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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

平常運転

作者: 神宮

2015年に高校で作られた冊子に載せるために書いたものです。

特に加筆修正はしてません。

 第三次世界恐慌が八年前か九年前。日本でも大量の失業者が出て、それに比例し自殺者も出る。多くの家庭で子供だけが取り残された。

 その子供等は孤児院に引き取られる事となったが、孤児院には黒い噂も多かった。例えばロクに食事も与えられず暴力も当たり前だの、子供を国外に売っているだの。

 そして、動きがあったのが一年前。成長した一部の孤児が孤児院より逃げ出す。その後おそらく逃げた孤児であろう複数人により孤児院への暴動、破壊。それによりほとんどの孤児が孤児院から逃げ出すことになる。しかし身寄りのない子供。勉強もさせられず、当時生まれてすぐの子供はまだ八歳程度である。大半の子供は街で人知れず死んでゆくのだった。


 近所の駅前商店街。ここにも世界恐慌の爪痕が残り、シャッター街と化している。

 まあ、しかし町の主要な建物や店もあるため人通りは多い。

 そんな中で少女とぶつかる。見た目は十歳程度。異様に痩せている。孤児だということはすぐに分かった。

「あ、ごめんね」

 俺は言って去ろうとしたのだが。服を引っ張られる。あまりにも弱弱しく。

「えっと、ぶつかりました」

 少女が言う。

「え、ああそうだね。ごめんね、痛かった?」

「はい。痛かったです。えっと、右腕が折れました。どうしてくれるんですか」

 少女は棒読みで言った。しかも、俺の服を掴んでいるのが右手だという残念感つきで。

 ああ、そういう事か、逃げ出した孤児は生き延びるためにスリや万引き、挙句の果てには体を売ることもある。この少女は……。なんだこれ、カツアゲか? いや、なににしてもこの少女が絶望的にそういった行為が下手なことには違いない。

「ちょっと、聞いてますか? このままだと私、痛くて死んじゃうかもしれないですー」

 えっ?

「あー、あと死ぬ時は大声上げちゃうかもしれないですねー」

「ちょっと待った、それじゃ俺、どうすればいいのかな?」

 少女の思惑通り動くのも癪だが、ここでロリコン犯罪者のレッテルを張られるのはまずい。

「甘いもの好きですか?」

「へ? 甘いもの?」

「私、甘いものを食べると骨折とか治るんで」

「それは、すごい体質だね」

 まあそこらのコンビニでお菓子でも買えば済みそうだ。よかったロリコン犯罪者に比べれば安いものだ。

「あれ」

 少女が右手で指をさす。先にはちょっとお高めのファミレス。

「ちょっと待て」

「あ、いたたたた、右手が、死ぬ。今すぐ死ぬ」

 まあロリコンに比べれば、うん、安いと思いたい。

 そして少女の思惑通りファミレスへ。昼間のパートウェイトレスの視線が痛い。どうか年の離れた兄弟とでも思ってくれないだろうか。

 席につき二つあったメニューの一つをデザートのページにして少女に渡す。ついでに俺も昼食にするか。

 にしてもやはり少し高いものだ。だいたいドリンクバーがないファミレスはファミレスといえるのか。ワンドリンクで二五〇円。

 ……やめた。俺は後で適当に食うか。

「ぜんぶ!」

 俺の考えを知ってか知らずか、少女は俺の財布に対してずいぶんとサディスティックなことを言い出す。さよなら樋口一葉。

 しかしまあ、ロリコンに比べれば……高えな。

 そして運ばれてくる大量の甘い泡とカカオの固形物、味付きゼラチン。俺でも食べきれないだろう量だ。

 少女はスプーンを右手に握りパフェのクリームを大きく取り小さい口いっぱいに詰めた。

 途端、小さく嘔吐。

「ちょっ、大丈夫?」

 少女は苦笑い。長い間何も食べていなかったのか、体が受け付けないようだった。

 なんとなく俺はテレビくらいでしか見たことのない孤児の闇の深さをあらためて見た気がした。

 この後少女が俺と別れたら、少女は次、いつ食事を取れるのか。なんて思うと――

「君、孤児でしょ」

 言ってしまった。この社会で孤児というものは治安を悪くする要因であったりするため、孤児だと気付いてしまえば、警察か孤児院に通報するのが暗黙の了解である。

 少女は瞳孔を開き、声にならない言葉を発していた。

 孤児を警察、孤児院に戻せばまた差別、暴力の世界に戻ることになるだろう。少女はそれに怯えているようだった。

 だから俺は急いで言葉を続けた。

「落ち着いて、君を孤児院に帰したりしない。このまま君がこの町で死んでしまわないか心配なんだ。だから」

 だから、だからなんだろう。少女を救うためにはどうすればいいのか。

「えっと、俺の家に来ないか?」

 考える前に言っていた。少女は状況が把握できないようだったが、しばらくすると目に涙を浮かべ。

「ちょっと分からないです」

 声だけは冷静にして言った。

「俺と一緒に住もう。絶対に君に辛い思いはさせないから」

 少女の手を取り、もう一度言うと、少女はただ涙を流した。


 日が沈みかけ、シャッター街を赤く染める。

 結局、少女はそのあとも食事が喉を通らず、俺がほとんど食べる羽目になった。それでも半分ほどは残したのだが。

 少女は俺の手首を必死に掴み歩く。

「あの……、さっきの分、全然足りないですけど……」

 少女はポケットから薄汚れた小銭を出した。

「いや、それは君のお金だから、君が大事に使ってよ」

「え、でも」

「大丈夫だよ」

 なんて言って頭を撫でつつ歩みを進めた。

 夕日が目に痛い中で俺の家が見えてくる。とはいってもアパートなので俺の、とは言えないが。

 錆びたドアが啼く。それと同時に少女も泣いた。

「……入っていいんですか?」

「いいよ。汚いけどね」

 なんてお約束の言葉を言ってみたり。

 少女が部屋に入る。一歩、二歩と歩いて。

 俺は玄関に置いてあった金属バットを手に取る。少女が振り向く。

「本当にありが……」

 思い切り殴りかかる。少女は笑った表情のまま倒れて痙攣。それを鎮めるように何度も殴りかかる。顔、肩、腕、背中、足、顔、顔、顔……。

 綿の出た人形のようになった少女を体育座りの形で縛り、口だか痣だかわからない所にガムテープを貼った。キャリーバックに少女を無理やり詰め込み、玄関に置いておく。

 俺は、血のついたバットを洗い、床を拭いた。キャリーバックに手をかけ家を出る。

 近所の奥様に会釈をして、さっき歩いた道を遡る。シャッター街は暗さを増す。大量のデザートが廃棄されただろうファミレスの前を通り、住宅街。そして着く。小さく寂れた孤児院。


 カメラ付きのインターホンを押し会釈。数秒するとスーツ姿の男が顔を見せた。

「おお、どうもお疲れ様です」

 腰を低くして男は言った。そのまま安っぽい応接室に通される。近くの部屋で子供の泣き声と語彙力の乏しい罵声が聞こえた。

「では、お預かりします。少々お待ちください」

 ドアが閉まり、キャリーバックの軽いタイヤの音が廊下に響いた。

 数分。

 空になったキャリーバックと厚く膨らんだ封筒を持って男が戻った。

「はい、確かに確認できました。毎度ありがとうございます」

 凝り固まった笑顔で言いながら男は封筒を差し出す。

「ご確認ください」

俺は、封筒を開き、中に入っている帯の付いた札束と数枚の札を数えた。

「しかし、もう少し簡単に痛めつけて連れてきて頂ければよろしいですからね」

「いえ、俺の趣味なんで」

「いえいえ、面倒でございましたらという意味合いでございます。そうそう、あれ、何やら小銭を持っていたようですがどういたしましょうか」

「いや、いらないですよ。汚らわしい」

「まあ、そうでございますよね」

「じゃあ、俺はそろそろ」

「ああ、お帰りになりますか。では」

 男は重そうな腰を上げてドアを開けた。そして玄関まで送り出す。俺が外に出ると男はドアから顔だけ出して会釈をした。

 まったく何度見ても窓際サラリーマン崩れのような気味の悪い人だ。

 少し歩いて駅前の少し明るい広場。俺みたいなのでも明るい場所のほうが安心する。

 今日は夕飯はいらないか、なんて思いながら比較的人の多い道を行く。

 通りに女の子を見つける。薄汚れて痩せている。

 一日で二人の孤児に会うなんて、運がいいな。俺は女の子にぶつかる。

「あ、ごめんなさい」

 女の子が言う。

「あ、いえ。そちらこそお怪我はありませんか?」

 なんてクサイ台詞を吐いてみたり。

 さあて、今度はどうやって釣ろうかな。

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