を気にする風もなく少し速足で1本道の路地を進む。不安がるクリラをリュウは肩から降ろし体の前で抱いた。しばらく進んだのち男が右に曲がりまた歩みを進める。周りの家によって陽が遮られ暗く周りにはごみが散乱しじめじめしているような道になる。そして今度は左に曲がる。
「こちらですよ。」
笑みを浮かべそういうと先へ進み体が見えなくなる。3人がその角にさしかかり曲がろうとしたとき突然の殺気が角から放たれた。そして黒いナイフがレイカの首筋めがけて振るわれる。ナイフを認識するや否やレイカとリュウは瞬時に後退しその凶刃を避ける。角からさっきの男ともう一人の恰幅のいい男が現れる。そして同時に後ろの曲がり角からもナイフを持った二人の男が姿を現し3人に襲い掛かる。クリラは怖がってリュウの体に顔をうずめた。
「リュウさん。クリラさんを頼みます。」
「クリラちゃん、しっかりつかまっててね。」
そういうとレイカは前に手を伸ばす。そこには青白い光があふれ出る。
「風壁」
3人の周りで渦を巻くように風が巻き起こる。そして4人が放つ刃の侵入を防いだ。
「くそっ、こいつやはり霊術師か。おいてめぇら!この壁を壊すぞ。」
「おぉ!」
案内した男が叫ぶとほかの男たちも答える。そして全員が青白い光を発し始める。
「拡散!」
レイカが前に手を出したまま再度霊術を行使する。3人の周りで渦を巻いていた風が広がっていき、男たちへ向かう。
ドゴォと大きな音が鳴り男たちが吹っ飛ばされた。
「ぐおっ!?く、くそこのアマぁ!」
すぐに立ち上がり術の行使を続けようとする。そこにレイカが前方の男めがけて走り寄り拳を繰り出す。
「風掌」
風をまとった一撃が案内役の男の鳩尾に直撃した。男はさらに吹っ飛び壁に激突した。そしてそのまま倒れこんで動かない。レイカはさらに流れるような動きで隣の男にもこぶしを見舞う。男は一撃目はよけるものの態勢を崩す。その隙を見逃さずすぐさま追撃のこぶしを男のあごに向かって振るう。直撃した男は派手な音を立てて壁に激突する。
「くそっ。この野郎!雷電!」
後ろの男二人が手を上に掲げそこに黄色の光が現出する。そしてリュウに向って電撃をお見舞いする。その声を聞きレイカが焦った様子で振り向き霊術を行使しようとする。
『間に合わない!』
その瞬間後ろの男たちと相対していたリュウの体がぶれたと思うとその場から消えた。目標を失った雷撃はリュウがいた足元に着弾しドドンと派手な音がなる。二人は消えたリュウを探してあたりを見回す。すると男たちの真上から声が聞こえてきた。
「水弾」
大きな水塊が男たちの頭に当たる。その圧力で男たちが地面に倒れこむ。リュウはクリラを抱いたまま男たちの後ろに悠々と降り立つ。しかし男たちはすぐさま立ち上がりリュウに体を向けた。この隙を逃さずレイカが後ろから右の男の脇腹に思いっきり蹴りを叩き込む。残る男は鬼のような形相になり体に先ほど以上の光が漏れだす。
「くそが!放電!」
残る男がそう叫ぶと男の周りが黄色く光り、バチバチと音を立て始める。
『放電は自分の周り全体に電撃を浴びせる術。ならば!』
「風壁」
今度は男の周りを風の壁が取り囲む。放出された電気はその壁を沿って上へ向かい建物を超えてバチィと花火のように打ち上げられた。
「風弾」
レイカの周りにいくつもの空気の球が形成される。風の壁が消えるのと同時にその球が打ち出され男を狙う。
「くそっ。雷・・・」
男が霊術を完成させる前に球が直撃し男はそのまま地面に沈んだ。4人の男たちが路地でうずくまっている。
「これで終わりですかね。」
レイカは一人問うように口を開いた。