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【外伝】龍と宝石と毒2

こちらの外伝『龍と宝石と毒』は前の外伝『亡国の剣』ラストからシームレスに続いています。

「あれ? 突然シーンが??」と思った方は下記ラストあたりをちろっとご一読していただければ、より楽しめると思います。

しばらく間が空いていたのに繋がりのある流れですみません…(深くお辞儀)

https://ncode.syosetu.com/n2684dm/55/

「じゃあマジでレオン国王と銀龍カトラの依頼だったんすか!?」


 アーティアが訓練所から出ていき、衝撃の事実を聞かされたノアであった。


「この国でレオンとカトラといったら他にないだろう。大司教アーティアが嘘をつくはずもなし」

「そりゃそうですけど、そういうのは俺を下がらせてふたりで話してほしいっすよ。突然クッソ重たい荷物を背負わされたみたいでしんどいっす」

「徐々に慣らしてから背負う分にはいいのか?」


 文句が言い足りないという弟子をよそ目に、型演舞で流した汗をタオルで拭いながらハムは尋ねる。


「あのアーティアが同席を許した。ということをよく考えてみろ」


 同席を許された。ということは、その内容を共有したということだ。察しの悪い方ではないノアには十分伝わった。


「……俺。ぶっちゃけ興味アリアリっす。だって国王と古代龍のコラボ案件に関われるんすよ? アリよりのアリアリに決まってるじゃないっすか」

「アリよりのアリアリか――まあいい。俺が許可したといえば連れて行ってもらえるだろう。行ってこい」

「あざまっす!! 正直何をするかサッパリっすけど全力で行きます!」


 喜びを全身で力いっぱい表現するノア。ウォルスタ自警団の若手では五本の指に入る実力者でありながら、武張ったところがまったくない。それどころか軽いとすらいえるこの男を、ハムは気に入っていた。


「俺の鎧も持っていけ」

「マジっすか!? あざまーっす!!」

「貸すだけだぞ」


 と、自分のコレクションから鎧を貸し与えるくらいは気に入っていた。

 ハムが自分の鎧のみを集めたコレクションルーム。鎧ウォークインクローゼットにノアを呼び込むと、あらかじめ決めてあったのだろう。ひとつの鎧の前で立ち止まる。


「これを使え」

「紫色でかっこいいっすね!」

「名をグウェンインという魔法の鎧だ。使い方を教えておく。結論からいうとグウェンインは毒の鎧だ。毒を制する鎧といってもいいだろう。接敵した相手に毒を与え、毒や病魔から完全な耐性を得ることができる。銘はないので製作者の名はわからんのだが、俺の持つ武具の中にいくつか似たようなデザインのものがあり、これらが同一の作者だとするならば――」

「ていうか何でこの鎧なんすか? 宝石川あたりって毒持ちの魔物いましたっけ」


 毒鎧(グウェンイン)について得々と自説を披露する中、ノアはばったりと話を割り込ませた。ウォルスタ自警団の誰しもが、ハムのトークを中断する切れ味だけはあいつが一番だと認めている。


「――その鎧が一番死ににくいからだ。あとはカンだな」

「カンっすか」

「疫病の使い手のおかげでウォルスタは一度滅びかけたからな。その鎧は縁起がいいぞ」


 かつてペストブリンガーが攻めてきたときのことをいっているのだろう。あのとき、ノアも『黒死の振り香炉』の煙に巻かれて行動不能にさせられていた。防毒、防疫の効果がある魔法の品であれば、たしかに死ににくい。


「オッス。お借りします」

「うむ。だがグウェンインは触れた生物に対して猛毒を与えるから移動に気をつけろ」

「なんすかそれ! めっちゃ危険じゃないすか」

「半分呪いの(カースド)アイテムみたいなものだからな。使いようだ」

「俺はいいんですけど、そんな物騒な鎧を着ていったらアーティア姐さんにどつかれませんかねえ…」


 まるで沸騰したヤカンを扱うような手付きでノアは鎧を着ていくのだった。




「ボディガードとして連れて行ってくれ……ね」


 商業神神殿の客間でハムからの手紙に書かれた言葉を一読すると、ノアの全身を眺め回した。


「ボディガードの意味。わかってる?」

「オス! 丈夫さには自信あるんで!!」


(話が通じなさそうな若手を――)


 どこからどうツッコミを入れていいのかわからない。冒険者時代に仲間のリトルフィートの盗賊。ガルーダでさんざん悩まされたことであった。


「その鎧。知らずに着ているわけじゃないわよね。毒の鎧(グウェンイン)よ? 触たら毒にかかるのよ?」

「知ってるっす。ハム師匠からこれを着ていけって」

「……そう。ボディガードって誰かの身を守ることよ? わたしを守るのにいつも離れているつもり?」

「触らなきゃ平気だって話っす」

「………………」


(あのチビ助とは違った意思疎通の難しさが……)


 言葉遣いがタメ口なのは構わない。ハムに無理矢理従わされているわけではなさそう。そう考えれば、思考の道筋が読めないガルーダよりはマシなのかもしれない。

 アーティアは目頭をきつく押さえて自分に言い聞かせた。


「……そう。じゃあ知ってる? ボディガードって守る対象より強くないと――少なくともわたしの足手まといにならない程度の実力がないと駄目なの」

「オス」

「今からわたしが思いっきり殴るから、それに耐えられたら連れていってあげる」

「でも姐さん。素手でも武器でも鎧に攻撃が加えられたら毒がってハム師匠が」

「歯ァ食いしばりなさい――」


 低い体勢から一気に踏み込んでノアの懐に潜りこむと、地面を蹴る力と腰の回転力をたっぷり乗せた右拳が肝臓のあたりを打ち抜いた。


「――オ゛ッ」


 金属と肉体が高速で撃ち合わさる鈍い音とともに、ノアは客間の壁までふっ飛ばされた。


 アーティアはただの神官ではない。神官戦士だ。

 ハムにこそ及ばないが、今のウォルスタにいる冒険者の中で、一対一での殴り合いに勝てるものは五指といない。もしも神官としての魔法も使うのであれば、『倒されにくさ』ではアーティアこそこのユルセール王国の中でもトップクラスであろう。


(いい具合に入った。毒の鎧(グウェンイン)を着込んでいるなら死ぬことはないだろうから全力で殴ったけど――)


「姉さん……歯を食いしばれっていったのにボディ…… でも、マジでパない強さだったんすね……」


 壁に叩きつけられて倒れ伏したノアであったが、驚くほど早く立ち上がってきた。


「確かにボディガードいらないくらいかもっすけど、どうか連れていってほしいっす。自分、動物の足跡とか見つけたり山の中での行動とかめっちゃ得意なんで、邪魔にはならないと思います! おなしゃっす!!」


 そういってアーティアの足元で土下座で頭を地面につけて頼み込むほどだ。


(土下座って……メテオも何かっていうとすぐやってたわね)


 ノアのタフさに関心するとともに、古い友人の姿が重なってしまった。これではもう苦笑するしかない。

 なによりハムが黙って送り出してきた若者なのだ。


「丈夫なのはよくわかった。山に強いなら願ったりだわ。よろしくね」

「あざっす! がんばります――って姐さん。手は大丈夫なんすか!?」

「平気よ」


 ノアを鎧の上から殴りつけた右拳は紫色に染まっていたが、みるみるうちに色が失われていった。そして手首に巻いた銀色のバングルが一瞬紫色に染まり、それもすぐに消えていった。


「毒や病魔避けのバングル。毒や病を一定分量吸ったら《解毒/キュアーポイズン

》をかけてやると再利用できる優れものよ。ちょっと前に厄介な病気でうっかり死んだから、手を尽くして手に入れたの」

「スゲーっすね! 毒の鎧(グウェンイン)みたいっすね」


 冗談と思ったのか、さらりと死んだことを流した。むしろアーティアはそれを好ましく思う。


毒の鎧(グウェンイン)は完全無効化。さらに上位の魔法が込められているわ。あなたその鎧。さらっと着こなしてるけど、アーティファクトっていってもいいくらいの魔法の鎧なのよ。それ見つけたのはわたしたち流れ星(シューティングスター)なんだから感謝なさい――あと」


 客間の壁に掲げられていた商業神神殿の紋章が入った布を取ると、ノアの鎧をふわりと覆った。


「それは商業神の神官戦士が身につけるマント。入信しろとはいわないから、わたしと一緒に来るならそれを身に着けなさい。ハムも毒の鎧(グウェンイン)着させるならマントくらい渡せばいいのに」

「あ、あざ……ありがとうございます」


 マントをつけるためにノアの首に手を回すようにしたアーティアから、ほんのりとした石鹸の香りが鼻をくすぐった。女遊びにかけては割りと人後に落ちないノアであったが、ついどぎまぎしてしまった。


(よく見るとアーティア姐さんめっちゃ綺麗っすね……年上の女性……しかも大司教で聖女ってやつじゃないっすか。めっちゃ萌えるんすけど)


「あと、突然殴り飛ばして悪かったわ。《回復/ヒーリング》」


 じわじわと鈍い痛みが肝臓あたりにあったのだが、今までにないほど強力な《回復/ヒーリング》だ。それまでの塩対応から一転、ちょっと優しくされてしまいノアは頬を赤らめた。


「これが大司教の《回復/ヒーリング》なんすね……痛みが一瞬で消えたっす」


(商業神の信仰に目覚めてアーティア姐さんのそばで神官戦士。てのもイケてるっすね……)


「素手じゃなければ一撃で骨まで持っていけたのに」

「か、勘弁してくださいっす!!」


(あっ、ダメだ。姐さん、ハム師匠より容赦しないタイプっす)


 アーティアに他意はないのだが、期せずしてノアへの調教が済んでしまった。


「それで、あなた――ノアはどうしてわざわざ護衛をしたいと思ったの?」

「だって国王と古代龍のコラボ案件で、さらに大司教のおともっすよ。めっちゃアガるじゃないっすか?」


 浅い。アーティアが予想していたよりも遥かに浅い動機だった。


「……あなた、自警団よりも冒険者のほうが向いてるんじゃない?」

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