表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/112

患いと……煩い 5

 グリムが男の子と解り、みんな驚いてはいるけど、安堵の気持ちの方が強かった。

 なぜなら、俺にはBLの趣味が無いことを知っているからだ。

 裸を見られたと騒いでいるレンズに、そういう目的ではないからと納得してもらい、なんとか楽しい空気に戻れた。



「なんの話だっけ。ああ、ピザの味見だ」


 お願いと手を合わせるカタナに、レンズもクックも続いた。

 よっぽど食べたいのか、みんな引き下がらない。

 うーと唸って、グリムが俺に助けを求めてくる。


「ゲットー。あげたら、ボクのピザ減っちゃう。面白くないよー」


 大切な物を守るようにお皿に覆い被さり、困った顔をしてる。

 とんでもない可愛らしさだけど、グリムは解ってない。

 もっと、美味しく食べる方法があることを。


「また作ってやるから、な。それにな、みんなで食べた方が、もっと美味しいよ」


 俺の顔をじっと見つめて、ウソは言ってないと思ったのか、オズオズとお皿をテーブルの真ん中に押してくれた。

 

「ちょっとだよ、いっぱいはダメだからね」


 みんな遠慮しながら、ほんとに少しだけピザを取って口に運んだ。

 すぐに、ヤバいとか、なんですかこれとビックリしてる。

 その様子を見て、グリムは嬉しさを噛み締めるように笑った。


「くふふ、面白い。ゲットがボクのタメに作ってくれたの美味しいって」


 足をバタバタさせて、もっといいよと勧め出す。

 さっきは減るからとイヤがっていたのに、食べた時よりもイイ顔をしてる。


「ゲット、ゲット。ほんとだね、みんなで食べるの面白い」


 なんて素直なんだろうか、優しく頭を撫でて、みんなで楽しく食事をした。



 食べ終わると、みんなの顔色が良くなっている気がする。

 洗い物をしながら聞いてみると、かなり楽になったらしい。

 やっぱり、病気の時は栄養を取るのがいいよなと言うと、クックが真っ先に違うと首を振った。


「お兄ちゃんの気持ちがね、元気にしてくれたの」


 そっかと上機嫌で返して、自然と鼻歌を口ずさみ洗い物を終わらせた。


 みんなを寝かせる前に、グリムと一緒に体を拭いてあげた。

 もちろん、目を閉じると約束済みだ。

 カタナを拭いてる時は、見てはいないけど、なにかに手を挟まれたりで、とてもドキドキだった。

 レンズは、背中と前がよく解らなくて、弱々しい力で殴られた。

 クックはグリムと一緒に、くすぐったいとドタバタしていた。

 みんな、俺のトランクスとシャツというスタイルで、違う意味で顔を赤くしながら床に着く。

 眠そうに瞼と戦うみんなに、おやすみと言って、明日にはもっと良くなってなと願いを込めて、寝室のドアを静かに閉めた。


 リビングに戻ると、グリムがお風呂に入りたいと言ってきた。

 どうぞとお風呂を沸かしてあげると、一緒に入ろうと腕を絡ませてくる。


「あらいっこしよ。面白そう」


 うーん、同じ男だけど、これはアリなのだろうか。

 それに、グリムは本当に男なのか、いまだに半信半疑だ。

 いざ入ってみて、やっぱり女の子でしたでは、通報されかねない。


「マジで、男の子だよな?」


「信じてないの、面白くない」


 プイっと横を向いて、いそいそと服を脱ぎ始める。

 お、おいと動揺しながら見ると、少し、いやかなり残念だけど、見慣れたアレがあり、ほんとに男の子のようだ。

 恥ずかしさはないのか、生まれたままの姿で脱いだ服をテーブルに置くと、ガラスの小瓶がカラカラと音を立てて転がった。


「上がったらさ、これ飲もうね」


 たしか、買い物をしてる時に聞いた、神薬甘酒(ソーマ)だったかな。

 よほど美味しいものなのか、自慢げに小瓶を振ってテーブルに置いた。


「ほら、いこ」


 まだ迷っている俺の手を取り、お風呂場に引っ張られる。

 どうしようと悩んで、まあ大丈夫かと、一緒に入ることに。

 グリムとは違い、俺は恥ずかしさでいっぱいで、どうしてもタオルで隠してしまう。


「なんで隠すの、面白くない」


 そう言われてもと困りながら、シャワーを適当に浴びて湯船に逃げた。

 すぐにグリムも入ってきて、バスタブから溢れたお湯が逃げて行き、排水口がもったいないとゴボゴボと飲み込んだ。

 狭い浴槽に2人で体をぶつけ、肩まで浸かると、グリムは気持ち良さそうに力を抜いて、お湯に身を任せた。


「くふぅ。オフロ面白い」


 ゆらゆらと揺れるお湯に、目を閉じたまま口を動かしてる。

 なんとなくという理由で、下を見ないでいるせいか、女の子と入ってる気しかしない。

 落ち着けよと、もう1人の自分に言い聞かせていると、頬をほんのり上気させたグリムが半分だけ目を開けた。


「ゲットってさ、いっぱいウワサがあるけど、ほんとなの?」


 どんなウワサと聞くと、また目を閉じて教えてくれた。


「笑ったらお金をくれたとか、(ドラゴン)ころしの勇者様だったり、統治者(ロード)の1人と仲良しだとか、深淵(アビス)狩手(ハンド)のリーダーと結婚したとか。スゴすぎて面白いよね」


 最後のやつ以外は、信じられないかもしれないけど本当だ。

 それと、ウワサを流してるのは誰かハッキリ解ったよ。


「それさ、誰から聞いた。ベルじゃないか?」


「だれそれ、しらない。あとさあとね、1番ウソっぽいのが、死神殺(キル・タナトス)しにガードされてるって。すっごく怖い人みたいで、みんな怖がってた。どんな人なんだろね」


「結婚はしてないけど、あとはだいたい本当かな。あと、これだけは解って欲しいんだけど、レンズは怖くないぞ。すげー優しいんだ」


 俺の言い方が気に食わなかったのか、レンズって誰と、目を細め口を真一文字に結ぶ。

 その目には、嫉妬がアリアリと込められていた。


「は、さっきから一緒にいたろ。メガネかけてる人だよ」


「ウソだー。あんなヌルヌルの人が死神殺しなワケない。ウソは面白くない」


 もっともだけど、もはや説明のしようがない。

 別にムリに信じてもらう必要もないか。

 だけど、これだけは伝えたい。


「あいつさ、ヌルヌル好きだけど、ほんとに優しいんだ。レンズだけじゃない、カタナもクックもな。だからな、命を狙われまくってるのに俺は生きてるんだ」


 急にお湯をかき分け身を乗り出し、顔がぶつかる寸前まで近付け、じっと俺の目を覗き込んできた。


「ウソは言ってないね。いいよ、信じてあげる。くふ、あらいっこしよ」


 ザブンとお湯と共にいきなり立ち上がり、目の前に見慣れたものが。

 グリムは気にする風もなく、バスタブを出て俺に背を向けバスチェアに腰かけた。


「ゲットは髪をシャカシャカする係。ボクは目に入らないようにする係」


 ほんとに、どうしようか。

 グリムの後ろ姿は、ゆるくカーブを描くような線の細い女の子の背中にしか見えない。


「なにしてるの、楽しいこと待ってるんだから早くして」


 楽しいことってなんだ、この先に一体なにが待っているのか。

 落ち着け、変な目で見るなよ俺。

 頭を洗うだけだからなと、バスタブから出ずに、手を伸ばしてシャンプーをしてあげる。


「うー、とおいよ。こっちきてよ」


 それは、ムリなんです。

 こっちにも、色々と複雑な事情があるので。

 そのまま、うーとか、くふーというのを聞かないように、コンディショナーまで終わらせることができた。

 どういうワケか、俺の息は相当に上がっている。

 変な気を起こさずにやり遂げたと、下を向いてお湯に映る自分を褒めてあげたい。

 だが、次が難関すぎて越えられるかと自分に聞いていると、なにやら粘つく音が。


「くふふ。トロトロ。メガネの人が言ってたとおり」


 背を向けていてよくは見えないが、洗面器に手を入れて、なにかを混ぜている。


「あの、なにしてんの?」


「ローションだよ。メガネの人にもらったの。体を拭いてあげたお礼だって」


 これは、あとでレンズにお礼を言わなければならない。

 いやいやいや、違うだろ俺のバカ。

 レンズのせいで、難関の上に最大と付いてしまった。

 俺は法を犯さずに、キレイなままでお風呂を出られるのか。

 答えは出せず、グリムが無邪気にローションを混ぜる音だけが、狭い浴室に響いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ