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死神さんと……ゲーム 後編

 背を向けるカタナの腰には、一振りの日本刀が横向きに括られていた。

 どこに隠していたのか、見るのは初めて逢った時と合わせて二度目だった。

 カタナは本体を持って戦う気なのかと、心配で声をかけた。


「カタナ、刀、刀」


「好きだからって、何度も呼ぶなよ」


 俺の言いたいことは伝わらず、勝ち気な顔でウィンクを返してくれた。

 そうじゃなくてと言った所で、レンズが俺の袖を引いた。


「あれでいいんです」


 レンズは横になったまま、付喪神の戦術パターン1を教えてくれた。

 それは一言で済んだ。


「自分を使います」


 簡単な説明に理解はしたが、納得は出来なかった。


「本体が攻撃されたら危ないだろ。どうして今、それで行くんだ」


 慌てる俺に、レンズは諭すように言った。


「カタナがなんと呼ばれているか、思い出して下さい」


 混乱する頭の中から、前にレンズから聞いた事を探し当てた。

 確か、死なずのカタナ。


「お兄ちゃん、ここからが僕達の作戦なんだから」


 クックが大丈夫と笑っていた。

 俺に出来るのは、信じて見ていることだけだった。




「あーあ、疲れた」


 カタナは緊張感の欠片もなく、首を曲げコキリと音を鳴らした。

 ノワールは顔を訝しげに歪ませた。


「これが最後のゲームです。用意は宜しいでしょうか」


「いいから、早くこいよ」


 優雅に一礼し、頭を上げると同時に後ろ手に持っていた鎌を投げつけた。

 鎌は回転しながらカタナの首を狙った。

 ノワールも身を屈め、鎌と同じ早さで距離を詰めてきた。

 カタナのかわした方向へ攻撃をするのが目的だった。


 カタナは鎌を避けなかった。

 右手は腰の後ろにある刀の柄を握り締めている。

 首に鎌が食い込み止まった。

 予想外の事にノワールは急停止を足に命じたが、慣性が邪魔をして止まれず、狙い済ましたカタナの肘をくらい吹っ飛んだ。

 そのままノワールを追い、鎌を胸に突き刺した。

 返り血が頬に飛んだ。

 カタナには油断も容赦もなかった。

 もう一撃を見舞うために、深く突き立った鎌を力任せに引き抜き、ノワールの胸と口から血が溢れた。

 振り下ろされる自らの鎌を、転がってやり過ごし立ち上がる。

 胸を押さえたノワールの目は、怒りで赤黒く染まっていた。


(アンチ・タナトス)なず……」


 呟き血塊を吐き出し膝をついた。


「あら、バレたか。レンズは有名だけど、俺の事は知らなかっただろ」


 鎌を片手に膝をつくノワールを見下ろす姿は、どちらが死神か解らなかった。


「途中でルールを変えられたら困るからな。弱ってるフリをしてたんだよ」


 カタナには死神の力は効かない。

 この付喪神の力を半減させるフィールドも、例外の1つにはなれなかった。

 そして、みんなの作戦とは、レンズとカタナで2勝すればよし、仮にレンズが負けてもゲームなんて知るかと、カタナが1人で全員を始末するという物だった。


「卑怯者。こんな勝ち方が望みですか」


 カタナがカラカラと笑った。


「お前にどう思われてもいい。ゲットを守れるなら、俺はなんでもいいからな」


 ゲームオーバーだと言い、鎌を振り下ろした。

 鎌は空を切り、地面に深々と突き刺さった。

 どうやって移動したのか、ノワールは妹達の側にいた。


「契約が果たされないと判断し、これにて、ゲームを終わりに致します」


 人差し指を優美な動きで右から左へ滑らせた。

 カタナの手に有った鎌が形と色を失い、代わりにノワールの手に現れる。

 もう一度、同じく指を胸の傷に滑らせる。

 傷は鎌と同じように色と形を失い消えた。


「なに勝手な事を言ってんだよ」


 消えた鎌の事など、気にも止めず吠えた。


「契約では、先に2勝した方が勝ちだと申しました。私と貴女、どちらが勝っても契約を履行される事は不可能です」


 口元に手をあて嗤った。

 ノワールの詭弁に、この場の全員が口を揃えた。


「は?」


 俺達だけじゃなく、コクまで一緒だった。

 なんとも言えない空気にキョロキョロと周りを見渡し、あたふたと鎌で円を描いた。


「と、とにかく、もう終わりです。決して勝ち目がないからでは、ありませんからね」


 ここにきた時と同じように、紫の光が広がり、元の部屋に戻された。

 3人の死神の姿はどこにも見えなかった。


 ええと、屁理屈を言って、逃げましたね。


「こんなの、アリかよ」


 カタナは歯ぎしりをして悔しがっている。


「私とクックの戦いの意味……」


 レンズはおでこに手を当てている。


「がんばったのに」


 クックは、はぁ、とため息ついた。


 死神さん達とのゲームは、無効という形で幕を閉じました。

 可愛いけど、とってもズルい死神さん達でしたね。



 レンズとクックの治療をしようと包帯や薬を持ってくると、衝撃の場面と出くわした。

 カタナがレンズの服をはだけさせ、薄い胸に顔を埋めていた。

 バレるので、隠れて声だけ聞いてみる事に。


「あっ、もっと優しく……」


「うるせえな、俺の好きなようにさせろよ」


 とってもドキドキします。

 でもでも、女の子と女の子ですよね。

 ♀と♀ですよね?


「そんな乱暴にしたら、ダメっ……」


「こっちの方がいいだろ」


 新しいなにかが押し寄せてきて、流されそうです。

 はぁはぁしながら聞いていると、服の裾をクイクイと引っ張られます。

 今いいとこなので、後にして下さい。


 はぁはぁ……クイクイ……はぁはぁ……クイクイクイクイクイクイ。


 集中が出来ません。

 振り返ると、クックが寂しそうな顔で裾を掴んでました。


「お兄ちゃん、ムシしないで」


 その声に、カタナとレンズも気付いて怖い顔で睨んでます。

 どうしたらと考える前に、リモコンが飛んできて顔にめり込みました。


「見てんじゃねーよ」


「わわわ、いいいつから」


 指を立てるカタナに、慌てて胸元を隠すレンズ。

 土下座をして謝ってから、なにをしていたか聞きました。


 死神の鎌で負った傷はとても治りが遅く、痛みも酷い。

 それは、死神特有の力で、死痛(タナトス・ペイン)といった。

 カタナの力で、死痛(タナトス・ペイン)を無効化しているとの事だった。


 カタナさん、口で傷を……してましたね。

 とってもドキドキな治療なんですね。

 ええと、俺も怪我をしたら、やってくれるのでしょうか?

 妄想が広がります。


 傷を負った、ある一部をカタナが……


「怪我をしたいのですね?」


「お兄ちゃん、どこがいい?」


 レンズとクックの顔は笑ってるように見えますが、凄まじく目が怖いです。


「んなの関係なくしてやるよ、ほら出せよ」


 誘うような目で唇をゆっくりと嘗めるカタナさん、とってもセクシーです。

 ありがたいお言葉なんですが、レンズとクックの目が怖すぎるので遠慮しときます。


 その後、カタナとレンズは下品だなんだと喧嘩をして仲良くダウン。

 クックも疲れたよと言って、すやすやと夢の中へ。

 寝ているみんなに、お疲れ様と言って毛布をかける事で、今日はおしまいに。



 始めて見た命を賭けた戦いに、眠れずに1人でベランダに出て月を眺めていると、レンズが隣にやってきた。

 そして、寝物語にとネロの言っていた、チャルナという死神の事を教えてくれた。


 チャルナはとても強い死神で、空間移送(シフト)の力を使う上位の死神だった。

 レンズから逃れ得た、数少ない死神の1人。

 ノワールが鎌を移動させたり、胸の傷を消していたことを思い出す。


「3人にそっくりでした。忌々しい胸に、片眼鏡(モノクル)から覗く赤い目と口元の白い牙。あの時、止めを刺しておけば、娘を生む事もなかったのに」


 レンズが悔しそうに俯いた。

 俺は首を振ってレンズの肩に手を置くと、ふらりと揺れ俺の胸に顔を預けた。

 今回の戦いにおいて、一番ダメージを負ったのはレンズだった。

 すみませんと言い、離れようとするレンズを優しく引き寄せ抱き抱えた。


「お姫様だっこ……。今日は、夢が2回も叶いました」


 幸せそうに笑うレンズは、閉じようとする瞼と必死に戦っていた。


 これが、逆だったらと考えてしまう。

 戦ったのが俺で、囚われのレンズを救ったというシチュエーションが頭を駆け巡る。


「こら、これ以上ライバルを増やしたくないですよ。でも……嬉しい……です……」


 そう言って、目を閉じ体から力を抜いた。

 どうやら、心を読まれたようだ。

 なんだろうな、きっと、お姫様を助ける騎士ふぇちかな。

 いつもは凛としたレンズの無防備な寝顔が愛おしくて、唇を重ねたくて仕方なかった。

 でも、フェアじゃないような気がして止めておいた。

 レンズを部屋に運ぶと、カタナがわざとらしく寝返りをうった。


「今日だけだからな」


 毛布を頭まで被り、ぶっきらぼうに呟いた。


「ぐーぐー」


 クックは寝てるフリをしてくれている。

 レンズを布団に寝かせ、ありがとうと言って部屋のドアを閉めた。



 さて、1つ考えなければいけない事があります。

 ノワールさんが傷付けたフローリングをどうしましょうか。

 大家さん、きっと怒りますね。

 それは、また明日考える事にします。

 とりあえず学校もあるので、3人の付喪神さんに沢山の感謝をしながら布団に入りました。



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