第4話 試験後
試験の1日目が終わった。空は日が傾き夕暮れとなっていた。白髪の少女は王都の学園近くの通りを歩いていた。試験が終わった後一度泊まっている宿泊施設に戻ったが時間を持て余してしまった。そこまでお腹が減っているわけではないので夕食はもう少し後でいいと考え食事をする場所を探すついでに王都を散策することに決めた。宿は学院の近くにある受験生が多く泊まる安宿だったのでこれから通うことになるかもしれない学園の周りの様子を知ろうと考え外へ出た。
こうして寒空の下少女はゆっくりと歩いている。やはり周りの人はその物珍しい容姿に好奇の視線をぶつけていたが少女は無視して歩き続けていた。その時ふと少女の泣き声がした。その音源の方を見ると5歳くらいの少女が泣いていた。しかしその周りには親らしき大人が見当たらず、他の人たちも少女を気にも留めないように通りを行き来していた。その様子をあんまりだと感じた白髪の少女はその子供に近づいてゆく。
「「大丈夫?」」
少女にかける声が偶然別の人とも重なった。驚いてその人の方を見ると今日隣に座ったあの黒髪の少年だった。少年も驚いた顔をしていたがそうじゃないと考えなおして小さな少女にかがんで向かい合う。白髪の少女も目線が合うように近づいてしゃがむ。少女は少し驚いたような顔をした。そして少年の方を見るとその黒髪か眼帯かが怖かったのかまた泣きそうな顔になってしまう。しかし少年がにっこりと優しい笑顔を見せると泣き出すことはなかった。少年が優しい声音で問いかける。
「一人になっちゃったのかな?お母さん、お父さんとはぐれちゃったの?」
その声は慈愛に満ちていてとても落ち着くものだった。少女は怖くなくなったのかうんとうなずいた。
「お母さんどっか行っちゃった。」
とても心細そうな声で少女が訴えた。
「一緒にお母さん探そうか?」
白髪の少女はできる限り優しい声で問いかけた。少女は安心したのか少し笑顔になってうなずいた。少年と少女は一度目を合わせるとうなずき合った。
「お母さんに会いたい。」
「じゃあ、探そうか。どんな洋服着てたかな?」
「赤い服で長い髪。」
少年が問うとそう答える。
「赤い服か…今この周りにもたくさんいるわね。どこでお母さんと別れちゃったかわかる?」
「わかんない。おもちゃ見てたらお母さんいなくなっちゃった。」
そう言って少女は少し離れたおもちゃ屋さんを指さす。
「そっか… じゃあ、俺が肩車してあげる。そこからお母さんを探してみようか。」
「うん。」
そういうと少年は少女をひょいと持ち上げて肩車する。少女は肩車されて少し楽しかったらしくキャッキャッと喜んでいる。そうすると少年が少女の方を見て問うた。
「さてどちらに行くべきですかね。」
「そうね。正直私は王都に来ることはあまりないからどこに何があるか分からないです。」
「俺もです。」
「ともかく迷子なんかを扱ってくれる騎士の詰め所に行きましょう。」
「そうですね。」
◆ ◆ ◆
王都は非常に広い都市であるが、住人の安全を守るためにいたるところに騎士の詰め所がある。ここで言う騎士とはリーズリュート国軍によって任命された軍人のことである。主な仕事は国内の治安維持であり、犯罪者の捕縛や事件の捜査などである。霊術が使用できるかは問われないが喧嘩事を鎮めるのにはどうしても腕力が必要なので霊術師も少なからずこの任に就いている。この仕事の一環で迷子の保護などを行っている。なぜならこの広く人の多い王都で迷子になると親などと会うのは何の手助けなしだと難しい。また迷子が事件に巻き込まれる可能性もあるためである。
◆ ◆ ◆
「そういえば学院からまっすぐ伸びた道の先に詰め所がありましたね。ここからそう遠くないはずです。そこに行きましょう。」
「そうね。」
「お嬢ちゃん、お母さん見つけたら教えてね。」
「うん!」
肩車がだいぶ気に入ったのか楽しそうな声で少女が答える。そうして3人は学院の通りへと向かって歩いていく。黒髪の少年と白髪の少女は周りをよく見ながら進んでいく。ふと少女が言った。
「お兄ちゃんの髪の毛面白いね。真っ黒だ。」
「そうだよ~。お父さんとお母さんも黒色だったんだよ。珍しいかい?」
「うん。初めて見た!お姉ちゃんの真っ白の髪も初めて見た!すっごくきれい!」
「そうね。白髪も珍しいわね。ありがとう。」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんなんていう名前なの?」
ふとそんなことを聞く。そう言えばお互い名前も知らなかったなと少女は思った。
「私の名前はレイカ・フォン・クウォルトルーラっていうのよ。」
その名前を聞くと少年は驚いたような顔をした。
「どうして驚くの?」
「いや、貴族の方がこんな通りにいることに驚いて…。貴族だとは全く思わなくて。」
リーズリュートにおいて名前にミドルネームがあることは、貴族の証であった。
「偏見ですね。貴族なんて人それぞれですよ。」
「それもそうですね。すいません。」
「じゃあ、レイカお姉ちゃんだ。」
「ええそうね。」
にっこりとレイカは笑う。
「俺はリュウ・アルメリアだ。リュウお兄ちゃんとでも呼んでくれ。」
「うん、リュウお兄ちゃん。」
リュウが名乗ったときレイカにはかすかな違和感が生まれた。
『この感覚…。彼は嘘をついている? 彼は偽名を使っているの?』
レイカは少しリュウを警戒した。そんな気も知らずにリュウは少女に問いかける。
「お嬢ちゃんの名前は?」
「クリラ! クリラ・ガルニータ!」
「クリラちゃんか。いい名前だね。」
「うん!」
和気あいあいと話す少年と肩車された少女、そしてそれを観察する少女。そんな少し奇妙な光景が出来上がっているとき通りから1人の男が近づいてきた。