不安と……死神殺し 10
「俺さ、信じられないかもしれないけど、昔は自分の事をあたしって言っててよ、その時は、すっげー臆病だったんだ」
俺もクックも、それは知っている。
なぜか、すんなり信じる俺達に、驚きながら知ってるのかと聞いてきた。
「ああ、レンズの記憶を見たんだ」
「そっか。じゃあ、隠す意味ないな。俺さ、レンズが大好きだったんだ」
それも、もちろん知ってる。
「好き過ぎて、告白ったんだ。まぁ、結果はフラれたけどな」
いやいや、それは知らないんだけど。
うーんと、クックは頭を抱えている。
俺とクックの様子に気付いてないのか、幸せそうな顔でグラスを傾け、続きを聞かせてくれた。
昔は付喪神はたくさんいた。
気の合う仲間が出来た事もあった。
だが、死神にやられたり、持ち主に会えないと絶望して、みんな消えて行った。
いつだって、最後は1人になった。
孤独に怯えながら、好きな人を探す旅の途中で、レンズと出会った。
それからは、本当に世界が変わった。
こいつなら、好きな人も一緒だし、消えたりしないと思えた。
きっと、それはレンズも同じだった。
どうにかして、側に居たくて気に入られたくて、色んな事をした。
いつも、戦って服をボロボロにして帰ってくるから、指を針山にしながら裁縫を覚えた。
美味しい物が食べたいと言ったから、した事もなかった料理を勉強した。
もっと綺麗になりたいと鏡を見ていたから、必死に腕を磨いて化粧をしてあげた。
今の自分が出来る事は、全てレンズの為にと得たものだった。
そうしてる内に、レンズが大好きになっていた。
いつしか、気持ちを抑えられなくなり、受け入れてくれると信じて、想いを伝えてみた。
結果は、レンズを困らせ、酷く落ち込ませてしまった。
レンズにとっても、大切な存在になっていたせいで、受け入れなければ失うと考えているのが、手に取るように解った。
すぐに、冗談だと誤魔化したが、真剣な気持ちが解らない訳がなく、レンズは泣いてしまった。
自分と同じで、1人になるのが怖いんだと思えて、お互いに側に居るだけでいいと約束をした。
「あいつさ、同性からの気持ちとかを、メチャクチャ怖がるだろ。あれ、俺のせいなんだ」
今は違うからなと強めに否定をして、グラスのお酒を飲み干した。
それで、レンズは失う怖さを味わって百合がトラウマにと、納得がいった。
頭がこんがらがっているクックは、お茶を一気に飲んでいた。
「僕、それ、知らなかったんだけど……」
クックの言った言葉に、カタナが凍りついた。
とんでもなく長い間が空いて、急にカタナが立ち上がった。
「は、お前ら、なんの記憶を見たんだよ。ハメやがったな」
「いや、勝手に喋ってたじゃん」
「ざけんなよ、てめえら」
怖い声のカタナに、俺とクックは胸ぐらを掴まれた。
「だったらよ、途中で止めろよ」
ガクガクと頭を揺らされて、忘れるか、忘れさせてやるか選べと言うので、俺もクックも前者を希望した。
「マジで、ハズい」
俺達を放して、恥ずかしさからか、次々とお酒を煽り出した。
まだ揺れている頭で、クックがそうだと、レンズに聞いていた事を思い出した。
「ねえ、2人のさ、言葉使いが変わったのはいつかな?」
そういえば、レンズの答えの途中だった。
「あー、まあ、ついでだ。教えてやるよ」
これは、いい記憶なのか、不機嫌そうなのは言葉だけで、微笑みながら教えてくれた。
レンズは博打が好きだった。
2人で必死に稼いだお金を、倍にしてくると言っては、いつも負けて帰ってきた。
負けるのは解っていたのに、待っている時間が大好きだった。
なぜか、待っている時は、必ず右手が温かく感じて、確かめようと頬に手を置くと、レンズの気持ちが伝わってきて嬉しかった。
勝ったら、カタナに服を買ってあげよう。
美味しい物を、たくさん食べさせてあげたい。
化粧品に、アクセサリーに、全部、カタナにあげようと。
そう、レンズが誰の為に勝ちたいと思っていたかを知っていたから、待っている時間が、とても幸せだった。
だけど、1回だけ大勝したいと言って、旅をする足を止めた事があった……
「それでな、俺がレンズをダメにしてると気付いたよ。それから、俺が強く止めるようになって、レンズが機嫌を取るみたいに謝るようになった。でさ、いつの間にか、俺がこんな感じになって、レンズが丁寧な口調になったんだ」
この話は、笑えばいいのか、泣けばいいのか判断が難しい。
クックは泣いてるけど、カタナは笑っている。
まあ、どっちでも取れる、2人のいい思い出には違いない。
ほんとに2人は、色んな事を乗り越えてきたんだと、羨ましいというのが素直な今の気持ちだ。
「あーあ、喋り過ぎたわ。これ最後な、レンズは、なにがあっても、一緒に居たい奴だ。はい、おしまい」
お酒をグラスじゃなく、瓶をラッパ飲みで傾けた。
それは、俺もクックも同じだった。
レンズは敵が来ないと自分の意味がないとか、意味不明な不安を抱いてるけど、明日にでも、ガッツリ解らせてあげよう。
一緒に居るだけで、いいと。
だよなと、同意を求めましたけど、お酒を一気で飲み干したカタナがぶっ倒れていて、クックが羨ましいと寝言で返事をしてくれました。
まあいいかと、2人の寝顔を堪能してから、布団に寝かせてあげました。
もちろん、寝室にいるレンズの寝顔も楽しみました。
今日は、色んな思い出に浸りながら、割れた窓の事は明日にして布団に入りました。