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ギルドメンバー狩り

 俺は屋敷の廊下から外を眺めている。差し込む眩い朝日に目を細め、見下ろす城下町は広大だ。身分に見合わないこの屋敷に住むことが出来ているのは、元を辿れば些細なことからだった。この国の王女様を庇って、それから、国王も居たな……あの時はまだ。


 昔を懐かしんでいた、俺の背後から廊下を踏みしめる音が聞こえる。振り向いて、少し視線を落とす。そこに居たのはちょうど思い浮かべていた相手、この国の王女、エレナだ。いや違うな、今は……


「おはようございます。エレナ……女王様」


 ……エレナの父、レオムント国王が逝去されて既に半年。その実子である彼女には他の選択肢などなかった。


「どうしたのですか? いつも通りエレナとお呼び下さい」


 微笑みながら俺の冗談を受け止める。未だに気苦労は絶えないだろうが、突然の即位となった当初は哀しみに暮れながらも前に進もうとする彼女のために、微力ながら俺も尽力した。


 屋敷が少し広くなったように感じるのは、葬儀の日を最後に、アイヴィスとクライスも、自国のウォルダムへと帰国することになったからだろう。この屋敷へ付いて来る時にアイヴィスはかなり無茶を言っていたが、別れの時はすんなりと身を引いた。それも当然のことだ。両親が健在の彼女が、エレナに掛けられる言葉などないのだから。


「そうだった。二人だけの時はそう呼ぶって約束だったよな」


 俺はわざとらしく肩を竦める。


「最近あんまり部屋からも出てないみたいだけど忙しいのか?」


「そうですね。少し……ですが、心配に及ぶほどではありません」


 そんな言葉はとても鵜呑みに出来ない。彼女が苦労を表に出すことなどありはしないのだから。


「あんまり無理するなよ。俺に出来ることなら何でもするからいつでも言ってくれ」


「お気持ちだけで十分です。ワタルは優しいのですね」


 彼女のために力になりたい。それはこの屋敷で世話になっているからという理由だけじゃない。自分よりも人を大切にする、いや、してしまう彼女だからこそ支えてあげたいと思う。



 結局、その場で何か頼まれるということはなく、俺はいつも通りギルドへと足を運んでいた。


 そこで目を引いたのは、普段、一階にいないはずのギルドマスターの姿だった。


「珍しいな、どうかしたのか?」


 受付嬢と話をしていた彼女は、俺の声に少し体を翻すと、その手には何枚かの紙が握られている。


「ワタル君。いや、どうということでもないんだけどね。上がって来た報告書で少し気になるところがあったから確認しに来たんだ」


「へえ、どんな?」


 珍しいことだけに興味はある。


「ギルドメンバーの何人かが路地で揉め事を起こして怪我をしてるんだ」


「怪我? 派手に喧嘩でもしたのか?」


 その程度の話ならわざわざギルドマスターが出張る必要もない気がする。が、彼女の表情はどうにも腑に落ちない。


「それが……揉め事を起こした本人に聞いても『分からない』と言うんだ」


「分からないって……自分で揉め事を起こしたって言ってるのにか?」


「そうなんだ。路地で誰かに絡まれて武器を交える喧嘩になったのは覚えているらしいんだけど、肝心の相手のことを覚えていないって言うんだ」


 喧嘩をするまでは覚えているのにそこから覚えていない……? その上で怪我を負った……なるほど、それは確かに気になるのも分かる。


「と言っても、ギルドメンバーとして活動できなくなる程の怪我ではないし、自分でも喧嘩になったと言っているんだからそこまで深刻でもないんだけどね。次からは無闇に絡まないように言っておいたから」


 気にはなっているようだが、本人も言っているようにそれほど深刻には考えていないようだ。俺もそれを聞いて、小さな疑問が残りはしたが、話を終えてクエストに行く頃には、そんな話をしたことすら忘れていた。



 そして、再びそれを思い出したのはそれから数日も経っていない日のことだった。


 同様の事案が起こり、話は楽観できるものではなくなった。今回も全く同じで、ギルドメンバーが誰かと敵対したことまでは覚えているがそこから先は覚えておらず、怪我を負った。しかも、今回のそれは生活に支障をきたす程の大怪我だったらしい。


 こんなことがあって、ギルドマスターが黙っていられるわけがない。警戒を呼び掛けるとともに、犯人の情報を集めるよう緊急の依頼も出された。


 だが、それを嘲笑うかのように、被害は増え続けた。相手は想定していたよりも遥かに戦闘能力が高く、二人どころか三人で行動していたギルドメンバーですら太刀打ちできないこともしばしばだった。にも関わらずその外見は何ら掴むことが出来ずにいる。顔を隠すこともなく、この犯人が街を闊歩していると思うと背筋が寒くなる。



 ギルドの中には重く暗い空気が流れていた。”ギルドメンバー狩り”と称された犯人は未だに足取りを掴めず、その上で一人、また一人とギルドメンバーが襲われていくのだから無理もない。


 今のところ、運良く俺の仲間は被害にあっていないがこれ以上は退っ引きならない状況だ。かと言って、探す手がかりもないのでどうしようもないのがもどかしい。


「……どうにかして捕まえられないかな」


 自然と口を突いた言葉だった。


「私もどうにかしたいですが、情報が少なすぎますよ」


「せめて顔が分かればやりようもあると思うのだがな」


 こんな会話をするのも何度目だろう。結局は解決に向かわないままだ。だが、一つ気になっていることがある。それは


「それにしても、どうして俺達のパーティは誰も狙われないんだろうな?」


「それは私も気になっていましたよ。他のパーティはその中の誰か一人くらいは被害にあっているのに、不思議ですよ」


「これだけ無差別なんだ。あえて避けているということもないだろう。これからも十分に気を付けた方がいい」


 自分で言うのもなんだが、この犯人はあえて力の弱い相手を狙っている節がある気がする。というのも、フルストラは襲われていないし、ランクが上のギルドメンバーも同様だからだ。


 俺も、多少の武器の扱いだろうが、魔法を使おうが、神器を使われてさえ、負けない自信はある。だからギルドと屋敷を一緒に往復しているレアも襲われない。そして、サリアとメイルも二人で家まで帰っているので狙われないんじゃないだろうか? この二人を同時に相手するのは、一介の神器使い程度では無理だろう。


 そんな驕りの心が、徐々に警戒を薄くしていった。

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