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プロローグ
漆黒の刃 月白の剣
どうぞお楽しみください
彼らはは絶望していた。今まで幸せに暮らしてきた世界が壊れていくのをひしひしと感じながら。
その眼には煌々と燃える炎が反射し、その耳には人の怨嗟、狂喜、悲哀の声、家々が崩れ去る音が響き、その鼻には生物の焼けこげる吐き気を催すような臭いが充満し、その肌には熱風が押し寄せ、口の中には苦い土の味と鉄のような血の味が混じる。その災禍に吞まれないように彼らはただ体を小さくし息をひそめ厄災が終わるのを待つしかなかった。
彼らは己を悔やんだ。己の無力さを、己の無知を。
彼らは敵を恨んだ。その苛烈さを、その卑劣さを。
彼らは強く憎んだ。幸せを奪った者たちすべてを。
彼らは誓った。この惨劇をもたらした者たちすべてに絶望を与えることを。
このときこの世に鬼が生まれた。
この絶望を晴らすためにただひたすらに歩き続ける。その眼には復讐の炎が燃え盛り、その心には一つの意思が疼き、その背には愛した者たちの憧憬を乗せ自らの決めた道を歩き続ける。その道の先に光が見えずとも。